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伝説のシャベル  作者: KY
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3-19 マーフィーの法則


 空間を確保しつつ掘り進む、だが強固なクリスタルは押し固めるにも限界があり頭陀袋に入れて搬出することとなり少々イラついてくる。点在する空洞に向け最短距離で穴を掘り空気を確保しながら進む。クリスタルに覆われた何人かのムラビトを発見、頭の方から途中まではガンガン崩していく。時が止まっている間は乱雑に扱っても傷つかない。後は腰あたりまで掘れば引っこ抜くことも可能だ。ただし大体が意識を取り戻すと混乱し上半身を激しく動かし暴れる。下半身は埋まっているので逃げることは無いが煩わしいものだ。まあ、このような奴らの相手が面倒で手間をかけてクイーンをトップとした統治機構を作らせたのだ。


 ところで、フィアも快活ではあるし巫山戯ることも多いとはいえ、実はそこまで多弁ではない。基本的に頭の上でのんびりとしていることが多いし殆ど会話もせず1日が終わることもままある。正直、あまり無駄な会話は好きではない。小粋な言葉遊びも楽しめるものだとは思うがすぐに疲れそうだ。寄生生物の本能なのか、それが元々の本質であるかは知らないが共に居てストレスを感じることが少ない。上手いタイミングで巫山戯るし話す。コミュニティ障害のケのある自分としては良くやるものだとは思うし以前ならば嫉妬もしたかもしれない、今はもはや気にすることも無いが。むしろ今の自分だからこそ上手くやれているのかもしれない。


 モンスターを殺し、ヒトを解放し、またモンスターを殺す。結局10人に満たないがムラビトを助けることはできた。一箇所にまとめて放り込んでいたところ互いに話をして落ち着いたのか話し声はするが叫びはしなくなった。ただ表情は明るいとはいえない、血族に知人の多くが死んでいる。親子連れを1組助けた、この2人が一番運が良かったのかもしれない。フィアのレーダーではモンスターの反応はまだあってもヒトの生き残りはもう周囲にはいないらしい。そのことを聞いたムラビトの一人が発狂し奇声を上げて転げまわるので物理的に黙らせた。・・・直る見込みも無ければ楽にしてやるのも手だろう。


 基本自分が誠意を持って暴れるムラビトを説得したためなのか随分と怖がってしまい話が進まない。フィアと契約していることを知ると多少なり警戒を解いたようだが。とりあえず簡単に現状を説明する、やはり最初は信じられないといった顔だったが目の前にはクリスタルに覆われたムラに風化した建屋。理解は学生達に比べれば早かった。


 それはともかくムラについての基本情報を聞く。


 人口は100人強のやや小規模なムラだったようだ、やはり予想通りムラの5割ほどの敷地及び建物が消失しているらしい。壁が破壊されモンスターが雪崩れ込み抵抗も叶わず壊滅的な被害を受けた所でその後の記憶が無いとか。責任者のような上の立場にいた奴はこの中には居なかった様だ。さて本題だ、食料庫がどこかを聞くと幸いにして消失していない区域にあるらしい。遠目に見える窓の無い建物が指差された。


 

 空洞を経由するように進んでいく。空気を得ると共に掘って押し固められなかったクリスタルを空洞に押し込み先へと進んでいく。建物の入り口付近に来るが、どうやら建物ごと時が止まっている様子。そして、建物の壁には穴が空いていた、中の様子は暗くて上手く窺い知る事はできない。だが、予想通りならば。


「フィア、いるか?」


「ん~、いるヨ!ちょっと大きいカナ?」


「そうか、下がってろ」


「気をつけてネおじ様!!」


 フィアを退避させると建物を包む劣化し始めたクリスタルにシャベルを突き入れる。空気が変わる、時が動き出したか。


 急に接近する大きな黒い影、眼前の建物の穴からだ。速い!回避は狭い通路では不可能、ヘッドギアの緑の宝玉にオーラを流し不可視の強力な衝撃弾を放つ。比較的近距離で炸裂し衝撃が自分にも襲い掛かってくる、モンスターはまだ健在、ただしダメージをうけバランスを崩した。この機を逃さずシャベルを馬上槍のように構えるとブーストで体を強化しながら突撃――衝突。敵の姿を把握、牛角さんか!感覚器である宝玉を割ることは叶わなかったが大きく傷をつけ大幅に戦闘力を奪うことに成功、そしてブーストを終了。暴れる牛角さんに篭手から雷撃の魔法を放ちつつ少し重くなった体を後退させる。動きの鈍くなった牛角さんに7スターリボルバーを抜き爆発の魔法で止めを刺す。その巨体が地響きを立て倒れると一息つくことが出来た。


「おじ様~!大丈夫だったかナ?」


「問題ない」


 フィアが戻ってくる、定位置に戻るとうつ伏せになって尻尾をぐるぐる回し始める。


「他には?」


「ん~、この建物にはいないヨ」


「よし」


 建屋内に入る、窓が無く暗いが目が慣れてくれば壊された壁から入ってくる光で見えるようになる。なるほど、確かにここは倉庫のようだ。生活用品と、おそらく穀物の粉であろう食料の詰まった袋が置いてある。足元に倒れている牛角さんを見る。正直今は微妙な気持ちになっている。久々の牛角さんは資材にしても食料にしても随分なご馳走で喜ばしい、だが牛角さんは随分と倉庫の中の食料を食い散らかしていたようだ。勿論1匹だけなので食べられた量はそんなに多くは無いが、穴の空いた袋や地面に散らばって少々鼻もムズムズしてきている。ただこれらも今は貴重な食料だ。量も中々のものがある、救援が来るまでの繋ぎの意味合いであった学園の貯蓄よりも立て籠もる目的で貯められていたようでかなりのものだ。ムラビトの人口はもう1割にも満たない、随分と余剰食糧が生じただろう。


 さて、予想外に早く食料が手に入った。ここのムラビトたちを連れて一度学園に戻り人足を地上まで呼ばせなくてはならない、わざわざ自分が運ぶのは面倒だ、牛角さんは全力を持って運ばせてもらうが。こう、入念に準備をしたときに限りすぐさま地上のガキ共を呼ぶことになるというのも何かの法則といったものか。この場合、学園に全員を留まらせていれば逆に中々食料を手に入れられないのだろう。偶然に過ぎない物事が常に裏目にでてしまうように感じるのは人間の傲慢といったものだろうか。


 ただし危機管理や覚悟を決める分には有用だ。マーフィーの法則というユーモラスなモノは。


 さて、第2拠点まで引き返すことにしよう。残留している奴に話をつけ地上まで連絡してもらわねばならない、またムラビトも希望者は地上まで行って貰おう。まあ、何もせずずっと拠点に居られても迷惑なので拠点で仕事をするか地上で働くかの2択だ。ああ、あとは勝手に野たれ死ぬ事も選択とすると3択か。どれを選ぶも個人の選択に任せよう、命の使い方は自由なのだ。 

  


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