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切先の向かう異世界  作者: 緒方あきら
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第十六話 再会

 対峙を破ったのは、男の方であった。

 掛け声と共に、棍棒を振り上げ突進してくる。

 戒斗は落ち着いて、男の後の先を狙う。

 振り下ろされる棍棒に合わせ、戒斗も一歩下がり木刀を上から重ねるように振り下ろした。

 尺の利を活かすための下がりながらの振り下ろしは功を奏し、男の棍棒は虚しく地面を叩いた。


 その瞬間戒斗にも分別が働き、木刀の切先を軌道修正する。

 武器を持つ手元を狙い振り下ろした木刀を、かすかに相手の武器に寄せる。

 棍棒の余った持ち手部分、大男の手のすぐ上に決まった一撃は、相手の武器を叩き落とした。

 だが、まだ相手の目は死んでいない。

 すぐさま素手でかかってこようとした男の鼻先に、戒斗は素早く木刀を突きつける。男の動きが止まった。


「続けるなら、容赦はしない!」


 木刀を相手の首に押し付け、戒斗が低い声で言う。

 戒斗の視線を真っ直ぐに受けた大男が、にやりと笑った。


「はっはははは! 懐かしいなぁ、いや全く懐かしい! お前、向こう側の人間か」


 向けられた笑顔には先程までの敵意はかけらも無く、まるで久しぶりに会った友人を迎えるような屈託のないものになっていた。


「向こう側……? あんた、なんか知っているのか!」

「お前、向こうの世界から来たんだろう。何の目的かは知らねぇけどよ」

「あの!」


 今まで黙っていた鏡花が戒斗のすぐ横まで駆けてきて、大きな声をあげた。

 大男が、顔をそちらに向ける。

 矢をしまった鏡花が、男のそばまで進んで行く。


「違ったら謝ります。あの、あなたはアズールさんという名前ではないですか!?」

「む、確かに俺はアズールって名だがな。嬢ちゃん、なんで俺の名前を知っている」

「やっぱり……!」


 訝しがる大男――アズールと戒斗をよそに、鏡花は今まで見たことの無いほどの満面の笑みを浮かべてアズールの腕を握った。


「アズールさんは覚えていないかも知れませんが、私、九年前にあなたともう一人、サムライって呼ばれていた人に命を救われたんです! ずっと御礼が言いたかった……。ありがとうございます!」

「九年前? あ、あのゴブリンに襲われて深手を追った小さな子か!?」

「はい!」


 うるんだ目で、鏡花が何度も大きく頷いた。

 アズールは嬉しそうに声をあげると、その太い腕で鏡花を思い切り抱き上げた。


「おおっ! あの時はもうダメかと思ったぜ! そうか、あの時の子供か! 良かった、良かったなぁ!!」

「私、あの時の事はもしかしたら夢だったんじゃないかって、ずっと不安でした。でも、夢じゃなかった。アズールさんが居た。夢じゃなかった」

「良かった。きっと、サムライも喜んでいる。良かった!」

「あの、アズールさん。サムライという方は……」


「アズール!」


 二人が手を取り合って話していると、後ろから女性の声がした。

 厳しい声色に戒斗が振り返ると、髪を胸の前に垂らした若い女性が腰に手を当てて立っていた。


「やり過ぎよ、アズール! 人に襲いかかるなんて何を考えているの!」

「ああ、アルコの嬢ちゃん、そんなに怒るな。わりぃわりぃ、悪かったよ。ついな」


 アルコと呼ばれた女性が、髪の色と同じく淡く輝く緑色の目を大きく開いた。


「何が、つい……よ! 怪我でもしたらどうする気だったの!」

「いや、昔を思い出してなぁ。こいつの武器、それに身のこなしも、最初に会った時のサムライそっくりだったもんでな。懐かしい気持ちを抑えられなかった」

「俺が、サムライにそっくり?」


 アルコの後を追うようにして、門の近くに何人もの村人が姿を現した。数人が鳥居の形をした門に糸をはり、先程戒斗がかかった仕掛けをなおし始める。

 戒斗と鏡花の前に、初老の男が立った。

 その横に、アルコと呼ばれた女性も並んだ。


「はじめまして、向こうの世界の御方ですな。私はこのメイルローズの村の村長、ロンメルと申します。お二人とも、色々と聞きたい事がおありかと思われますが、ここは騒がしい。宜しければ、我が家までお越し頂けませんかな?」

