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伝説のシャベル  作者: KY
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4-2 朽ちたアナグラ

滝付近まで先に戻る、掘り進めるのは時間がかかるが帰り道は他の奴らにペースを合わせるのは時間の無駄だ。再び下を目指して掘り始める。後ろからついて来る奴らが地獄絵図の丘から一度こちらの道に戻ってくる頃には新しい道がある程度できているだろう。


 思えば使い走りに使われる奴も大変なものだ。現在地点から学園まではそれなりの距離がある、こっちは本気を出せば1日かからないがこの世界のヒューマンでは3日程度はかかるだろう。一人黙々と伝言を伝えにひたすら歩き続ける、結構な苦行だろう。だからといってこいつらを使うのを止める事は無いのだが。さてクイーンは一体どんな判断を下すのか。



 フィアに歌わせつつ穴を掘る。最近何かコツを掴んできたのかシャベルを刺し、戻し、押し固めるという一連の動作とテンポを合わせた歌を披露するようになった。メトロノームのようなものだが案外テンポを揃えると効率的に作業が進むものだ。


 ある程度掘り進めると周囲を確認するため横穴を掘り滝から離れ透明度の高い場所へと出た。透明なクリスタルとそうでない劣化した部分がかなり入り混じっている。つまりは何かしらの物が不透明なもやの部分に隠れているということか。真下を見てみれば直ぐ下にそこそこの規模の靄に囲われた部分がある。別に行く用事も無いのだが近いので気紛れにそこを目指す、別に創造神とやらの宝具を集めることは緊急ではないのだ。


 慎重に靄の部分を掘り返していく、やはり脆い。小さな穴を空け下を覗き込めばそこには開けた空間に土と岩の光景、起伏がなかなかに大きい。劣化していないクリスタルが地表を覆っている部分も見えるが建造物は見えない。ただし何箇所かに小さな穴が見える。大部分の穴は崩落したり入り口が潰れているがそのうちの一つは石材で比較的大きな入り口が補強されてる。


「何だこれは?」


「ン~、多分だけどサ。ドワーフのアナグラだと思うんだけド・・・」


 ドワーフ、前に聞いたフィアの昔話では洞窟に住むと聞いたがここがそうか。フィアの言葉の歯切れが悪いのが気にかかるがとりあえずは進む、モンスターの反応も無いのであれば問題は無いだろう。


 空けた穴から飛び降り着地。高さは5m以上はあったが今の身体能力ならば造作も無い。フィアにレーダーで周囲を探ってもらうが反応は何も無いようだ。入り口を上から覗くが、暗い。懐中電灯も無いしライターを使うのも勿体無い。空間の端まで移動し劣化したクリスタルを学園から拝借してきた薄手の布で包み腰に下げておく。



 革紐のロープを垂らし中に入る。クリスタルは常に発光している、その仄かな光が周囲を照らしてくれる。ただし、指向性は無いために先を見通すには少々不向きだ。しかし身体能力以外にも感覚器も前よりも鋭敏となっている為、多少の光があればある程度先までは見ることが可能だ。フィアもこちら以上に周囲が見えているようだ、その大きな瞳は伊達じゃないか。


 縦穴を降りていく、最初は気がつかなかったがハーケンのような足場が壁に打ち付けてあるようだ。足がかりにして下っていく。案外浅く3メートル程度で足がついた。周囲を見回す、朽ちた陶器片や石材の欠片が散らばっている。かなりの年月が経っているようで家具と見られる多くのものは風化している。だが非常に奇妙なのは上下左右に通路と見られる穴が空いていることだ。さらに壁には金属で出来たと思われる原型をかろうじて留めている像のようなものが垂直に打ち付けてあったり何かがあったような跡がある。床には甕であっただろう陶器の欠片も見えた。左右の道に比べ、下や今来た上の通路はしっかりとしているようなので下へ行くことにした。こちらもハーケンが打ち付けてあり足場として利用する、古いものなのでいつ取れてもおかしくは無いので命綱は一応つけている。下へ下るとさらに下への通路、どれだけ深く穴を掘るのが好きな種族だったのか・・・気が合いそうだ。


 到着した部屋はさらに奇妙。正面の壁の床から少し高い位置に横長の通路がある。高さが低いため通るのは少々難しそうだ。壁には相も変わらず何かを打ち付けてあった跡や燭台のようなものが横に倒した状態で着いていたりする。さらに下に進むも部屋は長方形でかなり細長い場所が殆どであった。ただし立てるほどの高さがあるのは有り難かったが。


 首を傾げつつ最初に入った部屋まで戻ると今度は下ではなく正面に見える余り大きくない通路を腰を曲げつつ進む。乱雑に作られたいくつかの小部屋が所狭しと通路に沿って作られている、だがかなり粗雑な造りだ。ここではそれぞれの部屋の形は正方形に近く天井は低い。壁には何の跡も無くただ生活品と思われるものの残骸がある。さらに奥へと進む。


 奥まった部屋には石でできたテーブルと椅子、そして朽ちた白骨死体があった。傍らには大きな水瓶のような入れ物がいくつかあった。そこを覗き込めば、例外無く割れて髄が無い骨の欠片の山。テーブルの上には金属製の何かで引っかかれたような文字が見える。それは汚く歪み弱弱しい字でこう、書いてあった。


―――神よ、何故我らを見捨てたもう。この逃れられぬ地獄で我らは我らを・・・


 途中からはもはやただの引っかき傷にしか見えず解読は不可能であった。ここで何があったのか、想像はつくがあえて語ることでもないだろう。一体いつ不幸にも時の呪縛から開放されて目覚めてしまったのか。



「そうか、そういうこともあるか」


「どうしたのカナ?おじ様?」


「いや、大したことじゃない・・・この島は、横倒しになっていたのか」


 床だと思っていたのは壁、壁は床であり天井。粗雑な部屋が時が動き出してから作られた区画、ハーケンは梯子代わりに臨時でつけたモノ。枯葉のようにクリスタルの大海に散らされた島々、ひっくり返ることもあるだろう。下向きに生える建物さえいずれ目にかかる機会があるのかもしれない。


「ン?そりゃあおじ様、入り口が真上を向いているアナグラなんてないヨ?」


―――知っていたなら先に言え。それは恥ずかしくて口に出来なかった。


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