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メデル・プルーフ  作者: Cr.M=かにかま
第一章 〜魔術師の集う町〜
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14.謎は謎を呼ぶ

ゲルマック・ビードラー。

30年前、まだイルバースが魔法都市と呼ばれていなかった頃ではイルバース最強の戦士として名高く体術で戦っても武器を握って戦場に出ても天地無双の力で圧倒していた。


しかし、5年前の戦いで四肢を切断され、臓器を爆破され悲惨な死を遂げた。


「どういうことだ?じゃあ俺が見たのは一体何だったんだ?」


ハルクは煙草を咥えながら納得のいかない表情でバロとディラに問い詰める。


「さ、さぁ?俺たちは見てないから知らないが偽物って可能性の方が高いんじゃないか?」


「偽物、か。たしかに全身甲冑で素顔どころか生身である証拠もないしな」


「そ、そうですよ。そうに違いないですよ、でないきゃ幽霊か亡霊か何かだぜ」


たしかにその通りだった。

実際ゲルマックの死は当時多くの人々が目撃している。

墓は街の北側に建てられており、立ち入りすることができぬように厳重に守られている。


「いや、可能性は薄いけど一つだけ死者を蘇らせる方法がある」


ここでライムが会話に加わった。


「メデルにいた頃、街の書庫奥深くに保存されていた魔道書を一回無断で見に行ったことがあるんだ」


「お前も結構ヤンチャしてるんだな」


呆れるハルクに対してまぁな、とライムは適当に応える。


「そこに死者蘇生の魔法が記されていた。治療魔法の最上位に位置する禁忌にも近い魔法が」


「さっすがライムさん!」


「俺たちの知らないことを普通に知ってる!そこに痺れる憧れるゥ!」


何やらハイテンションに興奮するバロとディラだったが、スルーして会話は進む。


「でも、俺の知る限りその魔法を使えた人は見たことはない」


「あんたが知らないだけってことはないのか?」


「多分ないな、メデルはそこまで住人が多かったわけでもないし、もう生き残りがいるとも考えづらい」


俺以外はな、とライムは俯いたまま付け足す。

イムはあ、と思わず慌てて口を抑える。


「とにかく一度宿に戻ろう。ミスティとレッドも一緒に話をした方がいい」


ライムの言葉にハルクとイムは頷いた。

ちなみにバロとディラは宿に向かう途中の酒場で別れた。

縁があればもしかしたら会えるかもしれない。

日が完全に暮れた時にはライム達は宿に到着していた。




その頃、イムとハルクの帰りを待つランダリーファミリーのアジトではヨルダンとリリーを中心に敵の分析と次の襲撃に備えていた。


「で、お前は見たのか?侵入者を」


「あ、はい!リリーさんが仕留めた弓使いのブタ野郎なら」


「俺は遠目ですけど、リリーさんの言ってた優男らしき男は見かけましたね」


「なるほどな。俺は両方とも見てないから何も言えないがどっちの方が金を持ってそうだった?」


ヨルダンは至って真面目な声色と表情で尋ねた。

サングラスの奥の瞳はゼニマークになっているに違いない。


「どちらかと言うと優男の方、じゃなくてヨルダンさん!?今はそれどころじゃないでしょうに!」


「おう、そうだったな。若の行方がわかんなくなっちまったんだったな、ついでにハルクも」


ガハハハ、とヨルダンは腹を抱えながら笑い始める。

隣に立つリリーもヨルダンの腕に自分の腕を絡めながらクスクスと小さく笑う。


「それで?ハルクからは何の連絡はねぇのか?」


「まだありませんね、ていうかあの人本当に戻ってくるんでしょうか?」


「前に出かけて一ヶ月近く帰ってこなかったこともあったからな」


どうやら前科があるらしく、部下からはそこまで信用されていなかった。

ざわつく部下達を黙らせるようにヨルダンが机を叩き割る勢いでドン!と音を鳴らす。


「あいつの心配はすんな、必要ねぇ。それよりも今は若の行方と無事の確認が先だ」


ヨルダンはドカッと椅子に腰を下ろして足を机の上に乗せながら声を上げた。

隣のリリーは名残惜しそうに腕を放しながらそのまま首に手を回す。


「ちょい数時間前まで若を誘拐しようとしていた輩もいたわけだ。まぁ、逃げられちまったがな」


「たしかに、奴らはいつの間に逃げたんでしょうね?」


「わかんねぇが、多分襲撃に遭ったドサクサに紛れて逃げたんじゃねぇか?まだ仲間がいた可能性もある」


その誘拐犯とハルクが一緒に行動しているなど、この場にいる誰もが思わないことだろう。


「ま、巨乳の姉ちゃん逃したのは残念だったが、次見つけた時は再起不能にしてから捕らえるさ」


ヨルダンはニヤリと笑みを浮かべながらサングラスの奥の瞳を怪しく輝かせる。

関節をポキポキと鳴らしながら部下に自分の実力と覇気を改めて感じさせた。


曲がりなりにもランダリーファミリーの幹部であるヨルダン、普段は借金取りに追われギャンブルに稼いだ金を全額使っているくせしてこういう時にはカリスマ性を発揮する。

隣でヨルダンの首に手を回して肩に顎を置いているリリーも頬を赤らめながら腰をくねらせている。


「.....ていうかリリー、お前いつからいたんだ?」


「最初から。そしてこれでヨルダンさんが僕の名前を呼んでくれて、計1114回目♡」


「一々数えてたのかよ」


さすがのヨルダンもドン引きだった。

他の者たちに至っては「今まで気がつかなかったのかよ」みたいな雰囲気が漂い、さっきの威厳とか実力とかそういうのが台無しに終わった。


「でもさヨルダンさん、多分ハルクさんは連絡してこないと思いますよ、絶対」


「あン?何でそんなこと言い切れんだよ」


「だってハルクさんの携帯、僕が持ってるから」


「おいコラ、ちょっと待てぃ!」


衝撃のカミングアウトにヨルダンは冷静さを欠いてしまう。


「ハルクさん、あの時急いで飛び出して行ったんだよ。その拍子にポケットから落ちちゃって僕が拾ったんだよ」


「あー、あいつはそういう奴だったな、うん。変な期待した俺が馬鹿だったぜ」


ヨルダンは深くため息を吐いて顔を俯かせる。

リリーはそんなヨルダンをギュッと抱きしめながらポツリと呟く。


「ふふふ、ここで僕がヨルダンさんの心の弱いところに入り込めば、リリー・ピルコックと名乗る日は近いかもしれない!」


「永遠にリリー・マーガレットで我慢してやがれ、俺は巨乳以外に興味ねぇ」


リリーのアプローチは相も変わらず空振りに終わった。


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