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伝説のシャベル  作者: KY
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3-16 必要だった足踏み

 とりあえずクイーンに要望について言おうとしたが、代表者たちを集めるので少し待っていて欲しいと言われた。正直今ここを牛耳っているのはクイーンなのでわざわざ集める必要はないと思ったが、それを承知の上で集める、と聞いた。まあ、どこの場所でも五月蝿い奴はいる。メリットや事情を考えずただ不備な点だけをネチネチと攻める輩だ。よい目的へ進むための話し合いでただ相手を攻めて優越感に浸るだけの愚物。そういう輩には多数決や皆が賛成したという事実が黙らせるのには便利だ。


 助けたヒト、これから助けるであろうヒトに関しては極力手間をかけたくない。その中で、集団の意思決定をどのような形で行っていくかが重要となる。自分としては、友好的なリーダーが強い権限を持つ独裁的な体制を望んでいる。独裁という言葉を悪と決め付けるのは良くない。むしろ民主主義の方が困窮時に衆愚政治と成り果てる可能性が高いと思う。全員が良識と知識を持ちより良い社会を作ろうとするならまあ、いいのだろうが。 往々にしてそういうことはまず無い。良識と判断力に優れたリーダーがいればそちらのほうが行動も早く様々な事態に有効に対処できる。


 クイーンは見たところ生来の仕切り屋だ。そしてそれを自覚している節がある。こちらとしても面倒なことを丸投げできて渡りに船、WIN-WINな関係というヤツだろう。



 とりあえず会議とやらが始まったのでこちらの要求を伝えた。簡単に言えばこの学園を地下探索の拠点にするため明け渡すこと、今後助けたヒトの分の水と食料を残していくこと、連絡及び雑務要員の学園への残留だ。色々紛糾していたようだが大筋でこちらの意見が通った。当然だ、こちらも全く理不尽な要求はしていないからだ。正直一人、いや頭の上のフィアと二人なら拠点も物資も、目の前のこいつらの命でさえ必要ないのだ。


 クイーンに目的を聞かれた。


 地下の底、創造神サマとやらを目指すと聞かれた。何故か?このゲームのクリア目標だからだ。なるべく愉しまなくては。


 なぜ私達を助けるのか?再びクイーンに聞かれた。


 何故か?確かに助けるのは面倒、こちらの利点は殆ど無い。ただ、これもイベントだと思っているだけだ。物語に必要なアクセント、こっちが穴掘っている間に何か面白い事を仕出かしてくれれば尚良い。詰まるところ。


 スパイスのようなものだ。そう返した。


 シミュレーターのようなものか。人員と最低限の環境を用意し後は自然に発展、もしくは滅亡していく様を見るのだ。案外こんなゲームも好きだった。もしくはレミングスか?直進しかしないほど愚かではないと思うが。引っこ抜いて付いて来る生物くらいには役立ってくれると助かるが高望みというものだろう。


 あきれたような目で見られたがまあ、当然だろう。下手に命に価値を見出そうとしなければ楽しみ甲斐もある、他者の命であれ自分の命であれ。




 地上へ脱出する準備が整いつつあるというのでシャベルを片手に通路を掘ることにする。学園の上から侵入してきたためその道は使えない、さらに急いで掘ってきたために角度も急で細い。しっかりと掘って進んでいたところまで道を繋げなければならない。学園の屋根やモンスターよりも強固なクリスタルの土を掘り、押し固めて進んでいく。中々に力が要るが掘り返したものは結構な量を押し固める事が可能だ。もちろん固められた壁も強固になる。崩落はなるべく防ぎたい、急な地殻変動で埋もれてしまったときにはそれもまた運命なのだろう。


 まあ、どうにもならないもんは考えても仕方が無い。


 そんなことを考えながら掘り進む。校庭では荷物の運び出しが着々と進んでいるようだった。


 そういえば興味深い話を聞けた。荷物の確認をしていたクイーンが、地上で見かけた渋くて食べられなかった白い花を水に入れていたのだ。花自体は食べられなくとも水を長持ちさせる効果があるとか。このような知識は貴重だ。有益な情報があれば対価を支払ってもいい。思えば自分もこの世界では若手、知らないことも多いし何を知るべきかについてもわからないことが多い。トライアンドエラーが基本ではあるが拾い上げられる知識は出所を問わず活用していきたいものだ。 


 ともあれ、出発。予想通り亀の歩みだ。体が小さい上に極限まで荷物を持っているのだから仕方が無いといえる。通路を補強しながら進んでいくのとほぼ同じペースとなったので都合がいいといえばそう言えた。とはいえ結構頻繁に小休止を求めてくるには辟易した。無理に歩かせてもすぐ潰れるだけだから休ませる他無いが。しかし体力をつけないと地上で苦労することは必至だ。一朝一夕でどうにかなるものでもないが。 

 

 いや、なったな。具体的な例を挙げれば自分に他ならない。牙付きを殺して喰らったら身体能力が跳ね上がったではないか。


 ならばモンスターを倒したことのある生徒ならばかなりの労働力になるのではないか?そう思ってクイーンに尋ねたが、モンスターを間近で倒してそのオーラの奔流で体調を崩すヒトはあっても強くなることは無いらしい。モンスターの肉を食えるかの可否も含め何かしらの相違点が自分とこの世界のヒトにはあるのだろう。まずサイズが異なるのだが。