「アルコと申します。父のロンメルとともに村の経営に携わっております。お二人とも、こちらには何かあっていらっしゃったかと存じますが、どうぞ私共の所へいらっしゃってください。アズール、あなたもよ」

「俺もかよ!?」


 急な展開に、戒斗と鏡花は顔を見合わせた。


「どう思う?」

「あの大きな男の人、サムライと呼ばれていた人と一緒に私の事を救ってくれた人だわ。敵意があるとは思えない……」

「だけど、俺はいきなり襲われたんだぜ?」

「それはそうだけど……。とにかく、私は行くわ」


 戒斗は腕を組んで束の間考えた。

 いきなり襲われた相手への疑念が、そんなに簡単に消えたわけではない。

 とはいえ、ここで突っ立っていても状況が好転する事はないだろう。鏡花にとっては恩人であるという男を信用するのは少し怖いが、選択の余地はなさそうだ。

 自分の意見を押し通すには、この世界は解らない事が多すぎる。


 煮え切らない気持ちを抑えて頷き返すと、ロンメルが頭を下げて歩き出した。


「どうぞ、こちらへ」


 奥の家屋に手を差し向けて、アルコが二人を促した。

 アズールは二人の後ろを面倒くさそうについて歩く。

 その視線はもっぱら鏡花に向けられている。自分が救った相手であるからなのか、その目は戒斗と向かい合った時とは別人のように優しい。


「こちらです」


 戒斗と鏡花はロンメルたちに導かれるまま緩やかな坂道を登り、そこに建っている木造の家屋に入る。アズールもそれに続いた。

 村長であるというロンメルの家だそうだが、暮らし向きは質素なようだ。

 木で作られた大きなテーブルに、椅子が並んでいる。勧められるままに戒斗が席につく。隣には鏡花が座り、その向かいにロンメルとアズールが座った。


 奥からアルコが盆のようなものにコップを乗せてやってきた。

 全員の前にそれを置き、自分も腰を掛ける。


「改めましてご挨拶を。わたくしは、ロンメルと申します」

「アルコです」


 二人が名乗り、頭を下げる。戒斗と鏡花も、軽く会釈をして名を名乗った。


「雨宮戒斗です。戒斗と呼んで下さい」

「葉山鏡花です」

「アズールだ、嬢ちゃん、それにそっちの小僧もよろしくな」

「さてと、まず何から話したものでしょうか」


 改めてお互いに名乗り合うと、コップに注がれた飲み物を一口すすり、ロンメルがゆったりとした口調で呟いた。


「ロンメルさん、私たちは人を探しています」


 鏡花が、静かな声で言う。


「人ですか? 鏡花さん」

「はい。茶色い髪を肩まで伸ばした女の子です。昨夜、森の奥の泉のほとりでゴブリンに襲われていた所を助けたのですが、私たちが眩暈を起こしてしまい、そこではぐれてしまって」


 鏡花が一通り説明すると、アルコは横に座るロンメルに尋ねた。


「茶色の髪で、肩まで……? お父さん、ルシーの事じゃないかしら?」

「ルシーは、また森に入ったのか?」

「ええ、昨夜小さな傷をいくつかつけていたわ。あの子、きっと私の真似をして」

「アルコさんの真似?」


 戒斗の問いかけに、アルコは少し考える表情をした。

 アズールが口を挟む。


「お前らは、昨夜もこっちの世界に来ていたのか? てことはお前ら、世界を行き来できるって事か?」

「行き来って……。昨夜はいきなり眩暈に襲われたんだ。それで、ちょっと座り込んでいる間にいつの間にか知らない世界に来ていた。それがここの世界の、森に面した泉のところだ。探している子とも、そこで会った」

「眩暈……。それに、泉。ちょっと、失礼いたします」

「え? あの……」


 戒斗の言葉を聞くと、アルコは席を立ち奥の部屋に消えた。

 ロンメルは何かを考えるような顔をしている。

 目が合うと、アズールが軽く片方の眉をあげて見せた。


「まあ、これからこっちの奴らが説明するとは思うが。お前らは多分、ルシーって子供にこっちに呼ばれたんだろう。災難だったな。だが、無事で良かった」

「こっちに呼ばれたって、どういうことですか?」

「俺にはうまく説明する自信がねぇ。すまねぇな嬢ちゃん、あいつらに聞いてくれ」


 アズールが奥の戸を指さすと、アルコの入っていった部屋のドアが開く。

 ドアの奥から、栗色の髪の女の子が駆け出して来た。


本日更新一回目。

夜にもう一話更新予定です。

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