3-32 拠点への帰還
「・・・あの、一つお願いがあるのですが」
「なんだ?」
「私がいても混乱を起こすだけ、ハロイドも守れませんでした・・・殺していただけませんか?」
「断る、勝手に首でも括れ」
死にたければ死ねばいい、止めはしないしそれも自由だ。死ぬというのも選択肢の1つではある、だがそれが衝動的に選ばれることに関しては少々引っかかるものがあったしこちらがわざわざ殺してやる義理も無い。今、元王女は安全な場所の中で悲劇のヒロインぶって死を選ぼうとしている、だが学生達、襲われて講堂に避難しさらにそこでも悲惨な目にあった者達で自殺者は出なかった。波乱のような出来事と身近な死は感傷を押し流し本能を刺激するのかもしれない。
「だが、誰しも何も持っていない。親兄弟全て失い、それでも生きている」
今まで助けたヒトの内肉親と合流できたものは殆どいない。誰しもがもはや一人。使命感、義務、責任、なるほど立派なものだ。だがそれは不純ではないかと思う、少なくとも生きるには身一つあればいい。命より大事な信念があればもちろん迷わずそれを選ぶべきだが元王女にはそこまでのものは感じられなかった。結局のところ後追いをしたところで意味は無い、生きているうちに助けるのであれば賭ける命もあるだろうが。
兵士も下王女も暗い顔で俯く。子供達は状況が分かっていないのか騒がしい。陰鬱な気分にさせるのは勘弁してもらいたいものだ。このセカイの到達目標を知ることが出来た点では非常に感謝している。だから多少なり言葉をかけたがこれ以上は世話を焼く気は無い。
「その気があれば着いて来い、手伝え」
「・・・一体何処へ?」
「何人か生きているらしい、掘り起こす」
「生存者がいるのですか!」
自分達もそのうちの一人だろうに、フィアを促して建物の外へと出る。後ろから足音、なんだ結局来るのか。
「私も行きます、巨人様と妖精様の御手伝いをさせて下さい!」
「勝手にしろ、死んでも知らんし命令には従ってもらう」
「はい!」
元王女の顔が僅かに明るくなる。今は依存に近い、俺が創造神とやらに会いに行く手伝いをするという大義名分で動いているのだろう。一緒に兵士達も来るようだ。守るべきものはもう無い、地位や名誉も無い。だが理由はともあれ死ななかったのであれば生きるのだろう。進む先でまた色々思うところも出てくる、止まったものは過去に潰されるだけだ。
生存者を次々と掘り起こしていく。体は極めて快調、瓦礫もクリスタルも難なく取り除いていくがまだ体のパワーに制御が追いついていない気がする。車を乗り換えたり改造したのならばそれに応じた運転が求められる、生かすも殺すも生きるも死ぬも自分次第。体を積極的に動かすことで徐々にずれを修正していく。
結局のところ無事なのは50人程度、負傷者に女子供を含む。致命傷を負ったまま時の止まったヒトビトも多くいたがそのままにしておいた。建物ごと時間が止まっていたヒトは運がいい、家族諸共助けられたのも案外いる。一方で助けられたヒトの真横にミイラ化したその家族の死体が寝ていたこともあった、助けた後発狂して壁に自ら頭を打ち付け動かなくなった。状況説明は元王女や兵士に任せて時に空洞ごと時間が止まっていた空間でモンスターと戦い、時に住民を助けながらハロイドでの作業は終わった。
今までで最も多くのヒトビトを救出した場所となったが生存率でいえば極めて低い値となった。ヘルハウンドとの戦いがなければもっと生存者はいたかもしれないが、仕方がない。運、不確定なこの要素が生きるのに極めて大きく関わっている。このセカイでも地球でも、おそらくどこでも。
ある意味最大の目的である食料庫に関してはこの惨状を見るに絶望的だと思ったが、分散して保管していたり各家庭でも多少は保管していたとの事で建物を掘り起こしたり瓦礫の撤去をすることである程度の量を確保。さらに奇跡的に1つの大き目の蔵がクリスタルに埋もれた状態で存在、砂や埃等が混じっているが半壊した蔵からも食料が発見された。見つけた食料は生存者に担がせ運ばせる。学園まで結構な距離があるが予想以上に食料があるので何度も往復してもらうことになるだろう。
未だ疲れた表情のヒトビトの先頭に立ち間抜け領域まで進む。落ち着かない表情をしていた獣人コンビに声をかけると安堵の表情で駆け寄ってくる。連絡くらい入れてほしいと文句を言われたのでこれからは善処すると答える、便利な言葉だ。元王女と助けたヒトビトについて軽く話す。ロッカーはひどく畏まって緊張していたが包帯教師は思案顔になった。混乱が見込まれる事態を予想しているのだろう。だが元王女が集団を率いる気が無いことと俺の補助に努めたいという意向を伝えれば緊張は解けた。まあ、本人の意思とは別に担ぎ上げる輩も出るかもしれないが余りに煩ければ処分するだけだ。そう言うと包帯教師は何ともいえない苦い顔をした。
獣人コンビに学園までこの集団をつれてくるように言いこちらは自分のペースで一度学園まで引き返す。以前よりもかなり早いペースで進んでも息が切れない。だが緊張の連続であり体は休息を欲している。学園に戻るとナイト一行は食料運搬の佳境に入ったところで今はいないと聞いた。ハロイドに到達し生存者と食料を発見したことを伝えると残留組の表情が明るくなった。詳細は獣人コンビに聞くよう言うと引き止める声も無視して学園の一室に向かう。かつて学園長室であった場所には消えない血痕があるが立派なソファーもあった。ドアを閉め、戸棚などを動かして窓を塞ぐと頭の上のフィアを摘んで横になり腹の上に乗せかえると目を瞑る。睡魔は瞬く間に意識を連れ去っていった。
これで年内の更新は終わります、このような駄文ですが読んでくださっている方々に心より感謝申し上げます。よいお年をお過ごしくださいm(_ _)m