4-3 恵まれぬ立地
とりあえず、ドワーフの領域に入ったことは間違いないらしい。この発見したアナグラ跡はしばらくの間は寝る場所として有効活用させてもらおう。やはり夜は暗いほうが良く眠れる。そう思っていたら上から声が聞こえた。後続組が上に空いた穴から顔を出し声をかけてくる。そういえば存在を忘れていた。新しくアナグラ跡まで降りてこれる通路を作り合流する事となった。
「ここはドワーフのムラでしょうか?入り口がおかしいですが」
「へえ、わ、私初めて見た。ドワーフのムラって変わってるんですね」
「こりゃあこの島自体が凄い傾いているね、何かあったのかいダンナ?・・・どうしたんだい?」
「・・・いや、何でもない」
発見した事について話すと元王女達は悲痛な表情を浮かべた。ロッカーも幼いなりに察しがいい、この前見た丘が進行中の地獄ならここが終わった後の地獄か。これから始まる地獄というモノもあればそれに対峙するのは自分達かもしれない。
この一件もあり滝周辺から横道を掘り周囲を見る機会が増える。良く目を凝らしてみれば靄に包まれた空間がそれなりにある。もっとも生命反応は無かったが。それでもまた面白いことを求め見つけたアナグラへと侵入する。
何箇所かを発見し探索、多少傾いている島もあったが概ねは正常な位置にあった。腰をかがめ、時に道を広げてアナグラの入り口から中の様子を伺う。最初の場所のように骨がある目的で一箇所に集められているところもあった。最後の1つの骨以外が埋葬され朽ちた墓が地を埋め尽くす島もあった。皆仲良く並んで横たわる白骨死体が住居を埋める島もあった。モンスターに襲われたと思われる廃墟もあった。
―――ここも全滅か。
ドワーフの住居が洞窟である為なのか、モンスターによる被害はヒューマンに比べてかなり小さいようだ。だが、クリスタルの劣化が早い。そもそも、『島』といえるものが膨大なクリスタルの地底に散りばめられる様に存在するのは何故なのか。まあ、仮定ではあるが考えはついている。創造神とやらは、ヒトビトを助けようとしていた事は間違いが無い。その膨大な力を攻撃に回せばモンスター程度全滅させられたと思うが何かの理由でそれが出来なかった、それで時を止めるという対処法をとった。どういう思考でそこに行き着いたのかは理解できないが。『島』のようにバラバラにしたのはヒトビトの居住空間ごとクリスタルに包み込むためか、分散させることで全滅のリスクを低減させているのか・・・後者だとすればその目的は確かに叶っているといえる。
ただ、おそらくだが地表はともかくクリスタルが劣化し時間が動き出している部分が存在しているのは計算外であったのだろう。それまでに何らかの対処をする予定だったのかまではわからないが。地表や、包み込んだ『島』、空間とも呼べる部分の周囲から劣化が進み地底の大滝や世界の中心の大穴、そして間抜け空間やクリスタルの靄のような存在が生まれているのだろう。
不幸にもドワーフ、穴を掘り丘や山に生きる種族はその住居とも呼べる部分も巨大なものになっていき劣化が早かった。さらにヒューマンのムラやマチのように一部は劣化が進行し時間が動いてしまっているが部分的には未だクリスタルに覆われていたりするような部分が無い。島単位で一斉に目覚め、死んでいったのだろう。運がよければ未だ時が止まったまま全員が生存している島もあるのかもしれないが、今のところ大きな反応はフィアのレーダーに引っかかってはいないようだ。
また一つ、朽ちたアナグラを見つけ探索が終わった。生存者はなし、恐るべき精度を誇るレーダーだ。ドワーフのアナグラには鍛冶場と思われる場所や金属製の器具が多く発見された、もっとも多くの金属は錆びて使い物になりそうも無かった。どうやら包帯教師によればこのセカイの金属製品の殆どがドワーフ製だったらしい。
アナグラの奥には倉庫があった。生活品と思われる残骸は幾つかあったが勿論食料品は一切無かった。倉庫の周囲には争いの跡なのか白骨死体や朽ちた武器が落ちていた。先の見えない命でも惜しかったのだろう、たとえ僅かに寿命を延ばすだけの効果しか無くとも。
「オヨヨ?・・・ン!何か弱いけド反応があるヨ!」
フィアの指す方向は一番奥であるこの場所の更に先、おそらく別の島だろう。随分距離もあるのかもしれないが、初のドワーフの生存者には興味がある。行ってみることとしようか。