後宮へようこそ ⑭
そして、最初の状態に戻る。緊張しながらお茶をすすり、周りの様子をうかがう。時折、緊張をほぐすために条雅が菓子を差し入れてくれた。
また、一通りあいさつを終えると、何となく人となりが分かった。
とりあえず、ガザル王国のティウはわがまま一杯に育ったお子ちゃまだった。でも、その分性格はまっすぐそうである。そして、見た目は極上であった。
ヌオク国王弟のノル=シヌハークは爽やかという言葉が似合う。王子様というより、そこ辺の街にいるお兄ちゃんという感じの気さくな青年だった。体を動かすのが好きだといっていたし、普通に友達になれそうだ。
最初に挨拶してくれたカマル=ファルシャード・キュロスはなんだかこの状況を面白がっているようだった。ほかの候補者に比べてギラギラしていない。ぶしつけな王子様に嫌味を言ったかと思えばさりげなくほめたりして、よくわからない人だ。こっちの反応を楽しんでいるんじゃないかと思う。
シウォンパム王の孫だというサゴン・パルリョンは、初めて会った時とだいぶ印象が違った。あの時は理知的に見えたのだが、何というか、ものすごくぼーっとした少年だった。どうやら人の顔を覚えるのが苦手らしく、認識してくれたのかすら怪しい。ちなみにサゴンが家名でパルリョンが名前らしい。
一番驚いたオネエ言葉のジェムこと庚志賢だが、どういう経緯かは知らないが彼は芸妓を置く店で育った様なものらしい。だから、女言葉の方が楽なのだそうだ。男らしい見た目にそぐわずキャラキャラした華やかな青年だが、その瞳は油断ならない光に満ちていた。だが、ティウを軽く諫めたり、サゴン・パルリョンを促したりと、面倒見はよさそうである。
同い年の緑白嶺は石家の跡継ぎ娘と緑家の当主との間に生まれた妾腹の子らしい。このキラキラしい環境にわたしと同じく気後れしているらしく、若干おどおどしていた。だが、ほっとする雰囲気の少年である。薬学や医術の話に及ぶと急に生き生きとしていたから、専門分野には強いらしい。
しかし、婿にするのにどんな基準で選ぶんだろうか。今のところ、自分の生涯を共にしたいと思う相手がこの中にいるとは思えなかった。
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「お前、なんだか固まっていたが、大丈夫なのか?」
割り当てられた部分に行き、遮音もする結界を張ると条雅がそんな風に言った。因みに黒隊長は居間の前で警備をしている。さらに部屋の前には後宮付きの宦官兵が立っているはずだ。
与えられた部屋は一般市民だったら一家で住めそうなものだった。確か、西大陸の集合住宅がこんな感じだった。入口のわきに侍従や護衛が過ごす二つの部屋があり、その後ろに便所と小さな厨がある。その奥に居間があり、さらにその奥に私の部屋となるものがあった。
「もー、煌びやかすぎて、心臓に悪いよ。顔だけなら父上で慣れているけど、空間とか、服とか、もう…。壊しそうで怖い」
「なんだ、そっちか。確かに、叔父上の屋敷は質実剛健だったものな。お前、がさつだから、気を付けろよ」
「うん、心臓に悪くて」
身の回りにあるすべてのものがキラキラしいのだ。皇太子宮にあったもの質は高いが地味目のもので、最初はドキドキしたが慣れた。だが、こっちのものは慣れるのだろうか。
「まあ、いい。それより、皇太子…いや、至虹様の痕跡は何か見えたのか?」
「ううん。だけど、この後宮、なんだか変だ。もやもやするっていうか、とらえどころがないっていうか。そうだな、薄い膜が幾重にもなってるみたい。この間、入ったときは特に意識もしてなかったけど」
巧妙な仕掛けだ。ごくごく薄い膜を丁寧に張り合わせているような感じで、よく見ないとわからない。だが、何らかの術が施されているのは確かだ。
「ふむ。わたしはそういうのに疎いからな。実務の方ならば役に立てるのだが」
もどかしそうに条雅が言う。彼は努力の人なので、自分がどうしても役立てないことがあることが歯がゆいのだ。
「私も見えるって程度で、そんな力はないよ。どっちかって言うと武術中心に育ったから、魔力の扱いはそんなに得意じゃない。でも…」
「でも?」
数日のうちに来るという、ジョルトのことが頭に浮かんだ。あの、神秘的な容姿。優雅な物腰。無性に懐かしかった。皇太子になる前のつながりは、これから条雅とジョルトだけだ。
「ジョルトなら、ジョルトならわかるかもしれない。神官なんだ。それに、魔術師でもある」
神官の資格を持つ魔術師。ジョルトは魔術に関する専門家であった。




