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メデル・プルーフ  作者: Cr.M=かにかま
第一章 〜魔術師の集う町〜
16/53

15.縮まる距離

ライム達が宿に到着した時は既に日は暮れてしまっていた。

道中、ハルクが仲間に連絡をしようとして携帯がないことに気がつき、軽く焦っていたこと以外は特に目立ったことはなかった。

ちなみにミスティとレッドはまだ戻ってきていなかったため、現在は三人で部屋のど真ん中を陣取って円になって座っている。


「くそー、マジで携帯どこいっちまったんだろ。高かったのに」


「そもそも何で持ってるんだよ?携帯って言えばノグ大陸の技術の結晶の一つだろ?」


ライムは疑問をハルクに投げかけた。

たしかにノグ大陸の科学技術は世界的に見ても高く、文明が一つ先に進んでいると言っても過言ではない。

しかし、彼らは技術を広めようとはせずに自らで独占しようと機械関係の物資の輸出を禁止した。

もっと言うならば、大陸自体に近づけないような防壁まで張られたほどである。


ハルクは煙草を咥え直して、親切に応える。


「正当法じゃまず手に入らねぇよ。この街にはノグ大陸から機械を密輸してるんだ、勿論最新のは入ってこないがな」


「ていうことは、もうあっちじゃそれよりも進んだ機械があるってことか?」


「普通に考えたらそうだろうな。何せ情報規制がある上に他大陸からやって来る者たちそのものを拒んでいるような所だからな。案外碌でもないモノ作って戦争に備えてるかもな」


「.....可能性がないと言い切れないのが悲しいな」


「まぁ、そう悲観しても仕方ねぇよ、今は目の前にある壁をぶち壊す方が先だ」


ハルクは一息吹いて口から煙をモワモワと吹き出す。


十年前に一度だけ、ノグ大陸が奇襲を仕掛けて来たことがあった。

ノグ大陸勢はここから南にあるサレバス大陸の北西部にあるセレオス島に爆弾を放ったのだ。

自然が多く、希少な進化を遂げた魔物も多く生息する生物の宝庫とされており、住んでいる人間はそこまで多くはなかった。


だからなのかもしれない、ノグ大陸は突如としてセレオス島を魔物殲滅というスローガンを掲げて攻撃したのだ。


勿論、予測不能の事態に被害は甚大で生存者がいるかいないかもわからない荒れ果てた大地へと変わり果ててしまった。

更にセレオス島はサレバス大陸の領土の一部でもあったため、ノグ大陸とサレバス大陸による戦争が起きてもおかしくない一触即発の事態だったのだが、ある人物の活躍によって互いに一歩引く結果となり、その場は穏便に終わった。


