6.レッドアラート
ライム達がランダリーファミリーのアジトへ連行されてから30分が経過した。
ライム達の意識は戻る気配はなく、現在牢へ放り込まれている。
「だから、あいつらは僕をここまで連れてきてくれたんだよ!」
「.....それが本当なら俺らは待遇を間違えちまったわけだ。しかし若、俺らも遠くから監視させてもらってたがあいつらにも疑わしき行動がないわけじゃねぇ」
「本当なんだってハルク兄!ここに来るまで体張って魔物と戦ってくれたから僕は無傷なんだ!ハルク兄ならわかってくれるだろ!」
「.....信じないわけじゃないんですがね」
ハルクは煙草を咥えながら戸惑った様子を見せる。
同行していたイム本人が言うに間違いはないのだろうが、それでもライム達を簡単に解放するわけにもいかない。
どれだけハルク達がイムのことを大切に思っているかが見える。
「とりあえずおやっさんに報告だ。あいつらの処遇はそっからゆっくりと考えるよ」
「.....父ちゃんに言うのか?」
「おやっさんも若のこと心配してたんだ。それはもう朝から部下全員イルバースの至る所に探しに行かせるくらいに」
ハルクは吸い終えた煙草を手に取りポケットに突っ込む。
「.....心配するわけない」
「若?」
「僕は信じない!父ちゃんが僕のことを心配してただなんて!そんなの上っ面だけに決まってる!だってあいつは.....!」
ビービービービー!
「何だ!?」
「警戒態勢レッドアラート?」
何かが起きた、二人にはそのことしかわからなかった。
ランダリーファミリーのアジトには至る所に警報装置が設置されており橙、黄、赤の三段階に分けられている。
その段階により起動する数が決まる。
今回のは赤、最高レベルだった。
「若、絶対俺から離れんじゃねぇよ!」
「ハルク兄!」
ハルクは急ぎ足で走り始めた。
※
その頃、ランダリーファミリーアジトの別の場所ではヨルダンとリリーも警報装置の起動に気が付き、動き始めていた。
「奴らが脱走したのか!?」
「封魔樹の縄で拘束している上に鉄格子には人力では破壊できない物質と封魔石を混ぜてます。そんなはずは...!」
「畜生、こんなことなら最初から始末しておくべきだったぜ!」
ヨルダンは小さく舌打ちをする。
リリーはヨルダンよりも前を走りある場所へと向かっていた。
異変に先に気が付いたのはリリーであり彼女が先行する形となっただけなのだが。
リリーとヨルダンは目的の部屋、モニタールームに到着すると扉をスパーン!と勢い良く開く。
「モニタールーム!若を誘拐しようとした奴らのいる部屋の様子を映せ!」
「は、はい!」
椅子に座っている小柄な男性はピピピ、とキーボードを操作して画面を瞬時に切り替える。
やがて砂嵐が収まり、部屋の様子が映される。
三人はその画面に目を向けた。
どうやら二人は目覚めているようだが脱走はしていないようだ。
画面の横にあるマイクから音が漏れてくる。
『あ、あん!ライム君、ちょ、この態勢きつ、いんだけど、はぁん!』
『ちょ、エロい声出すなよ!ていうか近い近い!何で身を捩りながらこっちに寄ってきてんだよ!身動き取り辛いんだけど!?』
『うぅ、ん。この縄にはどうや、らぁん!』
『喘ぐな!ていうか耳の近くで吐息してんじゃねぇ!!』
『でも、この縄本当、に!きつい!ひゃん!ちょ、ライム君どこ触って!』
『だから近づいてんじゃねぇよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!何で俺が悪いみたいに言っちゃってんだよ!俺悪くないからな!』
『ひぃ!も、もう、だ、め』
『だからこっちに倒れこんで、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!来るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』
「...................」
「...................」
「...................」
三人は即座に画面を消した。
警報とは無関係だったことを確認すると、ヨルダンとリリーは部屋を出て二手にわかれて捜索を続けた。
警報は今も鳴り響いている。
※
(大丈夫かな、あの人たち)
その頃イムは何とかハルクの目を盗んで単独行動を取っていた。
目指すはライム達が拘束されている部屋である。
牢と部屋の鍵も盗み出して一直線に向かっている。
自分の責任で無関係な彼らが捕まってしまったのだ。
彼らに恩返しをするならばここから逃すことくらいしか今のイムには出来ないだろう。
「ハァ、ハァ!」
ここでイムは気づいておくべきだったのだ。
彼の背後に尾行してくる人物の存在に。
イムは息を整えながら再び走り始めた。
※
「おやっさん、悪い。若を連れて来れなかった」
「そうか。今は仕方ない、この警報を何とかするのが先だな」
一方、イムを見失ってしまったハルクはランダリーファミリー現頭領でありイムの実父であるロブ・ランダリーの部屋にやってきていた。
ハルクよりも一回り大きい体つきで見るものを威圧するかのような鋭い目がハルクを圧倒する。
「イムのやつは男の娘だ。誘拐しようという輩が出てきてもおかしくはないが儂の許可なしとはな」
「.....おい、なんか漢字間違えてないですか?」
「これで正解だ」
ロブは静かに告げた。
「で、今度はどのような侵入者がやって来たのだ?」
「侵入者?この警報は若を誘拐した奴らが脱走したんじゃ」
「さっきヨルダンから連絡があってな、どうやら脱走はしていないそうだ。それにかなりの手練れ三人の気配を感じる」
「.....面倒なことになりそうだな」
「儂らの悪名が広まってきた証拠だろう。好都合ではないか」
ロブはニヤリと怪しげな笑みを浮かべる。
「ハルク、お前はヨルダンと共に侵入者の撃退に向かえ。イムの捜索はリリーにでも任せる」
「了解」
ハルクは一礼して部屋を出た。
「.....奴らとの決着も付けねばならぬしな。今は兵力が必要、儂も感を取り戻さねばな」
誰もいなくなった部屋でロブは静かに呟いた。
※
「.....ライム達は無事だろうか。まさか俺一羽が助かってしまうとはな、助けに行くにも奴らを追っている途中に見失ってしまうとはな。何とかせねば」
街では唯一無事だったレッドがイルバースの上空を飛行していたとか。