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伝説のシャベル  作者: KY
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3-24 アース・フォール



 去っていく集団に背を向け前へと掘り進む。頭の上のフィアはご機嫌なようで鼻歌を歌っている、音程はかなり正確なようで不快感は無い。そういえば歌などの芸術文化はどの程度のものまであるのか。


「フフーン、フーン♪・・・ん?別に歌と踊りと笛とかダヨ」


 あまり変わらないか、歌も踊りもどの地域でも文化としてあった。それは自然なものなのか、人間は何故音楽を好むのか?他の野生動物には求愛、生殖目的の鳴き声や体の器官を利用した音はあっても単純な娯楽目的で『音楽』というものは無い。楽しむ、楽しもうとする精神が無ければそもそも娯楽というものは存在し得ないのか。考えたところで音楽を聴くのは気持ちがいい、ただそれが結論となるが。絵画等の芸術もまた然り。


「何か適当に歌ってくれ」


「エ?・・・フフーンまかせてヨ!歌と踊りは妖精のオハコだからネ!」


 牧歌的な歌詞にテンポな曲が多い。少々、刺激に富んだ音楽に慣れ親しんでいた身からすれば物足りなく感じる所もある。現状はのどかな生活ではない戦う身、悪くは無いし高い歌声は耳に気持ちがいいが眠くなりそうだ。アップテンポな曲も織り交ぜるように頼む。


 情熱的な歌、アップテンポ、だが変調する。スローに、だが声は高らかに響き小さな体に見合わず力強い。先ほどまでの歌も悪くは無かったが今の方が断然好みだ。それを伝えるとなぜか困ったような、照れたような顔をする。


「アチャー、今のはフィアが作った歌なのサ・・・」


 さらに驚くべきことに即興らしい。その割にはメロディやサビがしっかりとしており構成も纏まっている。こちらもかつて音楽や美術の成績が悪かったわけではない、むしろ上位ではあった。ただ、それは5段階評価で言えば4程度のものであり、自分の才能の無さは余計に身にしみていた。妖精が特別なのだろうか?


「ン~別に。だってサ、歌って自然に口に出るモノだヨ?さっきのは、おじ様のことを思い浮かべながら歌ってみたんだヨ」


 才能か。妖精自体が歌と踊りを暇つぶしに好むとも聞いた。何にせよBGMとして悪くは無い、今後も気が乗ったときには歌ってもらうとしよう。気分で歌が出来るのなら気が乗らなければ碌な歌にはならないだろうし。独特な音階やテンポが異国を感じさせる、良好な気分のまま掘削を続けた。



 視界の上から下まで貫く劣化したクリスタルのライン近くまで前進する。途中でフィアが何かに気がついたように歌を止める。


「アリャリャ?何か聞こえないカナおじ様?」


 そう言われて作業の手を止めると、そこまで大きくは無いが確かに何か低い音がする。しばらく様子を見ていたが動きも無くだが見当がつかない。仕方なく慎重に掘り進めることにする。音が進む毎に大きくなっていく、轟音の類ではない継続的な音だ。この近辺は非常にクリスタルが脆く掘りやすい、気をつけなければペースが早まる。だが注意するには少々遅かった。


「ぐっ!」「ヒャアッ!!」


 穴が空く、そこから入ってきたのは―――水だ!!瞬時にブーストをかけ全速力で来た道を引き返す、体力を考えることなくとにかく進み間抜け領域まで撤退した。猛烈な虚脱感、だが片ひざを突き耐え様子を伺う。これ以上体に負担をかけるのは危険だが溺死は勘弁だ、水が来れば体に鞭打ちもっと上へ避難する必要がある。フィアも緊張した様子で推移を伺う。


 だが、しばらく待っても水は来なかった。多少なり体力も回復してきたので慎重に様子を見に前進する。ある程度進むと多少水が流れ込んでいたものの量はそう多くは無い。穴を空けてしまった箇所まで進むことさえ出来た。穴からは多少水が入ってきていたがその先を見れば大部分の水は下の方向に落ちていっている。水は空気を含み白っぽく見え、飛沫が撥ねている。



 滝だ。遥か地上から底が見えぬ地底まで貫く巨大な滝。



 地上に降った雨が劣化したクリスタルの層を水路として通り、そしてそれらが集まった先がこのような滝なのだろう。音が大きくなかったのも、それは底が見えないほど深いからだ。


 危なかった、これが『滝』でなく、水道管のような『水路』であればその圧力は空けた穴をさらに大きくし、濁流に巻き込まれて土左衛門となっていたかもしれない。反省する必要がある。


 しかし、何とも雄大な光景だ。劣化したクリスタルと飛沫が何ともいえない虹のような光を見せている。しばし、佇んでその光景に見入っていた。  

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