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切先の向かう異世界  作者: 緒方あきら
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第五十四話 門前の騎士

 火矢を実戦で扱うのは初めてだったが、まず最初の一矢はうまく着火に成功した。

 鏡花は必死だった。

 バルコニーから見渡す限り、ゴブリンは二十匹以上はいる。持ってきた矢は全部で八十本少々である。足りるかどうか、かなり怪しいところであった。


 だが、ここで温存する事に意味はない。

 眼下の化け物たち目掛け、次々と矢を射かけていく。素早く動くゴブリンたちを捕らえるのは一苦労であったが、アルコたちが放つロケット花火がかなりの効果をあげている。

 音に驚き立ち止まるゴブリンに狙いを合わせ、弓を引いていく。


 横ではアルコやルシーが、ロケット花火を着火し続けている。

 手に布を巻き、火傷をしないようにしながら狙いを定め、手持ちで次々と着火していた。矢筒に入れたままでは抜き出しにくい、布を巻いた矢を壺に立てかけ、すぐに抜きやすいようにサポートもしてくれていた。

 そこにレイムーンも駆けあがってくる。


「やってるねぇ。入り口のやつ持ってきたよ。これ使って」


 片手に木組みの篝火の台座を運んできた。すぐにそこに火が灯される。

 ここに布を巻いた矢を入れれば、ライターで着火する手間も省けるということか。花火も点火しやすいだろう。


「今のところ、うまくいっているわね」


 自身も矢を構え、立て続けに放ちながらレイムーンが言う。

 鏡花も次々と矢を射かけながら頷いた。

 眼下では戒斗が援護を受けながらうまく立ち回っている。


「ええ、でもロディさんは?」


 門の前で戦っているロディを、身を乗り出して見る余裕が無い。

 あったとしても、鏡花の長弓は真下には射る事が出来ないのだ。


「ロディさんはゴブリン、ええと、五匹と対峙しています! まだ数は増えると思います」


 下をのぞき込んだアルコが答える。


「村の皆は使えるものがあったら、ロディの邪魔にならない程度に援護して! 鏡花、あたしらはまずこっちを片すよ!」

「わかったわ!」


 前線から視線をそらさずにレイムーンが言った。

 弓を引く。

 しっかりと構え、狙いを定め、放つ。

 何度も何度も訓練してきた動きを、忠実にひたすらに繰り返す。

 この矢の先に、村の平和がかかっている。鏡花はかつてない程の集中力を発揮していた。花火の罠の傍をゴブリンが動いている。

 布を巻いた矢を取り出し火を付ける。


 距離が遠い。

 弓を思い切り引き絞る。

 弓を支える左手が、火矢に熱される事も構いはしなかった。

 呼吸を整え、放つ。寸分たがわず矢は罠の位置に突き立った。


 数秒して、火花が噴き出した。戒斗が駆けこんでいくのが見える。

 それを取り囲もうとした数匹のゴブリンに、ロケット花火とレイムーンの矢が打ち込まれた。


 連携はうまくいっている。アルコやルシーも慣れない花火をなかなか良い位置に打ち込んでくれている。

 これならば……。

 そう思った時、村の門の奥に、こちらに迫りくる大きな二つの影が見えた。


「そんな……! あれ、まさか!?」


 突如現れた二つの影。

 そのうちの一匹。

 頭は大きくくぼみ、その肩と足には見覚えのある長い矢が突き立っていた。

 あの、ルシーを助けた夜に放った二本の矢……。

 あの時のゴブリンが今、ホブゴブリンとなり鏡花たちの前に現れたのであった。レイムーンと鏡花が同時に身構える。バルコニーの奥、裏口の封鎖したドアが破壊されていく音は、戦いの喧騒で二人の耳まで届く事は無かった。


・・・


 ゴブリン二匹を切り倒した後、ロディは教会の門まで下がって来ていた。レイムーンの使ってきた粉は橋の中ほどまで撒かれているので、おびき寄せられたゴブリンたちの多くはここに集まるはずである。

 目の前には数匹、実際に迫ってきている敵がいる。


 大剣を構える。

 身につけている小手は盾としても使えるように外側の金属が二重に張られ、左右に広がっていた。出来る限りは自分で片付けたいが、ロディの第一任務はここを支えきる事である。

