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メデル・プルーフ  作者: Cr.M=かにかま
第一章 〜魔術師の集う町〜
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13.ライム、トラウマを乗り越える

轟々と燃え上がる炎、立ちこもる黒煙の中心である建物の中にライムは生存者を探しに飛び込んでいた。

呼吸は出来るが、有毒ガスが充満しているため長居はできない。


魔力を操作して体に魔力の膜を張っているとはいえ、魔力でも防げないものも存在する。

有毒ガスである一酸化炭素もその一つである。

炎から身を守ることはできても目で確認しづらい気体などの多くは魔力の膜を越えて人体に影響を及ぼすことが多い。


「くそ、たしかに人の声が聞こえた気がするんだがな。おーい!」


メラメラと燃える炎の音にライムの叫び声も虚しくかき消されてしまう。

そう、ライムが勢いよく飛び込んだのは取り残された者がいる可能性が高いと考えたからである。

建物の中から微かに聞こえた助けを求める声がライムを動かし、トラウマを克服させようとしていたのだ。


出火元である厨房らしき場所にはとてもではないが近づくことができなかった。

そのまま歩き続けていると、柱の下敷きになった二人の男性を発見した。


(いた!)


やっぱりいたんだ!ライムは急いで二人の元に駆け寄って柱を動かそうとテコの原理を利用するが柱は動く気配はなかった。

火の手はライムを待ってくれるわけでもなく、どんどん広がっていく。


それでもライムは諦めない、体に纏わせている魔力を両手に集中させて柱に手を当てる。

そこから、魔力を外に出すように力を込める。


「ふん!」


バキィ!と柱は割れてしまったが、二人が下敷きになっている柱や瓦礫を撤去することに成功した。

詳しい原理はわからないが、勢いよく放たれた魔力の衝撃波が振動したのだ。


ライムはそのまま二人を肩に背負って移動を始める。

しかし、ここからが彼にとって最難関でもあった。

ライムは魔力を纏わせて、ある程度力が上昇していると言えども少年の筋力で大の大人、ましてや男二人を背負うには限度がある。


しかも、炎がライムの行く手を遮るように目の前に勢いよくゴォ!と広がってきた。


(くそ、もうこれ以上は...!)


