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伝説のシャベル  作者: KY
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3-25 騒乱再び

 もうしばらくここに居てもいいのかも知れないが、そろそろ動くことにする。この滝の周囲は劣化が進み掘りやすい区域となっている。さらに下を目指す際には中々有用そうだ。また、これらの大量の水が行き着く先が気になるところでもある。水、光、土、条件が揃っていればあるいは・・・。


 小休止をはさみながらも下へ向けて掘り進める。水の心配をしなくても済むようになったことが地味に有り難い。乾燥させた白花を入れて渋みと引き換えに保存性を増した水に比べれば、やはり美味い。そのまま飲むのは多少衛生的に問題があるのかもしれないが、それも今更だろう。


 余談だが、よく名水や天然の水が体にいいからとポリタンクまで持ち出してまで採取し飲用に用いる人々がいる。だが水源には気をつける必要があるだろう。まず川の表流水にはかなりの確率で大腸菌がおりその他細菌類や大腸菌群も多く、野生動物が利用するので当然ではある。伏流水は大分マシで綺麗だが、それでも細菌類は多いし大腸菌群や場合により大腸菌も存在する。浅井戸も細菌類が多く井戸の場所や施設の状態によってはかなり各種の菌に汚染されている場合もある。深井戸の場合は比較的安全か。勿論、人間も動物の一種なのでそれなりの耐性は存在するため菌の入った水を飲んだからといって必ずしも体調を崩す訳ではない。ただ、少なくとも塩素消毒をしていない状態での生水の長期保存はお勧めできない。流れている水ではなく滞留した状態で放置するのは菌類に増えてくださいと言っている様なものだ。さらに樹脂容器は細かい傷がつきやすくそこが温床となる場合も多い。


 水道水がどうして普及したか?それは感染症の抑制が目的だったはずだ。塩素を入れなくとも沈殿、ろ過により菌の数はかなり減らすことが出来る。塩素を入れればほぼ安全だ。塩素に耐性のある微生物も存在するが、それらは勿論常に監視されており安全性を保たれている。遊離塩素は熱、光で分解されやすい。そのため浄水場近辺の方が水温は低く遊離塩素量が多くなりがちだ、反対に末端では水が外気で温まるが塩素量は減少している。安全第一、ならば味に不満があればミネラルウォーターでも買えばいい。ただ、ウォーターサーバーには注意が必要だ。水道水の塩素を取り除きフィルタを通し滅菌した水を使っているモノもあるらしい、まあこれは別に悪いことではないが。それよりも長期間使っている場合内部の管の汚れやバイオフィルムが気になる。ボトル内の水は綺麗でも蛇口からの水は綺麗と言えるのか・・・点検や交換は守ったほうが無難だ。水にかかわらず、最初は高尚な目的であった出来事も末端では腐っていくこともよくある話か。


 アウトドアでも水をろ過すればある程度は綺麗になる。もちろん水道水の蛇口があればそちらを使うのがいい。だが仮にサバイバルとなった時、ペットボトルが手元にあればラベルを剥がし、なるべくろ過等をして綺麗になった水を入れた後日光に何時間か晒して置く。これによりかなりの菌の減少が見込める。sodis法と言ったか、正確に行えばこその効果らしいが。



 今自分が飲んだ滝の水も、願わくば劣化したクリスタルを染みて伝わってきた水が原水であることを祈る。地下において、新鮮な水というものは極めて貴重だった。水の大切さというものを今、ふと思い出していた。たとえ食料があっても無ければ早々に死に至る、水。雄大な滝を流れる水に思いを馳せながら沿うように下へと掘り進んでいった。



 だが、思わぬ乱入者が。包帯教師が息を切らせながら走ってきたのだ。フィアのレーダーによりヒトが近づいてきていることは知っていたので驚かなかったが。面倒ごとは御免だが一体何が起こったというのか。



 話を聴くに、やはり厄介事だった。


「またエルフか」 


 この前間抜け領域で助けたエルフとライルとかいう学園主任であった教師が共謀して残留組の負傷者を人質にとって講堂に立て籠もったらしい。それでもって主に2つの要求をしているとの事。


