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伝説のシャベル  作者: KY
92/203

3-30 喰らうもの

 夢を見た、いや幻覚かもしれない。


 見たことも無いような植物。黒い大地。空も薄暗く、紅い色をしていた。走り回る黒い獣たち。文明の欠片も見えない弱肉強食の世界。だが、獣たちは生き生きとしているように見えたのは気のせいだろうか。そんな景色も次第にぼやけ、かすれ、消え・・・。



 意識が戻る、ひどい頭痛。景色が暗い。今自分は何をしているのか、それは咀嚼だ。体と精神がバラバラになったように感じられる。今、ヘルハウンドの傷口に頭をつっこみ肉を喰らっている。そんな自分をどこか冷静な目で見ている自分が居る。だが、止められない。体が熱い、内部から作りかえられていくような感覚。喰らっても喰らってもそのカロリーが片っ端から消費されていくようにも思える。まさしく獣のように貪り付く自分を見れば生物というものは欲により動いているとも思える。なるほど、あらゆる欲から開放されれば後には何も残らず、最早することもない。それが悟りで救いなのだとしたら随分と寂しい話だ。そんな事を考えている間にも肉体は口を止めなかった。


 意識を取り戻してしばらく経つ。だいぶ落ち着いてきたもののそれでも食欲は十二分に満ちており体が肉を欲している。ブッシュナイフやシャベルを駆使し、筋を切り骨を砕き食い荒らしていく。最初は手間取っていた肉の固さが今では苦労することなくヘルハウンドの遺骸をバラバラにしていく。明らかに自分の体積以上の肉を喰らっている、体中が返り血で真っ黒だ。質量は、エネルギーだ。いったいどれだけのエネルギーを体が求めているのか、どうやって消化吸収しているのかなんて分かりもしない。血でのどを潤し肉で腹を満たす、困ったことに渇きと飢餓感が満たされない。


 視界の端にフィアが映る、とても困惑しているようであり引き気味だ。だが声を掛けるよりも自分の欲求を優先する。


 ヘルハウンドのかなりの部分を食い荒らしたところで、ようやく開放された。毛皮も骨も滅茶苦茶、勿体無い事絵をした。思い返せば決して美味くはなかった。それでもこれだけ食べてしまえるとは食欲とはまったく怖ろしいものだ。


 その巨体があった場所にはぽっかりと空間が空いている。シャベルでその空間を少々広げ、ヘルハウンドの頭部を引っ張り出して対峙する。今更ながらその大きさを感じた。我ながら良く戦ったものだ。今回の勝利は圧倒的なものではない、仮にヘルハウンドがクリスタルの拘束を壊して頭部をこちらに向けていたとしたら・・・その魔法で消炭になっていただろう。


「あのサ、おじ様・・・大丈夫かナ?」


「ああ、問題ない」


 リュックから学園で拝借してきた布切れを取り出すと顔や手など拭ける場所の血を拭っていく。だが水浴び、欲を言えば風呂に入りたいものだ。全身から酷い臭いがするしベタベタして気持ちが悪い。


「ワーオ・・・信じられないなア、よくこれだけ食べたのネ」


「・・・全くだ」


 自分でも信じられない。だが、その血肉はただ虚空に消えた訳ではない。握りこぶしを作る、力を感じる。クリスタルに叩き付ける、穿つ。未だ乾かぬシャベルやナイフといった武器も今まで以上に黒く艶やかになっている。近頃あまり感じていなかった大幅な身体能力の向上が感じられた。



 頭部の皮を剥ぎ、顎骨を外し牙もシャベルやナイフで抜き取る。その細長くも大きな頭蓋には大きな橙色の宝玉が埋め込まれている。抜き取ろうとしてみるが、しっかりと嵌っている様で抜き取れない。真っ黒な頭蓋骨を左手で掴み、持ち上げる。少々重いが取り回しに問題はなさそうだ。革紐で腕に固定できたり手で持てる部分を作る。しばらくの作業の結果、完成したのは盾だ。


 以前使ったことのある木などを束ねた即席のものではなくしっかりとしたものだ。右手にシャベルを持ち、左手に盾を持ち構える。盾の大きな宝玉にオーラを流し込む。『ハロイド』にまた一つクレーターが出来た。オーラの消費量はかなりのもので多用はできないか、この魔法を連発していたヘルハウンドにはまだ自分は及ばない様だ。しかし、まだまだ強くなれると分かっただけでも成果はあった。


 眼前に広がる廃墟を見る。一部の建物や爆発に巻き込まれなかったクリスタルに覆われた部分などはかろうじて原型を保っているが。


「フィア」


「ちょっとまってネー・・・うんうん、ここと、あそこと、あっちに魔獣で」


 幾つかの場所を指差す、こんな状況でも多少の生存者はいるようだ。


「それから、アレだヨ!」


 そう言って指差した先には、かつては巨大な建物があったのだろうが先程までの爆発で殆どが崩壊している場所。その中でも奇跡的に破壊を免れた一角が示されていた。



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