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みどり、きみどり、ふかみどり。
若葉、新緑、萌黄の山。
柔らかな陽光。穏やかなそよかぜ。
さえずる鳥と木の葉。
春の木漏れ日に暖められた砂色の道がゆるゆると森の中を走り、その上を一台の車がなめらかに進んでいく。
四つドアに丸みを帯びたオフホワイトの車体。黒い幌のキャンバストップの屋根は、今はきちんと閉じられている。パタパタと鳴るエンジン音は規則正しく、しかしどこか軽快に木立をくぐり抜けていく。
車はここ数年で帝都を中心に普及した、極めて一般的な小型の大衆車。
その車はたった一台で、控え目な砂塵を立てながら森を通り抜けている。
すれ違う車も、前にも後ろにもその道を走る車は他になく、車は長いこと一台で走り続けていた。
乗車しているのは二人。
運転席には姿勢の良い運転手。後部座席には、シートへ深くもたれて俯いた人影。
眠っているのか、同じ姿勢のままその人影は動かないままだ。
帝都を早朝に発ち、すでに時刻は昼前になる。
その間、車は淀みなく進み続け、幾つかの町を通り過ぎ、村を通り抜け、最後の人家を横切ってから、すでに半時が過ぎていた。
ふと、俯いた形だった人影がゆっくりと動き出し、ぎこちなく窓の外を覗いた。