1、指揮権は学生でなく良識ある大人である我々に譲渡すること。

2、魔法を使えるエルフを主導メンバーとして運営していくこと。


 以上に加えて食料やら水やら生活用品等々の要求、これらが速やかに実行されない場合人質の安全は保証しないとの事。


「それで?」


 助けてほしいとでも言うのか?その程度の些事なら勝手に対処してくれればいい。どうせそろそろ地上から物資の輸送のための部隊が来るはずだ。力ずくで何とでもすればいい。人質云々もこちらにしてみればどうでもいい事だ。


「でもこの状況はダンナにとってもあまりよくは無いだろうし、それに学園に残った生徒に最大限の便宜を図るって約束だったはず」


 成る程、人質にとられているのは残留組。こちらにも手を貸す義務があると言いたいのか。だが、あくまで『出来る範囲で』の話に過ぎない、最大限の最大というものが何処にあるか決めるのはこっちの勝手だ。必ず助けるという約束はしたつもりが無い。というか、正直なところ。


「気に喰わんな。対等な取引とでも言いたいのか?」


 対等であるはずが無い、こちらは上位者だ。頭を下げ何らかの対価を用意し懇願するのならば気紛れに手を貸すこともあるかもしれないし解決は容易だが、助けるメリットが正直薄い。あくまで、ヒト助けはサブクエストに過ぎない位置取りだ。


 シャベルに手を掛け睨み付けてやれば包帯教師も後ずさり汗を噴出している。フィアの機嫌も悪そうで猫が獲物に襲い掛かるような姿勢で尻を上げ尻尾を構えているようだ、頭の上でよく見えないが。それでも逃げ出さずに話しかけてくる度胸は買う、カードの1つくらいは用意してあったようだ。 


「・・・面白い情報があるんだ」


「言え」


「い、言えないね。解決してくれたらゆっくり話すよ。嘘だったら、その後どうしてくれてもかまわない」


 成る程、そう来たか。情報、確かにモノによっては極めて有用だ。無理やり引き出すことも、まあ出来るだろうが。ヒトは拷問には死以外の方法では決して逆らえない。痛みと辱めの前に大体のヒトは屈する。多少興味があるが、手間と時間がかかりそうだ。それならば急いできた道を戻りさっさと解決させたほうが手早いだろう。


「いいだろう・・・行くぞ」


「え、ちょっ、まっうわあ!」


 包帯教師を小脇に抱えて学園まで走る。掘り進むのでなければ楽なものだ。今の体力であれば数時間は小走りで進める。途中包帯教師が気持ち悪そうに口を抑えたので頭と尻の方向を逆にして抱えなおし走る。なにやら液体の音が後ろから聞こえるが気にしないことにする。もちろん汚れてたら後で通路を清掃させるが。そう時間が経たないうちに学園付近まで到着、包帯教師を放すとよろよろと地面を這い殆ど胃液しか無い吐瀉物をぶちまけていた。そうかタクシー酔いか、仕方がない奴だ。料金はサービスしてやったのに感謝の言葉も無いとは教師としてどうなのだろうか?


「行くぞ」

「オロロロ・・・ちょっと待ってくれないか。・・・ああ、駄目かァ」

「うわあ・・・汚いナア」


 再び小脇に抱えると学園に向けて進む。正門付近にはロッカーがいた。


「巨人様と、せ、先生!?大丈夫ですか!?」


「うええ・・・大丈夫じゃないけどね、まあ生きてるよ・・・気持ち悪いけど。うっぷ」


「で、どうなっている」


「え、えと。とにかくこっちに」


 走って案内するロッカーを悠々と歩いて追う。足の長さが違うのだ、普通に歩いたら追い抜いてしまう。包帯教師は青い顔のままフラフラと何とかついてくる。講堂の前まで案内された、そこには見知った顔がある。


「あ、人形ダ!」

「・・・ナイトか」


 リリエルとかいうクイーンの右腕のエルフ、わざわざ幹部クラスを運搬任務に回すか。確かに重要な仕事ではあるが。


「巨人殿、来ていただけましたか。手伝っていただけるのですか?」


「ああ、状況は?」


「人質になっているのはルオナ先生と負傷者4名、立て籠もっているのは元学年主任ライル含めエルフの男女が7人。それと・・・説得に行った筈のエルフの学生2人です」


「捕まったのか?」


「・・・いえ、裏切りです」


 おいおい、またエルフどころか・・・さらにエルフとは。


「・・・いっそエルフって奴を全部駆除したほうが早いか?」

「キャハハ!オドを吸い取るのなら手伝うヨおじ様!」


「止めて下さい、今回も全てのエルフが参加しているわけではないのですから・・・ご容赦を」


 確かに居心地悪そうなエルフ達の姿、一人に見覚えがある。あれは確か、間抜け領域で放尿していた奴か。その周囲を前に助けたヒューマンの村のヒトビトが不審な目でもって囲んでいる。運搬役と思われる十余人の中に含まれているエルフも暗い表情を浮かべている。まあ、人種だの性別だのは確かに関係ない。大切なのは敵対するか否かだ。


