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切先の向かう異世界  作者: 緒方あきら
テスト2
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第三十話 誘導作戦

「聖騎士団だぁ!?」


 教会にアズールの声が響く。

 騎士たちと合流した村の面々は、避難していた教会にそのまま集まっていた。戒斗と鏡花は、治療も受けながらロンメルとロディの話を聞いている。

 突如現れた二人は名乗ると、聖騎士団より来たと告げた。


「聖騎士団と言いますと、ロディ様とレイムーン様はアルカディア王国の騎士であらせられるのでしょうか?」

「そうだ。もっとも今は騎士団の命令に背く形でここに来ているのだがな」

「騎士団はやはり、動きませんか」

「すまない。我らがどんなに説得しても、聞き入れられることは無かったのだ」


 ロディが頭を下げた。

 少し離れた所でアルコに治療を受けている戒斗が、小声で聞いた。


「アルコさん、聖騎士団というのは?」

「はい。このメイルローズの村は、アルカディア王国という国に属しております。その国の正規の騎士団の事ですわ。精強な騎士たちの集まりで、負け知らずという噂です」

「聖騎士団……」


 確かに、今さっき見せた二人の手腕は見事なものであった。

 あのゴブリンたちをいともたやすく退治してしまったのだ。

 もっとも、ロディはそれを戒斗たちが弱らせてくれたおかげであると笑っていた。横でともに治療を受けているアズールは不機嫌さを隠そうともしていない。


「聖騎士団ねぇ、今更何の用だ。じいさんやサムライは、あんたらに何度も救援要請をしたはずだ。なんで今まで現れなかった」

「すまない」


 アズールの言葉にロディは率直に頭を下げた。

 だが、アズールの怒りは収まらない。


「何がすまないだ! おめぇな、聖騎士団がさっさと来ていれば、どれだけの命が救われたと思っている!? てめぇら騎士団は俺たちから税を収めろと言っては農作物を首都に集めていく癖に、なんの役にもたちやしねぇ!」

「返す言葉も無い。騎士団は、腐ってしまった」

「てめぇ!」


 激昂して立ち上がったアズールが腰かけていた椅子に短い矢が突き立った。


「うるさいよ、おっさん」


 いつの間にか弓を手にした銀髪の女性が口を開く。

 アズールは矢を引き抜いた。


「なんだと、女!」

「ロディはね、聖騎士団の部隊長って肩書きをかなぐり捨ててまで、わざわざ単身この村を助けに来たんだよ。そのロディに騎士団の事を怒鳴り散らしてどうすんのさ。お門違いなんだよ」

「やめないか、レイムーン。私の決断が遅かったのは事実だ」


 ロディがレイムーンを窘め、アズールに歩み寄った。


「あなたは身を呈して村を護ってくれていたのだな。礼を言う。それに、重ね重ねすまなかった。騎士団を見切って駆けつけたが、あまりにも遅かったようだ。せめて今からでもその償いをさせて欲しい」

「償いだぁ?」

「私には、戦うことしか能が無い。だからせめて、これからの闘いでは陣頭に立たせてもらう。必ずこの村をゴブリンどもの手から救うと誓おう」

「そんなこと……」

「よさんか、アズール」


 ロンメルはアズールを制すると、ロディに向き直り、頭を下げた。


「お二人とも、申し訳ありません。アズールは長く村を護って来た者たちの最後の生き残り。仲間を失った痛みも戦いの辛さも、この村で誰よりも噛みしめて来た者です。ご無礼をお許しを」

「無礼などと。すべては私の至らなさ故です、ロンメル様。どうぞ、この村でゴブリン退治を開始する事をお許しください」

「それはもう。こちらからお願いしたい事にございます。しかし、いかようにしてゴブリンどもを退治いたしますか? 奴らは何度倒してもいつの間にか繁殖し、再び襲ってまいります。もう何十年もそれを繰り返しておるのですぞ」

「これを見て欲しい」


 ロディが一枚の紙を丸めた筒を取り出し、長机に広げた。

 戒斗も鏡花も、身を乗り出してその紙を見た。

 紙は地図になっており、いくつかの点に書き込みもされていた。


「アルカディア王国から出立するときに用意した、メイルローズ周辺の地図だ。村に関しても細かく書き記してある」

「すごい。お店まで細かく調べてあるのですね」


 アルコが感心したように地図のメイルローズの辺りをなぞった。

 確かに、村の入り口から住宅、店なども細かく書き記されている。

 戒斗は村の地図にどこか既視感を覚えた。

 店の配置や道の別れ方が、どこか見覚えがあるように思えたのだ。

 この感覚はなんなのかと考えていると、ロディが地図上の森に指を置いた。


「ここが、ゴブリンどもの根城とされている森だ。道中調べて来たのだが、本来森にいるべき動物たちや大型の虫がいなかった。恐らく、すべてゴブリンに喰い尽くされたのだろう」

「生き物が居ない森……」


 戒斗は、夜の静か過ぎる森を思い出した。

 この世界の森は静かなものなのだと思ったが、あれもゴブリンによる被害であったのか。


「生き物を喰い尽くしたゴブリンは、食物を求めてこの村までやってきたと私は見ている。ゴブリンは栄養を蓄え、一匹からでも卵を産み繁殖出来る。ゆえにゴブリンを一匹でも残してしまうといつまでも被害がやまないのだ」

