3-33 次なる地を求めて
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。もしよろしければ今年も読んでいただけるととても嬉しいです!
目が覚める。やはり部屋を暗くして寝ると良好な睡眠がとれるようだ。腹の上に置いたフィアの姿が見えず姿を探すとソファーのアームレストの上でじっとこちらを見つめていた。どうやら先に起きていたようだ。起床の挨拶を軽く交わすと体を起こす。昼も夜も区別がつかない地底で生きていると時間間隔が狂ってくる感覚に陥る。明るいとはいえ地上には夜はあったのだ。どれくらいの時間が経過したのかは分からない・・・と思いきやフィアの体内時計で大方の時間が分かるらしい。便利なものだ。疲労感は完全に消えたが柔らかい寝床で少々寝坊したようだ。
学園長室を出るとロッカーが待ち構えていた。ずっと待っていたのに、と呟いたが知ったことではない。さて、待っていた理由を聞けばどうにも元王女の件で少々揉めているそうだ。これが王ならばまだ分かるのだが、代表者の娘というだけの元王女に関してどうこう言っても仕方がないだろうが。頭を掻きながら講堂まで向かう。やや乱暴にドアを開ければナイトと元王女、それを囲むようにヒトビトが言い争っていた。
「うわあ・・・うるさいネェおじ様」
まったく。ざわめく講堂内、話をするにも騒がしい。聞く気もないのにこちらに何やらまくし立ててくるヒトさえいる。7スターリボルバーを天に向け一発花火を打ち上げてやれば静かになった。
「巨人殿・・・」「巨人様!」
「それで、何事だ」
ナイトに話を促したところ、どうにもお集まりの方々は学生をトップとする組織に組み込まれるのが気に食わないようだ。どこの誰かが言い出したのか分からないが元王女を担いで周囲を大人で囲み補佐する組織を作りたい、と。元王女はそれを拒否し続けていたらしいが周囲の圧力が強く困っていたらしい。何とか兵士2人で詰め寄るヒトビトを防いでいたとの事。たしかに、今ここに居る中で最も人数が多いのはハロイドにいた奴らだ。この極限の状況だからこそ、食料や資材に加え前線に立たなくていい上位の存在になりたいという心理が働いたのか。まあ、確かにトップが学生の組織と聞かされれば自分が同じ立場であれば拒絶したかもしれない。だが若い学生、クイーンが四苦八苦しながら組織運営を行っていく様子を見ることこそ面白いというもの。それに周囲の有象無象はともかくクイーンに関してはある程度の評価はしているし、この前面白い行動を見せてくれたナイトに関してもそれは同じだ。
ぽつぽつとまた周囲から聞くに値しない雑音が発せられる。全く何も分かっていない奴らだ。決定権はどこにある?誰にある?
勿論ここにある。
もう一発花火を打ち上げる。示威するようにヘルハウンドの頭蓋で出来た盾を掲げる。その上で現在クイーンが率いている組織しか認めないと宣言、文句のある者は出て行ってもらうとも付け加える。元王女はこちらの指示の元働いてもらう。これも決定事項だ。最初から決まっていることをこっちが寝ている間ずっと騒がしく話していたとは随分と暇なものだ。別に、本当に出て行ってもらってもかまわない。食料、水を分け与える気も場所を貸す気も全く無いけれども。そうは言っても必ず逆上し文句を言うヤツが不思議と出てくるのだ。一人太って髪の少ないヒューマンが詰め寄ってきた。やれ口を出すなとか黙っていろとか聞くに堪えない。
だから堪えずに首根っこを掴むと開けっ放しだった講堂のドアのほうへと投げつけた。それなりに距離があるが放物線というよりも直線に近い軌道で飛んでいった後潰れたような音と悲鳴が聞こえた。講堂が静けさを三度取り戻す。
「他に文句のあるやつは」
誰もいない、全く手間を取らせる。命を賭してまで主張したいことがあれば聞いてやっても良かったがそのようなものは無かったようだ。その程度の意見ならば最初から言わなければいいのに、詰まらない。
ナイトと少し話をする。最初のムラにあった食料は半分ほど運びこんだらしい。休息をとり終わったらまた運ぶそうだ。ハロイドの方にも多くの食料があると言えば困ったような嬉しいような声色で「了解しました」と話す。人員は恐怖の表情を浮かべてこちらを見ている奴らを監視付きで使うようナイトに伝えた。さらに周囲に聞こえるよう、面倒な真似をすればただでは置かないと言い残すと後の事を任せて講堂を後にした。後ろから元王女とロッカーが駆け足で付いて来る、そのまま包帯教師の部屋へと足を向ける。そういえば先程講堂の隅で生気の無いルオナ女史の姿が見えた。先のエルフの騒乱以来元気が無いらしい、俺がヒトを殺すのと生徒の一人が殺すのではそんなに違いがあるものなのか。ただしロッカーから仕入れた情報によると怪我人の手当ては行っているらしい。廃人でなければいずれまた立ち上がる機会もあるだろう。
「やあダンナとフィア様。それにロカロカとミーナ、どうにも騒がしくなっていたようだが・・・二人の顔を見ると解決したようだね」
「ああ、問題ない。だが随分と元王女と仲がよくなったものだ」
