3-17 D・I・G~襲われ続ける村~
一度学園まで戻ると小休止をとり穴を掘ることにする。学園に残留している生徒達の行動を縛ることは特にしていない。ただ何もしないというのも不毛だと思いこちらの指示があるまでは学園内で使えるものを集めたり図書室などで有益な情報を集めるように言った。
さて、いままでは下へばかり掘ることも多かったがこの学園の周囲にはいくつか調べてみたい場所がある。靄がかかり中がよく見えない空間もいくつか存在していたしここを拠点に植物の根が横にも生えるように探索を進めていく。ただ、今から向かおうとしているのは遠目でも村があると分かる場所だ。島の周囲のクリスタルがどういうわけか分からないがあまり劣化していないのだろう。探索には手間取りそうだが時間が凍結していれば有用な物資が腐ったり風化したりせず残っている可能性が高い。それにどうやら生命反応があるとフィアが言った。動いている気配は無いらしいので埋もれているのか。
とにかく進んでみることにする。行けば分かる、下手に考えていても仕方が無いことが多い。考えて上手くいくのは知識がバックボーンにある場合だ。まだまだ無知、だから面白くもある。
掘り進めていくが、思いの他固い。もっとも掘れないほどではない。同じように見える透明なクリスタルでも微妙にムラがあるのかもしれない。それが風化した都市と埋もれて眠り続ける都市との分岐か。腕が張る、疲れる、ただし着実に前へ向かって掘り進んでいった。人影が見えてきた、人形のように全く動いていない。この距離から見えるのであれば綺麗に埋もれているのだろう。
到着、島のサイズは小~中規模。村の一部が切り取られたかのように存在している。クリスタルが劣化して空洞となっている部分もちらほらと見られるが、かなりの部分を透明なクリスタルに覆われている。埋もれたままの建物も見えるし風化した人工物も空洞に見られる。空洞には白骨死体もあるし、珍しいものでまだ死んで幾ばくも経っていなさそうな痩せこけた死体も見られる。だが、非常に興味深く、そして学園から疑問に思っていた回答もあった。
明らかに空洞でクリスタルに満たされていないのだが、それでも時間が凍っている部分がある。牙付きに襲われているヒトビト、ほぼ全員がヒューマンか。なんと空中に血しぶきまでもが止まっているのが見えた。空間ごと時間を凍結させられているようだ。合点がいった、以前島の空洞に進入したときに一斉にモンスターに襲われていたのも、屋根がある学園がそのまま時間が凍結させられていたのもこのような効果があるためか。それがクリスタルの経年劣化や外から空間を覆うクリスタルに干渉することにより時間が再び流れ出すのだろう。
村中心部付近まで掘り進み周囲を見渡す。クリスタルに覆われたままのモンスター達、僅かなヒト、膨大な死体、肉片、血痕。このムラは襲われている最中に時間が止まったらしい。道や建物が中途半端なところで途切れている。元はもっと大きい一つのムラだったのだろう。創造神サマとやらは地表にあるものを随分と乱暴に掻き混ぜて過剰なほどのクリスタルで蓋をしたようだ。まあ、このクリスタルの世界を作り出したのが創造神サマという考えもフィアの昔話を聞いたうえでの推測に過ぎないのだが。ただモンスターがやったにしては理由が無さ過ぎる。
必至の形相で逃げようとしてそのまま固まっているムラビト、かなりシュールな光景だ。美男美女のスポーツ選手でも力を込める瞬間は顔が歪み百面相が楽しめる。多くのヒトがそんな感じだ。しかし、どうにもこのヒトビトの年がわからん。髪の色が白く皺までよっていればなんとか高齢者と分かるが、そうでなければ皆一様に幼く見える。西洋人にとって東洋人の年齢が分かりにくいようなものか?それよりもはるかに分かり難いが。ただ、一様に老人に見えるよりかはマシだろう。
お、女のムラビトのポロリがあった。そのまま時間が止まっている。これは見事、服が裂けていて腹から内臓がポロリ。まだ地面に落ちきっていないしこの状態で時間が動き出したら地獄だろう。まあ体の中身を他人にずっとさらしているよりかはさっさと死んでいたほうが遥かにマシかもしれないが。助けられないし五月蝿そうなのでこのままスルーしていく。遥か未来までこのままいる事ができれば最先端医療で命を永らえることができるかもしれない、グッドラック!
フィアに聞いてみるがあまりヒトが生きている数は多くはなさそうだ。そして時間が流れ出しても重傷者は助かるまい。
やや広い空洞の近くへ移動、ここには必至の形相で逃げる2人のムラビトと牙付きに背中から押し倒され頭を噛み砕かれる寸前の若い女のムラビトがいる。この空洞周囲のクリスタルをシャベルで削れば動き出すだろう。もちろん牙付きの顎もだ。完全にクリスタルに覆われているのなら化石を発掘するかのように襲われているヒトだけを掘り起こし助けることもできるがいかんせん空洞の中。このまま進めば女のムラビトは動き出した時間と牙に脳漿をぶちまけることになるだろう。
「おじ様どうするのカナ?」
フィアが問う。女性の命を奪う引き金を、自分がその引き金を引いてしまうことになる。自分がこの罪のない女性の命を散らしてしまっていいのか!もっとよく考えれば何かいい方法が浮かぶのではないか?考えれば、何かアイデアが
―――しるかー。
前進前進出発進行。
ザクリ。
「キャアア」グチャッ!!「グルル・・・」「うわああああああ!ダッ!」「助けてくれー!!いてっ!」
時間が動き出した、逃げていたムラビト達はそのまま空洞の端にぶつかる。女性は顎から上がおさらば、そして満足げな牙付きは。
「GOGO!おじ様!」
「それきた」
グシャ、シャベルに潰された。