 今まで掘ってきた通路に合流し、しばらく進めば分岐まで出た。この先にはミストエイプ、白い猿達がいた廃村がある。まだ水の残りがあったはずだ、多少古くなってはいるかもしれないが。それに広いし地面が平らだ。キャンプ地としては上等だ。到着後なにやら生徒が一人足りないとやらでクイーンと数人があわてて道を引き返しに行った。しっかりまとめてくれなければ困る、全くこれだからヒトをまとめるというのは面倒なんだ。押し付けてよかった。


 結局生徒と合流できたらしい。詰まらん。まあこれで仲違いでもされたら面倒だったから良かったといえるか。


 

 一晩明かすと生徒達はクイーンにまかせて先行する。拠点である大岩の島付近が地下通路の入り口だが周囲にはそれなりの数の野犬や牙付きが出る。ちっこく非力なヤツではいい餌にしかならない。仕方が無いのでもっと辺境まで地下通路を伸ばす。例外的な辺境の島でそれなりのサイズと資源がある島があるのでその周辺を地上の拠点としてもらう。


 通路を掘り続け地上に出れば目的の島の近くに出た。島には以前探索時に食用の植物の種を蒔いておいた、成長スピードも早いなんとも都合のいい植物。人工的に作られたかのようだ。進化というものがあれば異常なほど少ない植生や生物相の種類、一定の温度に周期的な天気、奇妙な疑問点は多い。その答えを知ることもまた目的の一つでもある。


 島の近くの地下に空間を造っていく。流石に押し固めるだけでは厳しいのでえっちらおっちら外へ運ぶ。とにかく広く、所々柱を残すように掘り、部屋もたくさん作る。部屋といっても家具も無い竪穴のようなものだが。


 空間造りが完成していい仕事をした後の余韻に浸っているとクイーンたちがやってきた。思ったよりやや早い、これはうれしい誤算だろう。なにより待たずに済んだ。


 全員が到着した後、地上へと案内してやる。空を見て喜ぶ小人達、気持ちはわからんでもない。ただ、自分はここが閉ざされた世界であることを知っている。それを思えばこの空も太陽も胡乱なものに見えてくるのだ。


 フィアに髪を引っ張られたのでどうかしたか尋ねれば野犬が近くまで来ているのではないかということ。こいつらの地上デビューの観客としていいタイミングで来たものだ。このことをクイーンに伝えると、退避指示を出そうとしたので止める。トラウマになっている奴らも多いだろうが・・・それでも野犬一匹くらい始末できずに地上で生きようとするなどおこがましい。


 戦うモノの目になったクイーンが指示を出し迎撃体制をとる。それでも逃げ出したり隠れたりするものもいる。こいつらは正直今後邪魔になる、始末してもいいだろう。野犬は武器を構えたヒトの群れを確認すると逃げていった。それを呆然と見送る生徒達。当たり前だ、野犬は臆病だ。武器を構えて戦意満々の集団がいたらそりゃあ逃げ出す。無駄死にはしたくないだろうからな。こちらとしては野犬一匹にここまで仰々しい歓迎会を開いたことのほうが笑えて来たが。


 ただ、今後はこいつらだけで野犬程度追い払ってもらわなくては困る。一対一で追い払えといっているわけではない、集団であれ何であれ追い払えればそれでいい。もちろん始末したほうが増援を呼ばれずより安全だと思う。


 島を先導しつつ軽く周り元の場所へ戻ってきた。正直この島だけでは全員分の資源をまかなえない。それは承知している。そこで生存基本プランA、補助プランBを提案した。


 Aは今後俺が地下を掘っていく上でヒトを助けることもあるだろうし町村の食料保管庫を確保できることもあると思う。場所によっては生存者0で物資だけ残留しているところも少なからずあるだろう。


 Bは地上だけで生徒達が生活できるようにするものだ。別の島の開拓、物資の採取が必須となり危険性も高いが十分な量の食料が手に入らなかった場合や俺が地上に戻ってこなかった場合を想定したものだ。A、Bのどちらも並行して進めていくべきだろう。そしてこの2つのプランをクイーン達も承諾した。



 ようやく、ようやく面倒なことは終わった!今後は生存者や物資を投げ込んでおくだけで上手いことやってくれるだろう。というかやってくれないと困る。よって今後も新しい生存者の年齢や立場の関係なくクイーンを代表者として接するということを伝えた。驚きと、喜びが見て取れた。仕切り屋め。


 何にせよ、これでようやく先へと歩みを進めることができる。


「おじ様、お疲れサマ!」


 全くだ。異世界人との触れ合い、興味深く面白いところも多くあったが。やはり、面倒だ。やはり群れるのは性に合わないと再認識させられた。まあ、いい。それを見越して行動し、うまく誘導でき結果としてもまあまあ満足できるものになったのだから。



 さあ、掘ろう。GO AHEAD!!冒険が俺を待っている。




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