3-31 神託
元々ひどい状態となっており、今では廃墟というにも怪しい街並みを歩く。まだ土や建物は熱を持っているようでジリジリと肌を焦がすようだ。巨大な建物跡へと着く、おそらくここが政治の中心であったのだろう。城というよりは議事堂か、簡単な柵の跡はあるが城壁や堀のようなものは見えない。
ヘルハウンドの大爆発の魔法の衝撃と熱波のせいだろうか、壁はほぼ無く骨と思わしきものも砕けバラバラだ。右半分しかない頭蓋骨と目が合うが死体は何もしない、踏みつけてそのまま進む。一部クリスタルに覆われ無事な部分がある、書物や雑貨品などは回収してもいいだろう。
外からも見えた無事な一角へと到達、やや強固なクリスタルに覆われている為無事だったようだ。今の自分であれば掘り進むのに何の問題も無い。クリスタルに覆われた一室、中には数人の生存者の姿。鎧を纏い槍を持った兵士と思われるヒューマンが2、奥には小奇麗な服を着た少女が一人と小児、幼児が3人か。天井には大きな穴が空いている、そこから入ったクリスタルに覆われて今に至るのだろう。とりあえず全員を掘り出すことにした。
案の定、騒ぎ出した。そういえば間抜け領域にいる獣人コンビを連れてくるのを忘れていたか。未だ興奮が収まっていないのかもしれない。まあ、しかし何かしらの情報は得られるだろう。ここは妖精様の御威光で黙ってもらうことにする。面倒ながら現状の説明を行う。もはやハロイドが廃墟以下の場所となっていることに対しては涙を流している者や嘘だと叫ぶ子供がいたので壁を殴って破壊し外の風景を見せてやる。百聞は一見にしかず、静かになってくれた。直ぐに泣き崩れてうざったくなったが、人名のようなものを口に出していたので事情は分かったが。それでもこちらには関係の無いことなのでさっさと話せる状態になってほしいものだ。
「・・・私の名はミーナと申します、ヒューマンの王リーディアスの娘です。魔獣の侵攻が始まり側近の子供達とここに避難していました」
「私達2人はその護衛として入り口を守っていました」
「フィアはおじ様のフィアンセの妖精だヨ!」
「ストレンジャー・アウトロー、只の放浪者だ。こいつの言うことは話半分でいい。現状は先程説明したとおりだ、ここで何があったのか一応説明しろ」
「おい!なんだよその言い方は!!」
ミーナとかいう元王女の後ろから生意気そうな子供が出てきた。王の側近ともなれば、まあ偉かったのだろう。その子供ということで随分なボンボンだったとすれば、まったく今この態度は非常に滑稽だ。笑えてくる。
「な、何笑ってるんだ!俺の父親は」ガッ!「ヒッ・・・」
シャベルを足元に叩き付けてやっただけでこの有様か。ガキを苛める趣味はないが立場は分かってもらわねば。
「外を見ろ、もうハロイドは無い。いや、何もかもがほぼ残っていない。お前の父が誰であろうと、王の娘だろうともはや何の力も持たん。むしろ今ある組織の邪魔にしかならん・・・いっそここで始末したほうが後腐れが無いか」
「あ、ああ・・・」
失禁して気絶したか。根性の無い奴だ。他の奴らを見れば、兵士が恐怖の表情を浮かべながらこちらに槍を向けようとする。
「構えたら殺す」
「おじ様は本気だヨ?もう何人か死んでるしネー」
空気が緊張する、もっとも一方的に相手のほうだけだが。正直、本当に皆殺しにしたところで問題は全く無いのだ。だが、空気の読める者もいるようだ。
「彼らのご無礼をお許しください。・・・貴方達二人ももう護衛の役目は終わっています。国も無く報いる方法も無く、巨人様の仰るとおりです。先程のお話ですと、生き残ったヒトビトがいて独自の組織をもう作っているのですね」
「ああ」
「成る程、確かに私達がそこへ行った所で混乱を起こすだけですね・・・いえ、まずこのハロイドに何があったのかをお話しましょう。もっとも前線にいらした方々よりも詳しくはないとは思いますが」
フィアから以前聞いた話と重複するところも多かった、だが重複するということは信憑性も高いということで悪くは無い。話の内容もそう複雑なものではなかった。セカイの果てから満身創痍の巨人がやってきて魔獣の襲来を言い残し力尽きたので創造神に相談した。辺境のムラが襲われ前代未聞の事態に右往左往しているところで壁を作り食料を確保するよう命じられた。首都からヒトを遣りムラやマチに大至急伝えさせ、ハロイドも壁を一丸となって築き食料を貯め込んだ。兵士と食料の一部は他のムラやマチにも配ることとした。次々入ってくる悪報と集まる難民。危機感が増し、より壁を丈夫にして兵士の訓練に努めた。そうしている内に遂にハロイドにも魔獣が襲来した。
