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メデル・プルーフ  作者: Cr.M=かにかま
第一章 〜魔術師の集う町〜
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5.若

魔術都市イルバース。

ノレオフォール大陸中腹の内陸に位置する大陸三大都市の一つでもあり、魔術はもちろん工業や産業、農作物やその他魔法関連以外にも大きく発展を遂げている。

旅の行商人や魔術師も立ち寄ることが多く、都市に住む人よりも旅人の方が多いのも特徴で、その為宿も多く健在している。

大陸の首都であるリーノイアとも交通が繋がっているため、国のお偉いさんが訪れることも多々ある。


森を抜けしばらく整備された街道を歩いたライム達はイルバースに到着していた。

都市に近づくごとに魔物の数も減少してきたため体力が減った後半戦にはとてもありがたかった。

見上げれば首が痛くなりそうになる魔物の侵入を防ぐための巨大な石造りの壁の中がイルバースになっている。


「街の入り口は階段になってるんだな」


「昔隕石が落ちたとされているクレーターの中に作られた都市らしいよ。万が一魔物が壁を越えてきてもある程度の対策はなされてる、念には念を込めてるんだよ」


ライムの呟きにイムが応える。

内陸に位置しているため港が存在しない大都市だからこそできたこととも言える。


「俺は入って大丈夫なのか?」


「いいんじゃないの?もし駄目だったら入り口の検問で止められてただろうし」


「それもそうだな」


レッドはレッドで自身の心配をしていた。

表情から察するに何やら過去にやらかしたらしいことが伺える。


「とりあえず宿を探そう。これだけ広いと一日二日じゃ回れないからな」


「そうね。少しゆっくりしたいしね、それにこんな大都市の宿なら部屋の豪華さも期待しちゃうわ」


「.....できるだけ安いところを探そう、旅はまだ続く」


「妥当だな」


「少しくらい奮発しようよ、ライム君」


ブーたれるミスティを無視してライムは財布を静かに仕舞い込んだ。


「イム、お前はどうするんだ?」


「.....しばらく一緒に行動するよ、父さんの所に戻り辛いし」


「それで本当に大丈夫なのか?親御さん心配してるんじゃないのか?」


「僕には僕の事情があるんだよ。それにこの街のこと右も左もわからないんでしょ?傷を治してくれたお礼に案内するよ」


「そうか、なら頼んだ」


「鳥には何もしてもらってないけどね」


「.....俺は鳥だッ!」


「こいつ、プライドを捨てやがった!」


しかし、鳥であることに変わりはない。

ライムはそんな様子に溜息を漏らすしかなかった。


しばらく進むと黒煙と人々がどよめく声が聞こえてきた。

ミスティは興味津々の様子でそちらに目を向ける、あろうことか野次馬の一人に話しかけた。


「何かあったのですか?」


「またやりやがったんだよ、ランダリーファミリーの奴らだ」


「ランダリーファミリー?」


「あぁ、姉ちゃん旅のモンか。だったら知らねぇわな!」


おっさんは忌々しそうに黒煙の方向を睨みつける。

どうやら店があった建物だったようだが、燃えてしまって何があったか定かではない。

それでもおっさんはギリリッと奥歯を噛み締める。


「ランダリーファミリーってのはこの街に居ついてるゴロツキ集団のことさ。さっきこの店でも店員が注文を取り間違えただけで店に火を放ちやがったんだ。イカれてやがるぜ」


「その、ランダリーファミリーは処罰されたりしてないのですか?」


「あいつらがヒョロヒョロな奴らなら俺らだけで十分だ。だが、あいつらには力がある。俺らじゃ敵いっこないし、依頼するにしても金がない」


次第に野次馬は興味を失ったのかその場を次々と後にしていく。


「この街にはたしかに強ぇ魔術師が集まる。だが、そんな奴らに限って巨額の依頼金を要求してくるんだよ!どうしろってんだ!」


畜生が!と叫びながらおっさんもその場を後にしていく。

ミスティはおっさんを見送りライム達の方へ振り向く。


「なぁ、ミスティ」


「ライム君。気持ちはわかるけど敵の規模がわからない以上どうしようもないわ」


「だけど!」


「私だって何とかしてあげたいわよ。でも、人数次第じゃ私一人の力じゃどうにもならないの。ライム君を守りながら戦うなら尚更、ね」


ライムは悔しそうに拳を握り締める。

ライム自身は治療魔術師だ。

戦闘手段がないわけではないが、経験が不足している上に集団戦では意味をなさないのに等しい。

ライムは自らの非力さを呪った、もうこれが何度目のことかわからない。


「.....早く行こうよ」


ただ一人、イムは一刻も早くこの場を立ち去りたいという感情を混ぜた声でライム達に声をかけた。

その目には涙が溜まっていたようにも見えた。




「ったく、若は一体何やってんだか」


「ありゃ誘拐か?それとも行動を共にしているのか?」


「でも若にあんな知り合いいないだろ。ていうかあいつらこの街の奴じゃねぇ、十中八九脅されてるか親切心装って何か考えてやがるな」


「あ、若様が泣きそうになってる」


「決定だな、このまま追うぞ」