 そうすれば、遊撃に出ている戒斗とそれを援護しているレイムーンや鏡花、村の人間たちが各個撃破をしていけるであろう。


 少なくとも、花火と呼ばれるもので作った罠と戒斗の遊撃は、今のところ想像以上に効果を発揮していた。


 ゴブリンたちはロディへの距離をじりじりと詰めてきている。

 追ってきた粉のにおいが途切れて戸惑っているのかもしれない。一歩踏み出すと、正面のゴブリンが跳びかかって来た。

 鋭い突きを見舞う。

 空中では躱す事も出来ず、一匹のゴブリンを剣で串刺しにした。


「ぬん!」


 間髪いれずに大剣を振り回し、ゴブリンを放り投げる。

 迫って来た他のゴブリンにぶつかり、二匹まとめて後方に吹っ飛んだ。左側、二匹ほど迫ってくる。そのうちの一匹を、小手のシールド部分で思い切り殴りつける。

 骨を砕く鈍い感触が腕に伝わって来た。


 武器を振り下ろしてきた残りの一匹に、体をぶっつける。

 甲冑を着込んだ体当たりに、跳びかかったゴブリンは大きくのけぞった。すかさず大剣を振り下ろす。

 両断。

 頭から真二つにされたゴブリンがゆっくりと左右に分かれて、その場に崩れ落ちた。


「我が正義は決して折れぬ。魔物ども、いくらでもこい!」


 吹き飛ばした二匹、盾で殴りつけた一匹、それに奥からは新手が数匹。

 数多の化け物を前に、ロディが再び剣を構え吼えた。その時、何かがロディの耳に届いた。空気を裂く、何かが。


「ロディ、危ない! 前!」


 レイムーンの叫び声。

 ゴブリンたちの背後から、それは迫ってきている。

 咄嗟に前に構えていた大剣で、その何かを抑えようとした。

 凄まじい衝撃に襲われ、激しい音とともに吹き飛ばされる。教会の門に叩きつけられたロディが目にした物は、自分の前に転がる人間の頭大の岩であった。


「こ、これは?」


 再び、空気を切り裂く音が聞こえた。岩が迫ってくる。

 ロディはほんの一瞬、逡巡した。もしもここで岩を回避してしまえば、教会の門が破壊される。


「おのれ! ぐうぅぅ!」


 両腕の小手で岩を防ぐ。

 しっかりと腰を落とし岩を受け、吹き飛ばされる事はかろうじて防いだ。しかし、両腕の感覚が無くなる程に激しいしびれがある。いつまでも受け続けられるものではなかった。

 そのうえ、目の前にはゴブリンたちが押し寄せている。


 体制を整えなおす前に、ゴブリンが跳びかかって来た。

 防御体制のままそれを受け止める。衝撃ではなく、腕から肩に重さがのしかかって来た。岩を防いだのを見たからであろうか、跳びかかって来たゴブリンはそのまま腕にしがみつき暴れている。

 ガードを降ろそうとでもいうのだろうか。


 振りほどこうとしたロディの耳に、三度目の投石の音が響く。


「くっ、仲間がいようがお構い無しということか」


 振りほどこうとしていたゴブリンを、逆にしっかりと掴む。

 岩の軌道は先の二発でおおよそ見当がついた。もっとも、それは投石をしている相手が動いていなければの話しではあった。だが、今は迷っている暇は無い。

 掴んだゴブリンを盾にして、身構えた。

 すぐに岩が直撃する。三度、激しい衝撃がロディを襲う。


 盾にされたゴブリンは後頭部に巨大な投石を受け、ビクビクと痙攣している。

 おそらくもう再起不能であろう。

 ひしゃげたゴブリンを投げ捨てたロディが、剣を構える。果たしてどこまで受けきれるか。それでも、村人たちの籠る教会を背にしている以上、逃げることは出来ない。


「騎士として、どんな苦境も受けて立つ!」


 未だ感覚の戻らない腕を無理やりに動かす。今、倒れるわけには行かないのだ。

 ロディは化け物の群の前で仁王立ちをした。


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