後宮へようこそ ⑧
爆弾発言に驚いたが、話を聞いてみると、どうやらわたしの皇太子正式就任が問題であるようだった。父が未婚の状態でいると、貴族界の力関係的に面倒くさいらしい。
実は、わたしの出身である朱家はそれなりに立場が高い。
わが国には八大貴族というものがあり、白、黒、茶、朱、黄、緑、青、紫が現在の八大貴族だ。以前は十二あったらしいが取り潰されたり変動したりした結果、現在の八家となった。その中でも筆頭が黒と紫である。
祖父が現在当主なのだが、若いころは官人として宮中に出入りし、現在は商売人でもある。他国に対して影響力があるうえに、この国でも有数の資産家だ。
父と祖父の仲があまりよくないので、会ったことはあまりないが。
一方、父は父で北方守護伯という、身分階級を関係なしに宮中で力を持つ立場を持ち、元王配の一人。万が一にも父が再び後宮に入ることがあってはこのバランスが崩れるらしい。
分家だったらまだよかったらしいが、我が家は主家だ。
「どなたと結婚されるのですか?」
結婚するとなればわたしの継母となるわけで、何となく微妙な感情になる。もはや一緒に暮らすことはないからもういいといえばいいが。
「ああ、それは私の意思に任せるそうだ。不幸中の幸いだな。
いっそのこと平民と結婚してくれと言っていたから、この際、背後関係は考えずに好きな相手を選ぼうと思っている」
鼻白むように父が笑う。思ったよりも母に対して怒っているらしく、今日は珍しく表情がよく動く。
どういう状態で両親があったのかは知らないが、父が母に対して男女の機微を見せたことはほとんどない。むしろ上司と部下だったように思う。
そんな父が好きな相手を選ぶというのだから、まあ、複雑だが良しとしよう。母もそこまで鬼ではなかったということだろう。
都に呼び寄せられてからというもの、わたしの母に対する心情は親子の情を離れたものとなってきていた。
「ところで、嘉瑶。お前もそろそろ婿選びだそうだな」
「あー…、はい」
ぐだぐだ考えていると、父の声に現実に引き戻された。
そう、明日の午後は婿選びで大量の絵姿と身上書に目を通さねばならないのだ。その後、内定している者(なんと、複数いるらしい)とわたしが絞った者から更に厳選され、後宮に集められる。
品評会じゃあるまいし、と言いたかったが、実際に多様なものなのかもしれない。
「少々、面白い仕掛けをしておいた。安心して望め。お前はその中から好きな相手を一人だけ見つけろ」
その言葉に条雅と二人顔を見合わせた。
前日の父の発言の意味は次の日にすぐわかった。
「殿下、次はこちらでございます」
蒼夫人の立会いの下、何十人もの絵姿と次から次へと見て嫌気がさし始めたころ、条雅が笑いをこらえるような表情で差し出してきた。
差し出されたのはエサク出身の若者。すんなりとした姿態に、中性的な美貌が目を引く。瀧のような銀糸の髪が肩から腰にかけて流れており、瞳は珍しい紫色だった。白のゆったりとした服装はエサクの神官のものだ。
「名前はレヒネル・ギレト・ジョルト。エサク王弟の一子とあたりますわね。おまけにギレト神族の直系ですって。お母様がギレト家次期当主とありますわ。中性、とありますが御子さえできるのであれば関係ありません! 素晴らしいですわ、ギレト神族だなんて! これは絶対に残すべきです」
蒼夫人が興奮しながら話しかけてくる。早い話、わたしの相手は男性機能さえ有していれば構わないので、その点さえ問題がなければすれば中性でも構わない。
ギレト家は皇家と並ぶ古い家だ。皇家同様、神の血を引くとされている、かつては東大陸に三ついた神族の唯一の生き残り一族である。だが、王族と異なるのは、神族は特殊な力を持ち、寿命も大きく異なるところだ。
釣り書きの内容を聞きながらわたしの心も、蒼夫人と同じように躍った。
―ジョルトが来てくれる!
「そうですわね、蒼夫人。この方はとっておきましょう。条雅、そちらに取りおいて頂戴」
「かしこまりました。殿下」
芝居がかったほど恭しく、彼がジョルトの絵姿と釣り書きを受け取る。そして、悪戯っぽくこちらに視線をよこして見せた。
「エサクといえば、姫様がいらしたのもエサクでしたわね。面識がおありになりまして?」
「……ええと、あったことがあるような気もいたしますけれど、人違いのようですね」
何となく、知らないふりをしていたほうがいいような気がしたので、そのように答えた。