「まあ、いい。それで、『俺が』解決してもいいのか?」


 これはある意味大切な確認であり、最後通告でもある。遠回しに聞いているのだ、『皆殺し』にしてもいいのかということを。さらに、人質の安全性も考慮しない。犯人グループの無力化のみを主点として行うつもりだ。それだけの覚悟があるのか、それとも手を汚したくないだけのチキンか。


「・・・お願いします。今は、動ける人員の損耗を抑えることが第一です」


「ほう、言うようになったな」


 エルフの学生を殺そうとしたときに立ちはだかったあの時とは違うか。垢抜けたな、ストレンジワールドへようこそ。確かに魔法を使える敵相手に強行突入すればかなりの被害が出る。言ってしまえば、今居る人質も負傷者。敵は邪魔者。全員死んだとしても問題が無い。


「残念ですが我々は非力ですので。なるべく人質に関しては助けていただければ有り難いです、特にルオナ先生は」


「うえっぷ・・・ふう、少しは楽になった。ダンナ、私からも頼むよ」


「・・・ナコナコ先生、意識が戻られたのは聞いていましたがまだお加減がよろしくないのですか?顔色が悪いようですし・・・」


「あー、気にしないでよ。健康に問題は無いから、それよりダンナ。ホントに頼むよ」


「くどい、だがまあ約束は約束。善処はしよう」


「ああ、ありがとう」

「よろしくお願いします」



 さて、大体の校舎内の地図は頭の中に入っている。今は反乱に加担しなかったエルフや学生の交渉役が身を隠しながら講堂前で声を張り上げて説得を行っているところだ。せいぜい注意を惹きつけてもらうとしよう。その間に、講堂の壁の裏に当たる部分まで移動する。時折爆発音が聞こえるのは立て籠もり犯が威嚇のために魔法を使っているのだろうか。


「フィア、出番だ」


「任せてヨおじ様!う~~~~~ん!!」


 尻尾をいつも以上に余計に回し講堂内における生命反応の位置情報を探ってもらう。一箇所に纏まって動いていないのがおそらく人質、立っていたり動いているものがおそらく犯人か。大まかな位置取りは掴んだ。さて、壁に寄りかかっている犯人と思わしき反応の真後ろまで移動。3,2,1、突入!


「・・・Welcome!」「イヤッホー!!」 

「ぐはっ!!」


 まず1匹、仇なす敵などヒトとしてカウントしない。


 シャベルで壁ごと犯人の一人を吹き飛ばしつつ無理やり破壊しながら講堂内部へ侵入。まずは一箇所に固まっていた数人の犯人グループに向け衝撃弾を放つ。事前に位置は分かっているので行動にも無駄が無い。Welcomeは間違っていない、地獄のパーティー会場へようこそだ。


「うわああ!!」「あがっ・・・」「ぐへえ・・」


 2、3、4匹


 呆然としている制服を着た犯人の頭部をシャベルでカチ割る、悲鳴すらなく眼球を飛びださせ絶命。なぜだかビーダマンを思い出す、締めて撃ったあの日の思い出のように眼球は気持ち良く飛んで行った。


「え、ひ、ひいいいいい!!!」


 飛んで行った先に居た同じく制服を着た犯人の一人が。恐怖のあまり尻餅をつく、駆け寄って顎を蹴り上げる。砕ける音。死んでなくとも二度と固いものは食えないだろう。いや、千切れた舌が見えた。話す事さえ不自由になるのか、同情する。1オングストロームくらい。単位がおかしいが気にしない、気にする価値もないのだから。


 5,6匹


 男女のエルフを発見。あれは痴態を晒していたカップルではないか。必死の形相で男の方が杖を向けようとしてくるが、遅い。篭手に仕込まれた橙色の宝玉にオーラを流し込む。二人まとめて爆発した。