「それはいいんだが、何でお前ら俺と一緒にいるわけ?」


路地裏から街の様子を眺めるヨルダンが藍髪の青年、ハルクと小さな胸を強調し袖が靴に届くほど長く改造され胸元が開いたタートルネックを着た少女、リリーに尋ねる。

ハルクは煙草を吸いながら応える。


「お前なぁ、俺が好き好んでお前と一緒にいると思うか?アジトに組む奴がいなかったんだよ」


「つまりボッチか、この兎野郎」


「ヨルダンさぁ〜ん!僕にも聞いてくださいよー!」


「お前は引っ付くな!」


リリーは甘ったるい声でヨルダンの腕を組み小さな胸を押し当てている。


「ねぇってば!聞いてくださいよ!」


「しゃーねぇーなー、お前は何でここにいるんだ?リリー」


「ヨルダンさんこそが僕の人生のパート」


「悪いが俺は巨乳派だ」


鬱陶しそうにリリーを引き離そうと腕に力を込める。

リリーのボブカットの水色に染まった髪が乱れるがヨルダンは気にするどころか手加減する様子はない。


「.....目の前でイチャついてんじゃねぇぞ」


「え、そう見える?」


「あー見える見える。スッゲーお似合いだぜ」


「ヨルダンさん!結婚を前提に」


「少し黙ってろ!ハルクも余計なこと言ってんじゃねぇ!俺の人生左右しかねないんだぞ!」


「結婚しちまえよ、バカップル」


「僕がヨルダンさんの料理作って子供産んでお風呂沸かしてあんなことやこんなことして」


「お前ら、頼むから俺と別行動してくれェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!」


場は当初の目的を忘れるくらい混沌としていた。

ちなみにハルクは二人のやりとりを見ながらニヤニヤしながら煙草を吸っていた。




宿のチェックインを済ませたライム達は街を観光していた。


「安い宿にしてはサービス良かったな」


「部屋も広かったしお風呂も大きかったし料理も美味しかったし文句なしね」


「やっぱ三大都市は違うよな」


「ねえ、この街に来た目的って何なの?まだ聞いてなかったよね?」


イムが思い出したように尋ねる。

ちなみにイムはチェックインしていないためある程度したら自宅へ戻るつもりらしい。

イムの質問に最近影が薄くなってしまったレッドが応える。


「そうだな、俺たちはある者の情報を求めてここまで来たんだ」


「ある者?」


「ある炎の魔術師の情報だ。二年前にメデルを焼き滅ぼした炎の魔術師の情報を求めて旅をしていた」


魔術師の情報ならばイルバース、という安直な考えだったとはとても言えなかった。


「ミスティとはその旅の途中で会った」


「私は別の用事があるのよね。だから明日は別行動するね」


「了解、宿の場所忘れるなよ」


「忘れないわよ」


レッドとミスティの会話にライムは混じらなかった。

顔を俯かせ考えるような仕草を取っていた。


「なぁ、お前」


「出たー!ランダリーファミリーだー!」


イムが何かを言いかけた途端、歩いていた年輩の男が叫び声を上げる。


「わー!」


「逃げろー!」


「殺されるぞー!」


町民が一気に走り抜けて行き、一つの大きな波が出来上がった。


「こっち!」


「おい、イム!」


ライム達はイムに導かれるまま路地裏へと走る。

路地裏には人が少なく人波に呑まれることはなかったが、ライム達の前に三人の男女が立ち塞がる。


「あ...」


イムが何か言っていたような気がするが三人は既に戦闘態勢に入っていた。


「誰だ!?」


ライムが三人に向かって声を張り上げる。

三人の内、煙草を吸っているバンダナをしている青年が代表してライムに応えた。


「ランダリーファミリーだ。大人しく若の拘束を解いて俺たちと来てもらおうか」


「勿論拒否した場合は力づくで連行させてもらう」


サングラスを掛けた茶髪スーツが拳を鳴らしながら付け加える。


「若?誰のこと言ってんだ?」


「よくわからねぇが、そこどいて!」


レッドは彼らの問いかけに疑問を抱くが、ライムとミスティはそのことに気が付かず強行突破を試みる。


「拒否、そう捉えさせてもらう」


三人の中で唯一やや背の低い女がパチン、と指を鳴らすとライム達の頭上に十人近くの男達が落下して来た。


「な...!」


「縛り上げて若をお救いしろ!」


ライムもミスティも突然のことで反応できず、男達に成されるがままロープで拘束されてしまう。

ロープには魔法の使用を封じる特殊な素材が用いられているため魔法を使って脱出することが出来なかった。

ライムとミスティはそのまま何かを嗅がされて意識も手放してしまう。


「大丈夫ですか、若!」


「よくぞご無事で!」


そんな中、イムだけは拘束されず三人の方に走って行った。


「ハルク兄、あいつらは悪い連中じゃ」


「大丈夫だ若。もうあいつらは動けねぇよ」


「そうじゃなくて...」


「そいつらを連れてこい!若を誘拐して何をしようとしていたか、何をしてでも吐かせてやる!」


イムは思わず頭を抱えてしまった。


イム・ランダリー、それこそが彼の本名であり次期頭領候補にあがっているランダリーファミリーの若頭だった。

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