亡くなった彼女の友達からの誘惑と、その対処
僕と律子さんは、楓の実家に一時間くらいはお邪魔していただろうか。
帰って来る途中に彼女は車の中で、
「ウチ寄ってけば?」
と、言いながら笑みを浮かべていた。
そう言われ、僕はどういうつもりなんだろう?と思ったので、
「何か、僕に用事あるの?」
相変わらず笑顔を見せている。
「たまには二人でゆっくり話しでもしようよ。車の中ではあまり喋れなかったし」
僕の頭の中には、既に別の事が浮かんでいた。
それは、窪田への連絡だ。
そう考えていると、律子さんはいきなり、
「あ!また考え事してるでしょ?顔見りゃわかるよ」
「え!」
と、僕は思わず声を上げてしまった。
「そんなに表情変わってるかなぁ?」
「慎吾君はね、何か考えてる時、無表情になるの。自覚してる?」
「いや、してない。初めて言われた」
僕は苦笑いを浮かべた。
「楓にも言われた事ないの?」
「…うん、正直、ないね」
律子さんは、今度は満足気な顔つきになった。
コロコロと表情の変わる人だな、と思った。
今までは、楓を真ん中に挟んで道を歩いてたりしたから、こんなに感情が豊かな女性だとは思わなかった。
「んで、寄ってくんでしょ?」
と、押しの強い律子さん。
今までとは僕に対しての接し方が違う、こういう女性だとは思わなかった。
「わかった。でも、少しだよ?僕も用事あるし」
助手席にいるこの人は、もしかしたら、本当にもしかする。
それにしても律子さんは不謹慎な人かもしれない。
楓は僕の彼女だったということを忘れているわけでもないだろうし…。
そう考えると、若干、腹がたってきた。
会話が多かったせいか、もうすぐ律子さんのアパートに着く。
そして、駐車場に車を停めて、降りた。
目の前にあるドアを律子さんは開けてくれた。
「さあ、どうぞ!入って」
「お邪魔しまーす」
部屋の中に入ってから、
「慎吾君」
と、呼ばれたので後ろを振り向いた。
振り向きざまに僕は唇にキスをされた。
僕は驚いてしまい、すぐに離れた。
「ど、どういうつもりだ!」
僕は動揺してしまっている。
「ここまできたからには白状するけど、私ね、慎吾君が好きなの!!」
予測はしていたものの、こうもはっきり言われると、身じろぎする。
だが、僕はすぐにこう言った。
「僕がまだ、楓を忘れてないってことくらいわかるだろ!?」
「だけど、残念!その楓はもういません!」
「はあ!?何だ、その言い方!」
僕は頭に来て、律子を突き飛ばすように無理矢理どけて外にでた。
そして、すぐに車に乗り僕は急発進で発車させた。