 7、8匹、次でラストか。


「お、おい!こっちを見ろ!人質がどうなってもいいのか?ああん!?」


 神経質そうなエルフの男が縛られて身動きの取れない一団に焦燥した表情で杖を向けている。


「武器を捨てて跪け!命乞いをしろ!少しでも変な真似をすれバはっ・・」

「知るか」


 長い前口上の間に抜いたナイフを投げつける。サクッと喉に刺さり血の泡を吹きながら喉を掻き毟り動かなくなった。結局一度も魔法を向けられない内に終わってしまった、いくら奇襲とはいえ不甲斐ない奴らだ。人質は全員無事、犯人は―――最初の衝撃弾で吹き飛ばされた内の一人が腕を変な方向に曲げているが生きているようだ。あとは死亡している様子。


 9匹、これで全員か。周囲の安全を確認、問題なし。短時間で人質も救出でき成果は上々か。


 人質の縄を切る。怯えた様子でこちらを見てくるのが不快だ。感謝感激雨霰、それくらいしてもいいものを。

 

「・・・また、殺したのですね」


「ああ、そうともルオナ女史。他の面々も諸手を挙げて賛同してくれた」


 俺に任せるとはつまりこういう事。嘘は言っていないし人質も全員無事なのだ、期待以上の成果を上げやった。これで文句を言うのならばその舌を引っこ抜くしかないだろう。


「やはり、貴方とは相知れないようですね・・・しかし、助けていただいたことには感謝します」


「そうか」

「エ~何それ?感じ悪いヨ!」


 講堂の扉が開きナイト達が入ってくる。


「巨人殿!」


「犯人は全員無力化、人質は全員無事だ」


「そうですか、ありがとうございます。ルオナ先生、ご無事で何よりです」


「・・・ええ、それより倒れている彼の治療を行ってもいいかしら?」


 指差した方向にはうめき声を上げ倒れている犯人の生存者。その周囲に広がる惨状を見て講堂に入ってきた面々は慄き気絶したり嘔吐したりしているヒトもいた。しかし、この犯人をどう扱うのか?少し楽しみだ。


「ルオナ先生、申し訳ありません。最初に謝っておきます」


 そう言うと槍を持って呻いているエルフに近づくナイト。その体は震えており呼吸は荒い。目が合うが、こちらは軽く竦めるだけだ。フィアは興味深そうにその大きな目にナイトを映している。


「い、いたい・・・た、たすけて」


「・・・ごめんなさい」「ギャッ!」


 槍を喉に突き立て、殺した。


「ほう」

「ヒューッ!なかなかやるネ!!」


 奇妙な静寂に包まれる。


「人質をとるという卑劣な真似をし、私利私欲のために私達を害しようとしていた犯人を処罰しました!」


 殺し方が下手だ。返り血で顔まで汚れている。だがそれが一層雰囲気を出している。地上から来た学生達の何人かが意図を察し整列すると敬礼をする。それにつられて呆然としていた学生も慌てて並び、続く。気分がいいので清潔な布を袋から出すとナイトに渡してやった。こいつは、正解かどうかは置いておくとして正しいことをした。

 

 エルフであるナイト自身が犯人のエルフを殺すことによりエルフという種に向けられていた不信感をかなり緩和させることになった。生徒から2人の離反者が出ている以上生半端な方法では駄目だっただろう。だが、それをやり遂げた。その覚悟に敬意を払おう。すぐに動いた学生達もそれを見抜けるほどには平和ボケから抜けてきたか。肉体や覚悟だけではない、思考さえもフルに使う。生きるための術が分かってきているようだ。


 ルオナ女史の顔色は悪く、表情は凍り付いている。彼女は認めるわけにはいかないのだ、だが生徒であるナイトを助けてやらねばならなくもある。背反した状況の中で今後どうするのか?まあ、いい。こちらの目的は済んだのだ。


「おい、包帯教師」


「ん、あ、ああ。噂には聞いていたが・・・本当に容赦が無いんだねダンナは」


「そんな事はどうでもいい、報酬をもらおうか」


「そう、だね。この事について何か言う資格は無いか。いや、人質も助けてくれてありがとう。感謝するよ・・・こっちへ来てくれ、図で説明したほうが早いと思う」


 そう言い歩き出す包帯教師の後に続いて講堂を出た。

色々修正しましたm(_ _)m二日酔いのダウナーテンション時に書くべきではなかった、反省しています。

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