3-22 間抜け領域
同行者2人を伴い進む、という訳ではない。動きがすばやく身体能力に優れた獣人らしいがそれでもこちらの速度にはとても及ばない。先行しつつ板や石などで分岐点に目印をつけ先に進む。すでに掘ってできた道をのんびりと歩くのは時間の無駄だ。当たり前だが掘りつつ進むのとただ進むのでは同じ距離を進むにも凄まじく時間がかかる。だいぶ2人と距離が離れてもこちらの掘る作業が終わる頃には合流することも出来るだろう。そもそもが生存者発見時の時間短縮が目的なのだ。故にロッカーと包帯教師は余剰の食料に水も持ってきている。
出発してすぐに後ろが見えなくなる。問題は無い、無理の無い程度に急いでくれればいいとは伝えてある。この前のムラ周辺のクリスタルは固いために少々遠回りでも迂回する新ルートを掘っていくこととする。あまりに多くの道を掘ると分岐が増えてややこしいことになりそうだ。看板や立て札の導入も検討するべきか。
この前のムラに行くルートの途中から下へ向けて道を掘り始める。目的地と同じ深さまで達したら横穴を掘っていく予定だ。早速作業に入ることにする。分岐に立て看板を作っておき穴を掘り始めた。フィアも何故だかご機嫌のようでいつものように頭にへばり付いていた。
「ン~?これは何なのかナ?」
「どうした?」
横穴に手をつけ始めたところでフィアが何かをキャッチしたようだ。空中に浮かび怪訝な顔で尻尾をぐるぐると回している。
「いや~反応がデスねー、上も下も右に左にバッラバラなんだヨー」
「ほう」
掘ってきた後方以外の視界は悪い、靄に囲われているようなものだ。近くの4,5mくらいなら何とか、それ以上は物影のようなものは見えてもそれが何か判別するのは難しい。所々透明感のある部分があり遠くのものが見える、だがそれが余計に感覚を狂わせる。注意深く進むしかない、クリスタルの劣化により掘り進むことは容易だが崩落の危険もまたある。よく押し固めて進む必要がある、いっそただ固いクリスタルの方がまだマシかもしれない。
思いのほか神経をすり減らす。土の塊や建材の欠片と思われるものがクリスタルに埋まっていたり急に空洞が現れたりもする。フィア曰くヒトの反応が10個ほどはあるらしい。ただモンスターの反応は無いとか。崩したクリスタルから白骨死体が現れる、シャベルを振るうとかなり時間が経っていたようで僅かな衝撃で崩れて粉となる。
ここは、ごちゃ混ぜだ。大地の欠片にヒトに建物にすべてがミキサーにかけられそのままぶちまけられたかのような乱雑ぶり。視界も悪く進むにも厄介。細かく掘り出す前に大き目の通路を作り安全を確保することにする。中々に手間取っていると後ろから獣人2人組が息を切らせながらやって来た。互いに疲労しているので少し小休止を取る。
「話には聞いていたけど、実際見てみればこの世のものとは思えない光景だね、これは」
「なにか目がチカチカします」
まったくだ、ストレンジワールドは良くも悪くも自分を飽きさせてくれない。地表の結晶砂漠でさえ異様なのに地底はもっと凄まじい。その上今この場所の奇抜さは群を抜いている。区画そのものがバラバラになって散らばったまま時が止まっているのだ。
しかし2人を並べてみれば、包帯教師の方が僅かに等身が高い。だが、他には特に違いが分からない。胸部もそんなにサイズが変わらないらしいが個人差か。いや、学生の獣人でも大きなものは居なかった気もする。
「ん?ダンナは何か気になることがあるのかい?」
年齢の見分けがつかないと言うと面白そうに笑った。
「若く見えるって言われて悪い気はしないけどね、まあ余程年をとらないと年齢が分からないってのはよくあることだよ」
微妙な変化はあるらしいが寿命が来る数年前までは比較的獣人、いやこの世界のヒトの身体の変化は乏しいらしい。もちろん細かな皺やスタイルなどの変化はあるらしいが。加齢による身体能力の低下があまり起こらないという点では合理的か、だがますますこの世界が異質に感じる。逆か、異邦人は自分に他ならないが。尚、獣人の名前というのは基本4文字で2語の繰り返しが一般的だそうだ。分かりやすくて結構なことだ。
「フィア、大分掘ったがどうだ?」
「ウン、いろんな方向から反応があるヨ!一番近いのは・・・ウーン、あっち!かなり近そうだヨ!」
「わかった」
休憩を終え指差されたほうへ掘り進む。劣化した部分を取り除いていくとその先で視界が開けた、まだ強固なクリスタルの部分に出たらしい。そして、それはあった。
「くくっ・・・」
「プッ・・・キャハハハハハハ!!」
笑えてくる、面白い。成る程、確かに急に時間が止まればこのようなこともあるだろうさ。だが、なんとも間が悪いことだ!ロッカーは顔を赤くしているし包帯教師も苦笑い。眼前には男女のエルフの姿。
よりにもよって性行為中だったとは!
鼻の穴を広げ必死な男の顔とどこか間抜けな半目の女の顔。実にシュールで変な顔だ!さらに、その少し奥にはこの2人とは無関係であろうが土の上で小便をしたままほっとした顔で固まっている女の姿!この領域は色々と空洞があったり劣化が進んでいたりしている上に色々なものがバラバラで、眼前には笑えてくるオブジェ。
間抜け領域とでも名付けようか。まったく!掘り起こすのにも忍びない。