「何匹倒してもきりがねぇと思ったら、そういう事なのか。くそ!」


 いまいましくアズールが吐き捨てる。


「森を隔てて向こう側は、我らアルカディア王国領内だ。ゴブリンたちも何度も退治している。ゆえに行き場の無いゴブリンがこの村に流れているのだろう。今回はそのゴブリンどもを徹底的に潰す。奴らの習性を考えても、出来る限り速やかにそれを行う」

「習性って?」


 鏡花の問いにレイムーンが答える。


「さっき戦ったゴブリンたちだけどね、厄介なのよ。あいつらはゴブリンの中でも繁殖力と成長力の強い、グロウゴブリンという種類。すんごい面倒な相手よ」

「グロウゴブリン?」

「ああ。学習能力の非常に高い種族だ。戦った相手の行動を学習し、自分の動きに取り入れる事に長けている。それに、傷を負うと巣に逃げるのだ。そうして傷を癒したゴブリンは成長し、知能があがり、身体も大きくなる。長く闘っていたのであれば、覚えはないか?」

「そういえば……」


 戒斗にはいくつも心当たりがあった。

 最初に出会ったゴブリンには、組み打ちからの体当たりを真似された。

 それに先ほど戦った農具を持ったゴブリンには、打ち払いを見事にかわされたばかりである。ルシーも最初に出会った時、ゴブリンを逃がすまいと追いかけていたものだ。アズールも苦い顔をしていた。


「くそが! あいつら、やたら強いのが出てくる事があると思ったら、そういう事か!」

「そうだ。だからこそ、決着は速い方がいい。時間をやるほどに奴らは強くなっていく」

「ですが、今までも村人達が討伐に出て失敗しております。どのようにして奴らを倒しきるのでしょうか?」


 ロンメルの言葉を受け、ロディが地図にいくつかの駒を置いた。


「私は騎士団に有志を募り、森から逃げ出すゴブリンの始末を頼んである。よって我々はこの森と村さえ制圧出来ればよい」

「制圧が、出来るのですか?」

「戦いは厳しい物になるだろう。だが、やるしかない。長引けば奴らが繁殖し、成長してゆくだけなのだ」

「森の制圧というと、こちらから攻め込むのですか?」


 地図をのぞき込んで、鏡花が問う。

 レイムーンの指が森を横一文字になぞり、そのまま村に移動してゆく。


「森はあいつらに有利よ。だから、あいつらをこの村におびき寄せて戦うわ」

「この村を戦場にするの?」

「そう。森ではあたしやあなたの弓も木が邪魔で全然使い物にならないし、ロディの剣も思うように扱えないわ。その点村におびき寄せれば、こちらの闘いやすい場所で暴れられるわ。それに、ここで戦うなら罠を仕掛ける事も出来るし、迎撃態勢も敷ける。この教会なんて、立地的にも随分良い場所だわ」

「なるほど、確かに森で戦うよりも、ずっと私たちに有利に戦える」


 戒斗も鏡花も、森の闘いでは苦戦をしている。

 村でも足場の問題はあるが、こちらが迎撃するのであれば、その問題も解決出来るだろう。


「で、あんたらはどういう風にゴブリンどもをおびき寄せて戦うつもりなんだ?」


 アズールも腰を据えて話しをする気になったらしく、具体的な話になってゆく。


「細かくはゴブリンの動きや、この村の事ももっと詳細に知らねば決められない。我々は地図の上での知識しかないからな。ただ、ゴブリンの巣を焼き払い、飛び出して来たゴブリンたちを森の両側、つまりアルカディア領とこの村で殲滅する予定だ」

「巣を燃やすか。いいかもしれねぇな。以前、村の有志で奴らの住処を襲撃しようとして手痛い目に有った事があるが、燃やすだけなら或いは」

「住処の立地や細かな状態も調べなくてはいけないが、それは後回しだ。確実な場所を探るためにも、一度ゴブリンを迎え撃って、逃げるゴブリンの後をつけたい。レイムーンはそれが出来るというしな」


 ロディの言葉に、その場に居た全員が女騎士に目を向けた。

 レイムーンと呼ばれた騎士は見事な弓裁きを披露したが、単身ゴブリンを追跡出来るほどの能力があるというのであろうか。白い、ほっそりとした顔立ちからはあまり想像が出来なかった。


 視線を集めたレイムーンは口許に冷笑を浮かべた。


「皆揃って、お前に出来るのかって顔ね」

「そういう訳じゃ」

「はっ、女一人に出来んのかとは思っちまうね」

「へえ、なかなか言うじゃない」


 アズールとレイムーンが睨み合う。


「よさないか、レイムーン。彼女は元々森で育ち、森と共に生きて来た。森の中での動きにも長けている、大丈夫、出来る。信じて欲しい」

「そうですかい。ったく真面目過ぎるぜ、騎士さんよ」


 ロディの真っ直ぐさに、アズールも絡み切れないと言った様子である。

 ひねくれ者であっても根は優しい男なのであろう。

 戒斗は、戦いの最中に随分心を砕いてくれたアズールの不器用さと優しさを、好きになりかけている自分に気付いた。


「よし、これより私とレイムーンは村を見て回る。アズールと、戒斗と言ったな、それに、鏡花だったか。三人は戦いが終わったばかりで疲れているだろう。しばし休んでくれ」

「ロディさん達も、長い道のりの後戦闘でお疲れなのではないですか?」

「それが我らの勤めです、アルコさん。これくらい慣れっこですよ。レイムーン、いくぞ」


 ロディが一礼し教会を出ていく。レイムーンは黙ってそれに従った。

 騎士たちが出ていくと、村が戦場になるのかと村人達がざわついた。


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