3-27 ヒューマンの都『ハロイド』
間抜け領域を超え進む。例にもよって後ろからロッカーと包帯教師が付いて来る手筈だ。いまはこちらがかなり先行しているため振り返っても姿は見えず、かろうじてフィアの尻尾レーダーが感じ取れる距離だがそれももうすぐ出来なくなるだろう。滝で水分を補給した後、迂回するように掘り進む。周辺のクリスタルは劣化が進んでおり掘りやすく押し固めるのも容易だ。ただ透明度が低い為に周囲の様子は分かりにくい。
固いクリスタルの層に出る。進む速度は遅くなるが、視界は良好。成る程、よくよく見ればかなり遠くに広く靄に包まれた場所がある。包帯教師の示した方向は正しいようだ。知識を持つ存在は役に立つ。髪の毛を引っ張られる、フィアを摘んで目の前に持ってくるが様子がおかしい。尻尾をピンと立たせてハロイドと思われる方角をじっと見ている。目は大きく見開かれ表情も固い、尋常な様子ではない。
「どうした?」
「ヤバイのがいるヨおじ様・・・多くのヒトとか魔獣だと思ったけど、大きいのが一つ・・・」
仮にも、首都。そう考えれば納得もいく。今まで戦ってきたモンスター、決して弱くは無かった。だがそれでもこのセカイの住人にも対処が不可能であったかと言えばそうでもない。都市を守る防壁と統制の取れた行動により多くのモンスターの侵入を防ぎ、少数のモンスターが侵入しても多少の犠牲がでても対処は不可能ではない。知恵を絞れば非力でも戦える、むしろヒトの最大の武器はそれに他ならない。だが、その首都だからこそ目標とされたのだろう。規格外の大物に。
フィアは怯えているようだが、こちらとしてはある程度予想していたことだ。それは首都云々の話ではなく大物が存在しているという点。セカイの中心、あの大穴の底も見えぬ深遠にどれほど強大な力を感じたか。あのような存在が他にも居ても不思議ではない。ただ、それだけだ。対処できるようなら対処するし出来ないようであれば避ける。ただ、いつかは越えないといけない壁である気がする。
「行くぞ」
「エ!?大丈夫カナ?」
「知らん、だが行く」
「・・・オッケー!おじ様!」
何にせよ進んで見なければわからないのだ。目標地点は見えたので道を掘り進む。近づくにつれて都市の全貌が見えてくる。さらに掘り進めれば首都の斜め上方に接近、全体がよく見える場所に出たので小休止を取りつつ観察する。
大きい。巨大な都市だ。勿論日本にあった街並みよりは比べるまでも無いが今までに見てきたムラやマチ7とは一線を画する。劣化したクリスタルに覆われている部分もあるが、靄がかかっておらず建物がほぼ無傷で保管されているような場所も多く見える。城壁も見える、なかなかに強固そうな石の壁で高さも十分。だがその一角がごっそりと削り取られている。爆弾でも落とされたかのように激しく破壊された建屋群、中心部の最も大きな建物もクリスタルに覆われてはいるが殆ど崩落している。ヒトやモンスターの死体、いやまだ時が止まったままのモンスターの姿も多い。良く見ればファングだらけだ、宝玉の色が通常の赤色と異なるモノも結構いるようだ。だが、一番目に付くのはそこではない。
高さ4m、体長も5mはあろうかという黒い巨体があった。頭部はファングに酷似している。直径30cmはあろう巨大な橙色の宝玉が額に存在し爛々と輝いている。頭部も普通のファングよりは勿論大きいが、アンバランスな程太く大きな足と胴体が目を引く。だが、その巨体を支えるにはそれぐらいは必要なのかもしれない。通った跡はあらゆるものが破壊されていて夥しい血の跡、いや血の帯が砕けた石畳を染め上げている。幸いにして時が止まっているようで体の大部分がクリスタルに覆われている。だがそれでも感じる強大な力、真正面からではとても相手にならないだろう。
魔獣を超える魔獣、言うなれば魔王獣。黒い体毛に覆われ多くの死を撒き散らしたケモノ、捻りもないが魔王獣ヘルハウンドとでも名付けよう。
魔王獣とその配下により『ハロイド』は完全に蹂躙されていた。