「・・・私からお願いしたのです。もう父も亡く、ただの一人のヒューマンなのですから」
「私もダンナとミーナには賛成でね。変に担ぎ上げられるほうが不幸だし、今やるべきヒトが指導するべきだろうさ」
殊勝な態度だ、偉ぶらない所は癇に障らなくて好感が持てる。ただ、あとは危険に直面したときどのような行動をとるかで本性が見えてくるだろう。
「あの・・・巨人様も、元王女では無くミーナと呼んでくださいませんか?」
「断る、覚えにくい」
「えー・・・」
「キャハハ!おじ様に名前を呼ばれるのはフィアだけで十分なのだヨ!」
いや、ルオナ女史も名前が入っているが。正直名前よりも印象に残っていた場面を元とした渾名の方がピンとくる。まあ、しかし確かにフィアはフィアだ。それがしっくり来る。
「・・・はあ、仲がよろしいのですね」
「どうだかな」
「勿論ダヨ!!・・・おじ様つれないですヨ~」
「知るか・・・本題に入る」
一応先ほどの騒ぎ及び解決までの説明。またハロイドの住民を押し付けた後、話をする機会も無かったので包帯教師とロッカーに軽く顛末を説明する、大方の話は聞いていたようだがヘルハウンドの盾をまじまじと見つめると何ともいえない顔でこちらを見ていた。実物を見ている以上よりインパクトが強かったのだろう。
さて、今後の話だ。ハロイドのようにそれぞれの種族の首都を目指す必要があるのだろうが、具体的にどちらの方向に掘り進めばいいのかは分からない。平面ならまだしも三次元に配置された場所を探すのは骨がおれる。ただ、地理感と知識を持つ包帯教師もやや難しい顔をしている。どうにもこの地下世界はもともとの場所との相関性はある程度あるものの、綺麗に公式に当てはまるわけではなくズレがなかなかに大きいらしい。以前発見した間抜け領域のエルフ達もエルフの集落としては最もヒューマンの領域に近い辺境にあったというがそれでもハロイドとの位置関係を考えた上だと少々ずれた場所に位置していたらしい。今の一応の仮説としては創造神の神殿を中心に螺旋状にクリスタルの渦に呑まれているような形と考えられるらしいがその流れに対しムラやマチなどは枯葉のようなもの、千切れたり変な位置に移動していたりしていることも多いだろうという意見だ。さらに螺旋状の渦といっても綺麗なものではなく歪みや軸自体の大きな傾きが想定されているらしい。
ただ、それが推論だとしても包帯教師への評価はかなり上がった。知識を腐ることなく活かすことができる存在は尊ぶべき者だ。もっとも身長差やあどけない顔つきから子供に教わっているような奇妙な感覚に襲われるのだが。衝動的に犬にするように頭を撫でてやり猫にするようにその獣耳の周りを弄る。髪の質は人間のものとは少し異なるようでフカフカしており中々に触り心地がいい、フィアのプニプニとした体もそうだが創造神とやらもなかなかいい仕事をする。
「わわっと!・・・う、う~ん、嫌じゃないけどさ、少し恥ずかしいかなダンナ。私もいい年なんだよ」
「・・・そうか」
顔を赤らめる包帯教師から一旦は手を離すが、また気が向いたら弄ってやることにしよう。触って気持ちがいいものは大好きだ。フィアが薬指にかじりついてきてオーラを吸ってくる、随分と不機嫌なようだ。放って置いてもやめないので頬をプニプニと揉む刑に処した。
話を本筋に戻す。結局大体の方角しか予想がつかずそれさえも正しいか分からないということ。ただ、おそらく一番近いのがドワーフの棲家であろうという予想。満足気な表情のフィアが試しに尻尾を向けぐるぐると回す。それで分かれば苦労はしないのだが。
「ンン?何か、何か変なノがあるネ・・・」
「変なモノ?」
「今まで感じたことのナイとっても小さな何か、この前までは何も感じなかったんだけどサ・・・アア!何かに似てると思ったラ、始原の大樹だヨ!ちょっと違いそうだけどネ!!」
ハロイドでの出来事を思い出す、あの時にフィアが別人のようになった現象が関与しているのか。いや、何にせよ道は示された。示された方角は、かなり下寄りだ。掘りやすい滝の周辺を利用してさらに地下を目指し、そこから横に掘っていくような形にしようか。しかしほぼ予想された方角の通りだ、再び包帯教師の頭をわしゃわしゃとしてやる事にした。何か文句は言ってきたが抵抗は無く為すがままだ、褒められ慣れてないのかもしれない。その後またフィアの機嫌が悪くなり煩かったので胴体をプニプニと揉む刑に処することとなった。
小休止をとった後、ナイトに会う機会があったので今までの出来事と今後の予定を伝える。創造神の宝具のくだりで驚いてはいたが、その後より一層の協力を約束してきた。どうにも手助けするのがこの世界に生まれたヒトの責務だとか言っていた、同意も反論もしないが手伝ってくれるというのならば拒む理由は無かった。少し時間はとられてしまったが先へ進むこととしよう。ようやく地底探索も本番といった所か。先に何が待っているのか楽しみだ。
明日から仕事、休みの多かった年末年始とはいえ細かい用事が多くやはり正月は忙しいですね。まだまだ寒くなってきますので皆さんもお体にはご自愛ください。