表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伝説のシャベル  作者: KY
80/203

3-18 心理と一般教養の育む罪悪感

「うわあああ!きょ、巨人!?命だけはお助けを」

「うわ、え、あ、壁?何だよ何だよ!!」


 生き残りはひどく混乱しているようだ。休憩ついでに少し放置しておく。どうせ逃げ場は無いししばらくすれば勝手に静かになる。そう思ってはいたが中々に迷走と奇行は終わらず何故か土下座のような格好で命乞いをしてきた。キリがないのでフィアに声をかけさせる。『妖精様』の効果は中々に覿面。だが今度は助かったということを理解した後は質問攻めだ。


 後で説明すると言ったが、五月蝿い。またフィアに黙るよう伝えさせたが命の危険がないと分かると精神も図々しくなるのか?まだ黙らないので爆発の魔法の花火で楽しませ、目と目を合わせて真摯にお願いしたところ分かってもらえたようで静かになった。しかしいくらこちらの態度に感極まったとはいえ地面に広がった黄色い液体と汚れたズボンは頂けない。


 

 穴を掘りながら進む。島の土、正真正銘の茶色い土の表面付近のクリスタルは比較的脆い様だ。ただそれでも周囲と比較しての話であり強固な存在であることには変わりはない。ただ、やはり島に面している部分から劣化は進みやすいようだ。


 完全にクリスタルに包まれている野犬を発見。掘り進み近づく。尻のほうから少しずつクリスタルを削っていく。尻と尾の部分を発掘する、動きは無い。力を込めシャベルで尻を突く。手に強い反動、固いものを叩いたような音も無い。だがしかし、シャベルによる攻撃はいまだ時を凍らされている野犬に傷一つつける事はできなかった。近づきよく観察すれば毛の一本一本まで破壊することはできない。奇妙なものだ、実に奇怪。周囲のクリスタルは固くても崩せるのに中に包まれたものは破壊できないとは。


 削る作業を再開する。半分弱程を掘り返すと急に足と尾をばたつかせ始めた。少し距離をとり観察する。そのまま野犬は暴れ続けていたがしばらく経つと静かになり動かなくなった。どうやら、酸欠のようだ。クリスタルを自力で砕けない存在が顔付近を覆われたまま解凍され時が動き出せば幻想的なクリスタルの世界に感動することなく息ができずに死んでいくのだろう。


 そう考えれば、これはかなり悲惨な事だ。仮に完全にクリスタルに埋もれていたヒトの劣化が足元から始まった場合、ある程度進行するとそこで目が覚める。目を開くと視界は普通に見える、ただ体は下半身以外が動かず混乱と恐怖に包まれ苦悶の死を遂げる。


 仮に逆のパターン、上半身から劣化が始まった場合は上手く下半身を引っこ抜くことができない場合に意識を持ったままその場から動くこともできず食糧もとれず絶望の中に餓死していくのだろう。恐ろしいことだ。ただ、上手いこと体の自由を取り戻せたとしてもよほど広い空洞さら時間が止まっていない場合は物資不足で死ぬ以外に道は無いのだが。ちらほら見える白骨死体はそのような死に方をしたのか、流石に哀れに思う。


 ・・・思うだけだが。



 この発見はこの先非常に役立つ、言ってしまえばワンサイドゲームの方法だ。相手が動けない所に安全圏から攻撃を仕掛けられる。魔法を使う敵でも宝玉の向いていない方向から攻めていけばいいのだ。ただしこのことに関しては違和感を感じる。殺し殺され喰い喰われ、不意を突いて襲い掛かったり万全の準備をして狩に臨む事も常ではある。ただ身動きの取れない相手を一方的に嬲るのはどうなのか。


 しかし考えても答えは当たり前のものだ。これも余裕があるから考える傲慢な雑念だろう。世界やら運命とやらは恐ろしいものだ、何かの手違いで自分が身動きが取れず喰われていく立場にもなっていたのかもしれない。それは理不尽だ、目の前のもう動かない野犬も。それでもそれを許容してしまう世界が恐ろしく自分という存在なんぞあまりに小さく無力だ。結局は生きるために最善の行動をとる事こそ大事なのかもしれない。


 雑念、これが案外多い事に気がつく。無為な行動であるし、本能の邪魔をして行動を鈍らせるものだ。ただこれが人間を人間たらしめているのだと思う。何の因果か考える生物として造られてしまっているんだ、だから仮に原始的な生活をしていても脳が自分を使えと叫ぶ。考えることそのものが欲求であり抗いがたいものだ。これからも変なところに悩み、考え、無駄な行動をしていく事だろう。ただそれが人間なのだとしたら仕方の無いことだ。



 クリスタルに埋もれたままのモンスターを次々と目覚めさせ、酸欠にして殺していく。自分も何となく息苦しくなってきた、いや気のせいではない。フィアの息も僅かに荒くなっている。掘ってきた道を急いで、かつ慌てずに戻る。クリスタルの中を掘っている際酸欠にならないのは入り口が地上にある以外に、ある程度空気を透過させる性質があるものだと思っていた。それはある意味正しいのだろう、ただ劣化の度合いの低い場所では空気の透過性もやや悪いようだ。クリスタルは相変わらず良くわからない性質を持つ。もっとも直ぐに酸欠となるわけではないが。


 とりあえず、通路を大きめに掘ることで対処する。中々にタイムロスとなってしまうが仕方が無い事、生命活動はあまりにも多く外の因子に頼っている。体の構造だけなら機械が羨ましくなる、無駄の無い形。まったく生きるとはままならぬものだ。


 


学園編、生徒会長視点をサブストーリーとしてナンバリングしなおしました。3章は賛否分かれているため書き直していく可能性もあります。主人公喋らせるのが難しいです・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