3-28 魔王獣
魔王獣の名前をヘルハウンドに変更しました、今日連稿する予定です。
「・・・どうだ?」
「かな~り弱ってきているヨ!」
「そろそろ行くか」
頭を割るような轟音、建物が崩れる音。すわ地震かと身構えるほどの地響き。
「もともとボロボロだったケド・・・もう廃墟ってよりもネェ・・・」
「・・・もはや更地に近いな。いや、穴だらけだが」
少し離れた位置より見える首都『ハロイド』、であったモノ。少し前までは、かろうじて建物やその残骸と分かるものがあったが今ではそれすら見る影も無し。石畳は小石のように砕け整備された区画には何も無く幾つものクレーターが地面を穿つ。砂埃に土煙が舞うかつての都は今ではその影もない荒れ果てた荒野にしか見えない。ただし特定の距離にある区画だけはまだその原形を留めている様子がひどくアンバランスだ。
だが、悪夢のようなソレもこちらが望んだ光景だった。そろそろ仕上げに入らなくてはならない。フィアを摘んで頭に載せ、気合を入れて立ち上がるとシャベルを担ぎ動き出すことにした。
―――回想する。
『ヘルハウンド』、その圧倒的な力はクリスタル越しにも感じられた。本能が警鐘を鳴らす、戦ってはいけないと。それはおそらく間違ってはいない、その体は象よりも大きくあらゆる猛獣よりも凶暴。
さて、こちらはどうか?
右手にはシャベル。今まで多くのモンスターを潰してきた頼れる武器だ。
だが、刃渡り精々30cmを超えるかといった所。仮に強固そうな皮を裂き肉を抉る事はできても骨は断てず致命傷には程遠い。漫画やアニメのように高々刃渡り1mに満たない刀や剣でそれより大きなモノや敵を真っ二つに出来る筈も無い。丸太よりも太いであろうヘルハウンドの足に薙ぎ払われれば全身の骨は砕け、噛み付かれれば体は千切られて真っ二つになるだろう。
魔法の宝玉。強大な力と長い射程を持つ。
だが、射程の長い衝撃弾では威力不足。爆発の魔法は強大だ、だがあの巨体を仕留めるのに何発打ち込めばいいのか。雷撃の魔法は接近しなければ当たることもない。ヘルハウンドの額にある巨大な橙色の宝玉、おそらく凄まじい力を発揮し建物群をいともたやすく破壊したのだろう。
まさしく、小人が巨人に挑むようなもの―――先程まで巨人と呼ばれ一方的に蹂躙してきたのはまさに自分であったろうに。
だが、戦う。逃げるのが正解、避けるのが当然。動物なら基本そうするべきだ。だが、『人間』というものは何とも奇妙で業深い。本能を理性で捻じ曲げ、狂気とも思える行動をとらせ、時に無残に屍を晒し時に驚くべき成果を上げる。
自分は人間だ。このセカイのヒト共とは違う。非力な存在でありながら大昔より自分より遥かに大きな獣に勝負を挑み、あらゆる物を駆使して狩り採って来た生き物。その悪魔のような凶暴性により多くの猛獣を私利私欲のために襲い、絶滅にまで追い込んできた生き物―――その末裔だ。
するべきは恐れることではなく、どうすれば殺すことが出来るかという思考。最大限の力を利用できるプランを組み立て実行する力。幸運だ、今は考える時間がある。これは負けられない。相手に何が無く、こちらに何が有るか。それが鍵だった。