しかし、それでもノグ大陸とサレバス大陸は現在も睨み合いや小競り合いが稀に発生している。

中央政府もいつか全面戦争になるのでは?と現在進行形で危惧している。


「.....僕は皆が笑って暮らせるなら、それだけでいいよ」


イムがポツリと言葉を漏らした。

その言葉を拾ったライムとハルクは互いの目を見て、ニッと笑みを浮かべた。


「俺もその通りだと思うよ、やり始めた争いなんて中々断ち切れないからな」


「そうだな、若がランダリーファミリーを継いだらこんないざこざなんてしなくていい世の中にしてくれよ。その前にこの街の南北問題を解決してやってくれ!」


ハルクはイムの灰色の髪をわしゃわしゃと撫で回して笑顔を浮かべた。


「ハルクって本当にイムの兄貴みたいだな」


「そうかな?」


「あぁ、本当に仲が良いんだな」


「それを言うならお前とミスティちゃんも仲良いじゃねぇか。端から見ればお前らも姉弟みたいだぞ」


「そうか?あまりそう思ったことはないな」


「こういうのって言われるまで気付かねぇもんなんじゃないのか?俺にも姉貴がいるから、ライムの立場は何となくわかるぜ」


ハルクは笑いながらライムの頭をポンポンと叩く。

ライムも次第に笑みを浮かべる。


「それにしても、ミスティの奴いくらなんでも遅すぎねぇか?」


「それもそうだな」


「........」


ライムとイムがミスティの安否を心配していると、ハルクが咥えていた煙草を手に取って、その場を静かに立つ。


「どうしたのハルク兄?」


「ちょっと外に、すぐ戻る」


ハルクはそう言い扉を開いて部屋を出た。

取り残されたライムとイムは頭上にクエスチョンマークを浮かべるしかなかった。




「ミスティちゃん、入りづらいのはわかるけど逃げることないんじゃねぇのか?」


「.....気づいてたの?」


「部屋の外で物音が聞こえたからな、しかも部屋の前で止まって階段を下りる音もな」


部屋を出たハルクは、戻ってきたが入るに入れず宿を飛び出したミスティの元に来ていた。

レッドは彼女の肩で何も話すことなく居座っていた。


「照れてんのか?」


「別に、何を根拠に...」


「頬を真っ赤に染めてるのが何よりの証拠だ、これ以上の根拠は必要ねぇよ」


ハルクに指摘され、ミスティは顔を逸らして手で顔全体を覆うように当てる。

そんな彼女の様子があまりにも面白く、ハルクはニヤニヤと笑みを浮かべていた。


「それで、そっちは何をしてたんだ?」


まだ緩んでいる顔でミスティに尋ねた、ヘラヘラしている青年が真面目な内容を尋ねているのだから態度は良いとは言えない。

ハルクの態度にミスティは思わず膨れっ面をしてしまう。


「.....買い物、魔法都市って呼ばれてるくらいだから、ここにしかない魔術具だってあるじゃない?それと情報収集と、この街の地図を買ってきたわよ」


ミスティは両手にある買い物袋を恥ずかしそうにハルクに見せびらかす。

どうやら女というどこまでいっても生き物は買い物好きらしい、肩で無言のレッドも何かわからないが、無理矢理付き合わされて疲れてるのだろう。

ハルクはそんな彼女の様子にクスッと笑みを浮かべる。


「.....何よ?」


「別に、ちょっと感傷に浸ってただけだよ」


何せ彼らはミスティとは違い、ランダリーファミリーと名乗る不審者と遭遇し、火災の発生現場に居合わせていたのだから。

一応彼女にも今日のことを報告しておいた方がいいだろう。


「こっちは大変だったぜ。出かけた先で火事は起こるわ不審者に絡まれるわで平和じゃなかったぜ」


ハルクは苦笑いを浮かべながら戯けた様子で言った。

ミスティはギュッと拳を軽く握って表情を緩める。


「そう、それは、悪かったわ」


「別に構いやしないさ、男ってのは予測不能の事態にもテンション上がっちまう生物だからな」


ハルクの冗談に思わずミスティは苦笑いを浮かべる。


「大丈夫だ、ライムは無事だ。ちょっと無茶したみたいだけどな」


「やっぱり?」


「おいおい、まさかの展開だな」


ハルクは面白そうにニヤニヤしながら、ミスティの言葉を待つ。


「ライム君は出会った頃から無茶ばっかりしてたからね。自分の傷は回復できないのに私を庇って大怪我したこともあった」


「自分の傷は回復できない?他人の傷は回復できるのに?」


ハルクの問いにミスティはしまった!という表情を浮かべる。

仲間の弱点を今日知り合ったばかりで信用に足りない人物に教えてしまったのだから。


「安心しろ、俺はあんたらの敵になるつもりはない。むしろ気に入ってるくらいさ」


「.....そういう問題じゃないんだけどね」


「とりあえずそろそろ戻ろうや、あまり遅いとあいつらが心配しちまう」


ジト目でハルクを睨むミスティを置いて扉を開けて中に入ろうとしたところでミスティに「ねぇ、」と呼び止められた。


「.....私さ、ハルク君のこと何か誤解してたかもしれない」


「誤解?」


「私、実は同い年くらいの男子とあまり関わりなくて、それでハルク君どうせやましいことばっか考えてると思ってた。だから無意識に避けちゃってたの、ごめんね」


「.....誤解が解けたようで大いに良かったよ」


頭を下げるミスティに呆気に取られたハルクだったが、すぐに照れたように顔を逸らし、ぽりぽりと頭を掻く。


「それに、この街のことも知った。まだ少しだけど、ランダリーファミリーのことも南北問題のことも」


ハルクはミスティの言葉を黙って何も言わずに聞いていた。


「だから、さ、私も協力したい。ライム君が一緒にいるとかそんなのじゃなくて、私個人の意思として!」


ミスティはハルクにゆっくり近づいた。


「それにこれからあなたの力も必要になると思う。ライム君と私だけじゃ対処しきれない大規模な戦いが起こる気がするの、だからその為には私が一歩前進しないといけないと思った」


ミスティはそのまま華奢な右手をスッと差し出した。


「魔術師ミスティ・オーランド、一個人として貴方に協力をお願いします」


「.....何言ってんだよ」


ハルクは小さく笑みを浮かべた。

出会いは最悪(?)だった、特に二人はどこかギクシャクした関係になり、ライムもイムもレッドも少し心配していた点もあった。


その心配も掻き消される、彼女自身の意思によって。


「そんなの、当たり前だろ?俺たちはもう仲間だ!」


ハルクはニコッと微笑んでミスティの手をガシッと握った。

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