目の前が霞む、熱気のせいで目を開けているのもやっとだった。

ライムはそのまま片膝をドサリと地面につけてしまったその時だった。


ゴォォ!とライムの真横の炎の壁が瓦礫ごと吹き飛んだ。


「なっ...!」


「おい、そこのお前!早くこっちに来い!」


声がした、ライムは声のした方向に走り出した。

二人の男は引きずりながらだが、今は助かることの方が大切である。

それに普段よりも力が出ている気がした。

これが火事場の馬鹿力とかいうやつなのかもしれない。


ライムの向かった先には一人の筋肉質の男が立っていた。


「よし、二人ともこっちに預けろ。俺が背負う」


「あ、あぁ!」


ライムよりも大きく数多くの傷を負ったその体はとても逞しかった。

軽々と二人の男を持ち上げた筋肉質の男は炎など気にしない様子でズカズカと歩き続けた。


そのままライムは難なく外に出ることができた。

出た場所は野次馬達が騒いでいる正面玄関ではなく、静かな裏手の路地だった。


「医者を呼ぼう。お前はもう行っていいぞ」


「いや、俺が治す!」


「お、おい!」


筋肉質の男の言葉を遮り、ライムは横になった二人の男に手を当てる。

ボワッとライムの両手から淡い緑色の光が輝き始めた。


治療魔法。


ライムのアイデンティティーであり人の命を救うための能力。

男たちの傷は塞がり始め、筋肉質の男は驚いている。


「お前、治療魔術師だったのか」


「そう。だから助けたかった、助けられる力が俺にはあるから!」


もう二度とあんな想いはしたくない、目の前に助けられる命があるのに見て見ぬフリをするなど。

ライムにとってそれは死ぬことよりも辛いことだった。

筋肉質の男はフッと笑みを浮かべながら尋ねる。


「.....お前、名前は?」


「ライム」


「ライム、か。俺はクロフだ、何かあればここに連絡してくれ。力になる」


クロフ、と名乗った筋肉質の男は数字の書いた紙をライムに渡してその場を静かに去って行った。

まだ野次馬達が騒いでいるが、ここは野次馬達の目に映らない路地裏にある場所だったのでライムは治療に専念することができた。




一方、クロフは火災現場から少し離れた裏通りにいるジンと落ち合っていた。

炎を見かけた瞬間、クロフは血相変えてジンを置き去りにして現場へ向かったのだ。


「悪いなジン、待たせた」


「何をしてたんだ。俺っち達は早いとこあの人の所に行かないといけないんだぞ?」


「.....人助けだ。それにあの火災はランダリーファミリーの仕業だったらしいしな」


「ま、助ける対象が女だったら俺っちだってたとえ火の中水の中草の中森の中土の中あの娘のスカートの中にも飛び込んでやるけどな」


やれやれ、といった様子でジンは肩をすくめる。


「では行こうか、ブロスの所へ」


「.....クロフ、何だかお前嬉しそうだな。いいことでもあったのか?」


「気のせいだ」




その後、二人の治療を終えたライムはイムと合流するために近辺を探してみたら見つからなかった。

もしかしたら宿に戻ったのかもしれない、それかハルクと合流したのかもしれない。

ライム自身、まだ意識の戻らないあの二人を離れるわけにはいかないためそう遠くへは行けなかった。


そう思いライムが二人の所に戻るとハルクとイムがいた。


「よぅライム、俺が追撃している間に中々無茶したみたじゃないか」


「全くだよ、あの火の海に飛び込んでよく無事だったよね。しかもきっちり救助もしちゃってるし」


ハルクは煙草を咥えながら、イムは呆れながら溜息を吐いた。


「俺が戻ってくる途中にここから出てくるお前を見つけたんだ。それで近くにいた若を拾ってここに来たってわけ」


「なるほどな」


「あと、奴らはやっぱりランダリーファミリーと名乗っていたが俺と若の知ってそうな奴は一人もいなかった」


ハルクが苦虫を潰したような表情を浮かべる。

ギリリッと悔しそうに歯をかみしめている様子を察するに追撃したが、取り逃がしてしまったようだ。


「それと奴らの中で一人だけ名前がわかった」


「まじか!?」


「あぁ、全身甲冑の野郎で素顔はわかんなかったが相当の実力者だった」


「全身甲冑?」


「ゲルマックって言ってたっけな?」


「ゲルマック、全身甲冑...」


ライムがハルクの言葉を復唱する。

やはりイムはそのような人物など知らないようで頭にクエスチョンマークを浮かべていた。


「それでこれからどうする?」


「一度宿に戻ろう。ミスティも戻ってるかもしれないし、もう日も暮れてきたからな」


「そうだな。一度対策を練ることも大切だ」


ライム達の言葉にイムも頷く。


「ちょ、ちょっと待ってくれ」


「せめて礼を言わせてくれないか?」


ライム達の話が一区切りした時に先ほどまで意識を失っていた二人の男が目を覚ました。

紫の髪と緑の髪をした二人の男たちは頭を下げる。


「ありがとう!俺たちを助けてくれて」


「い、いや、そんな」


「俺の名前はバロ。あんたの名前は?」


「俺はライム」


「ライムさん、いやライム様!俺たちは一生あんたのことを忘れないぜ!」


「ちなみに俺はディラだ!よろしくな、ライムさん!」


紫髪の男はバロと名乗り、緑髪の男はディラと名乗った。

ライムが戸惑っているとディラが声をかける。


「それより、さっきゲルマックって名前が出てなかったかい?」


「言ってたけど、どうかしたの?」


「いえ、実は昔この街にそんな名前をした凄腕の戦士がいた気がするんですよ、なぁバロ」


「そういやいたな、この街がまだ魔法都市なんて言われる前の話だったから大体30年くらい前のことか」


バロとディラの言葉にライム達は驚く、しかし、バロはさらに驚愕の真実をライム達に突きつける。


「でもそいつ、もう5年くらい前に戦死したそうだぞ」


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