小型の魔獣は壁に阻まれ大型の魔獣の体当たりさえも凌いだ。キラーエイプが壁を登ろうとしているところを叩き落し熱湯や石を投げつけて撃退した。エルフもある程度の数が住んでいたため防衛に協力し城壁の上から魔法で攻撃した。時折いる爆発の魔法を使ってくる魔獣が脅威ではあったが優先的に城壁から物を投げつけ撃退した。この王宮にも当時は高い塔のような施設がありそこから一望すれば魔獣の群れに囲まれている様子が見えたらしい。それでも分厚い壁は安心感を与え市民にも混乱は無かった。
だが、ある日塔から監視を行っていた兵士が極めて大きな魔獣の接近を確認したため正面の兵士を増やし警戒に当たっていた。だが、それでも城壁への信頼感から悲壮な空気は全く無かったらしい。だが大爆発と共に城壁は吹き飛ばされた、多くの兵士達の命と共に。そこからは早かった、巨大な魔獣に従う魔法を使うファング達が市街地を駆け巡りながら混乱状態にある兵士や市民を次々と殺し崩れた壁からは我先にと多くの魔獣が都内に入り込んできてもう手がつけられない。追い討ちを掛けるように再び巨大な爆発が襲う。ここでまだ幼い子供達と共に奥の方にある部屋へと避難することになった、と。何というか予想通りで面白みも無い話だった。
「以上です。あまりお役に立てなかったようで申し訳ありません」
「・・・まあ、いいさ」
もとより情報にそこまで期待はしていなかった。王とやらが生き残っていればもう少し面白い情報も聞けたかもしれないが。
「これから貴方はどうされるのですか?」
「先を目指す。創造神とやらの面を拝みにな。ああ、敵も排除した。これがこの街にいた魔獣の頭だ」
「そんな!あ、あれを倒したのですか!流石巨人族の方ですね・・・」
盾を見せてやるとそれが巨大な頭蓋であることに気がつき感嘆の声をあげる、兵士達二人も酷く驚いていた。もう巨人族ではないと訂正するのも面倒になってきていたのでそのまま流すことにしている。
「・・・決めました。少々お待ちください」
そう言うと部屋の奥にある金庫のような場所から手のひらサイズの十二面体の結晶を取り出した。
「創造神様にお会いに行くのでしたら、こちらをお持ちください。創造神様がそれぞれの種族に賜られた宝具です。私が持っていても、もうどうしようもない物です」
この宝具を守るように父と母から聞かされていました、と小さな声で呟いた。
「くれると言うのならもらって行くが・・・むうっ!」
受け取った瞬間、光り輝く。目潰しの類だとすれば謀られたか、いやそれほど眩しいものではないし元王女も驚いた顔をしている。だが何が起こったのだろうと考えていると、近くを飛び回っていたフィアの様子がおかしい。
「ア・・・アア・・・」
「どうした!」
「・・・キテ・・ガイマリョク・・ーンケンシュ・・・プロ・・メイタイドウチョウ・・・リョウ」
目はうつろで表情は完全に人形染みたものになっており何かを呟いている。一体何が起こっているんだ!
「ヨンシュ・・ラグメントヲアツメ・・・・ココヘ・・・・ラーコレイジョ・・・フカ・・・プリーズ・・-ルミー・・・ゲイン」
最後の言葉が漏れると同時にフィアの体から力が抜け崩れ落ちる。それを手早くキャッチすると大きな声で名前を呼ぶ。
「ン・・・おじ様呼んだかナ・・・アレ?どうしたのサそんな顔をしテ?」
「・・・覚えてないのか?」
「ン?ンンー?確かさっき急に宝石みたいなのが光っテ・・・何があったのかナ?」
先程フィアが何者かに乗り移られたような状態で何か喋っていた事を伝えるとひどく驚いた顔をしていた。頭に創造神の声が響く神託のようなものはあってもこのような事は聞いた事が無いらしい。もちろん元王女も初めての経験だそうだ。
「今のは・・・創造神様のお言葉ですか。全ての意味が分かるわけではありませんが。ヨンシュ、四種・・・たしか同様の宝具は他にもエルフ、獣人、ドワーフの代表者が同様な品を持っているはずです。それらを集めればよいのでしょうか」
成る程、そう考えるのが普通か。しかし、しかし何ともまあベタな展開だ。創造神様やらと会うにはそのためのカギを探さないといけないのか。世界一周旅行、生存者の探索と鍵である宝具の入手。まったく楽しくなってきたものだ!