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伝説のシャベル  作者: KY
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3-15 スカベンジャー

 耳を澄ませれば、どうにも青臭い話がされているようだ。それで納得して上手いこと動いてくれるならそれでいい。こちらも望むような答えくらいは妥協して返してやろう。何事もスムーズに進むに越したことは無い。


 さて、やはり大人数の集団というものは煩わしい。とはいえ少々の手間と時間をかけても一度ここでしっかりと地盤を固めたほうが今後の活動をスムーズにさせる筈だ。目的地は地底、ただ途中にヒトを助けるというサブミッションがくっついている。多少の不自由は達成感に繋がる、まあ最悪の事態のときは切り捨てればいいだけだ。


 とにかくここを拠点の1つとして使うに当たりなるべく快適なものにしたいものだ。そう考えると清掃まではともかく、腐臭を放ちそうな死体は回収して埋めるなり荼毘に臥したりした方がいい。ついでにここのガキ共に恩の押し売りをしてやれば丁度いいだろう。


校内は一度回っているため大まかな間取りはわかるが死体は生き物では無い為に捜すのが面倒だ。当たり前のことを言っただけだが、結局フィアがこの作業に関しては役立たずということだ。それでも見つけたカーテン等を体に巻き作業を始める。頭陀袋は大きいものを持ってはいるが、流石に運ぶのには時間がかかりそうだ。重量はともかく袋に入らない。結構なスプラッタな状態になっているために散らばった手足や肉片を集めるのも手間だ。やはり作業員を出させるべきだったか?最初は頑張ろうと思っても途中で後悔することもよくある。ただし精神的には面倒だが体力的にはまったく問題が無いので黙々と作業を続けることにする。


 しかし先ほどから物陰からチラチラこちらを見ているヤツがいる。


「・・・何か用か?」


 ビクッと震えて引っ込む、コントか。作業を続けることにする、何か用があれば向こうから来るだろう。視線を感じるが無視して肉塊を集めては運ぶ。多少の血は仕方ないにしても腐臭は勘弁だ。冷蔵庫の奥に仕舞われていたいつのものか分からないタッパーの中身。思い出しただけでも震えがくる。


「あの・・・」


 意を決したかようやくこっちまで来た。見覚えがある、確かロッカーに隠れていた獣人か。こちらはさっき「何か用か」とすでに聞いている、黙々と作業を続ける。


「て、手伝います」


「かまわんが、自分の仕事は?」


「校舎から助けられた生徒はしばらく休んでいてもいいって言われて」


 半分見捨てるような形で講堂に逃げ込んだ負い目でもあるのか?まあそこ等辺の人事は俺が関与することでもない。


「なら散らばった肉片を集めといてくれ、大きいのはこちらで処理する」


 掃除用具入れ、ロッカーを指差してやる。箒か何かを使えばいい。


「ロッカー、だぁ」


「そうだな」


「・・・うん」


 後は黙々と互いに手を動かしていた。もっともロッカー娘は何度も休憩を挟んでいたが。それなりに時間がかかったが校庭まで回収した死体を運ぶと並べる。その脇にシャベルで溝を掘っておけば完成だ。


「お、おつかれさまです」


「ああ」


 僅かではあるが時間短縮になった、労働の対価はくれてやるか。リュックから白玉の実と使っていないなめした毛皮を取り出すと渡してやる。加工すれば学生服よりかはマシなものができるだろう。


「あ、ありがとう」


 白玉の殻を割ろうと尖った歯をたてている、そんなに硬くは無いと思ったが。しかし獣人と言うだけあって尖った歯を持っているようだ。ようやく殻にヒビをいれると案外器用に前歯を使って殻を剥き食べ始めた。強靭な顎と歯は生き抜くには有利か。食べ終わったのを見計らい共に講堂に戻ることにした。ついでに会長サマに早く来るように声をかけてくるよう依頼した。



 会長サマと人形面がやってきた、なにやら少し雰囲気が変わったか?別に同姓同士で特別な関係になってもかまわないが時間を場所を弁えてほしいものだ。



「来たか、クイーン」


「何ですか早々、私のことですか?」


「外れてはいないと思うが」


「・・・否定はしませんが」


 認めたか。いい兆候だ、この調子でヒトを上手いことまとめてもらいたい。


「ナイトもついてきたか」


 人形面から少し表情が柔らかくなっている、べつにそのままパペットでもよかったがクイーンにはナイトだ。恋愛ものの話はキングとクイーンではなく王族と従者だろう。昔地球でとある小説投稿サイトで読んだものだ。あの頃は良い事は少なかったが壊滅的に悪いこともまだ無い時期だった。少し過去を懐かしむが、首を軽く振る。それはもう過去のことだ、今ではない。


 ちなみにフィアの考えた渾名は独裁者と人形、ルオナ女史が博愛主義者だ。酷いネーミングセンスだ。俺も似たようなものだが、あとルオナ女史については全面的に同意するが。二人とも微妙な表情でフィアの考えた渾名を聞いていたが、それよりはマシだと思ったのだろう。クイーンとナイトに反論しなかった。


 しかしクイーンやナイトという単語があるということは封建的なものがあったのかもしれない。情報収集をかねて色々聞いてみる事にする。フィアは、というか妖精全体がある意味深窓の令嬢、むしろ引きこもりに近いらしいのでそういう話題には疎かったためだ。とりあえず話によると特に封建的なモノではなくあくまで代表者として王という単語があるだけらしい。ただしやはり重要なポストについている家系はそれなりに力を持っていたらしいが。兵士や騎士といった言葉はモンスターが襲来してから初めて作られた言葉で騎士は兵士の上官に当たるものらしい。それまでは一切の大きな争いどころか重大な犯罪すら無かったとか。とんだ温い世界だったようだな。


 

 校庭に出るとクイーンとナイトが目を丸くして驚いていた。もっと驚いてくれてもいい、俺の努力の成果だ。


「巨人様、感謝します。私達がやるべき事でしたのに・・・手の空いてるヒトを集めて弔います」


 実際は拠点として使うために集めたのだが、勝手に勘違いしてくれたのでその流れに乗る。ただ、少し悪戯心が沸いた。


「ほう、食わないのか?」


「 ・・・は?」


 もちろん本気で食べるとは思っていない。唖然とするのも当然だろう、自分だってヒトを食べる趣味は流石に無い。ただ、完全にそのことが冗談というわけではない。食料が無い状態で、餓死寸前のヒトは人肉食を必ずしもしないと言い切れるだろうか?凄惨な飛行機事故で食料の無い雪山で生き残るためにどうしたのか、西部へ向かう開拓民が冬に足止めをくらいどのように生き延びたか、包囲された城で兵士の食料を確保するために何が行われたか、ヒトがヒトを食べる話は古今東西ありふれたものだ。物理的にではなく経済的なものや精神的なものまで含めたら本当にキリもない。


 真剣な表情になるクイーン、こちらの言おうとする事は分かっていただけたようだ。

 

「エー?イヤーン、フィアおじ様に食べられちゃう?」


 水を差す奴もいる。コイツの場合は本当にヒトを食って生きているようなものだ。寄生虫が。ただプニプニしているし噛み応えは案外面白いのかもしれない。妖精の踊り食い、まあやる気は無い・・・とも言い切れない。少し面白そうだ。敵対する妖精が出てきたらそのときはどうするかわからんな。


 

 さて、大分死体も埋められてきたようだ。恩は売った、恐怖感も与えるように言動をしてきた。そろそろこちらの本題を切り出すことにしよう。


 拒否権などもちろん与えはしないが。



主人公視点学園編次で終わります。

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