3-14 意思の行方
さて、話し合いとやらが始まるまで待っていてくれと言われたので小さい椅子に座って待つ。サイズ的にはアウトドアなどに持っていくコンパクトな背もたれの無い折りたたみ椅子だ。置いてある椅子の中で一番大きいとはいえ窮屈だが、地べたに座るよりかはマシか。
銀髪のエルフを紹介された、リリエルとか言うらしい。顔は整っているが人形みたいな奴だ。身長は120cm弱はあるか?ただし線がかなり細い。名乗られたので名乗り返すが別に話すことも無い。異種族との遭遇はそれなりに興味深いものであったが。
次に、ちっこい女の先生がなにやら怖い目つきでやってくる。さて、上手いこと答えを返さないといけない、少なくとも組織をまとめて上手いく運営してもらうところまではうまいこと持って行かなくては。主に俺の心の安寧のために。
話を聞くと、どうにも助けるのに順番をつけたのがお気に召さない様子。いるのだこういう手合、正直うんざりする。敵と戦う感心な生徒と逃げ場も無く無様に逃げる生徒、どっちがいい子ですか?それはもちろん前者に決まってるだろうに。ムキに相手にするのも疲れるし罵倒するとこれまた煩そうなので理論武装して返事をする。べつに人権がどうこういうのは勝手にやってくれればいいが押し付けがましいのは御免だ。結果的にはそういう意味ではあまり煩くがなりたてなかったルオナ女史の態度は評価してもいい。ただ一つ、文句を言うなら自分がやれとは思ったが
、自分を囮にする気概は見せてもらったので言わないでおく。淡々と理屈をこねて意見を言う。案外これが強かったりする。特にどこかしら負い目や弱点のある相手には効く。ただしたまに逆ギレされるから要注意だ。
なにやら会議場の入り口で一悶着あったらしいがさっさと収拾つけて早く会議とやらを終わらせて欲しい。とりあえず被害の状況を聞くと、避難していた生徒のうち100人弱が死んで負傷者もそこそこでたとの事。良いニュースは物資が倉庫にそれなりにはあるという事。まあ、人数が減っていたことはこちらにとっては悪いことばかりでもない、数が多すぎて動きが悪くなることも組織が割れることもあるだろう。何よりも食料を多く消費する。ヒト一人が1年生きていくのに必要な水と飯の量を考えても見ればそれが100人分というのがいかに大変かが分かるだろう。
さて、ようやく出番か。外の世界、地上について話をしてやる。ある生徒が外の結晶質の土のことをクリスタルと言った。言いやすく語呂がいいのでこれからその言葉を採用することにする、土を掘るのではなくクリスタルを砕いて進むほうが格好いい。とりあえず説明したことの根拠等を風化した学園周囲の建物や埋もれていた生徒を事例として挙げたところ大体の奴等には納得してもらえたのだが。
「嘘だ!でたらめを言うな!!」
「それはそっちが決めろ。俺はただ話しただけだ」
「なあっ!?」
「ふわーあー、あーもう煩くて目が覚めちゃったヨ!おじ様が嘘をつく必要も無いのにヒドイヒトたちだネー」
まあ、正直なところにわかには信じられない話だろうから別に何か言われても怒る事は無い。ただしこれが現実、認められない奴は勝手に死ねばいい。ガキの声が煩かったので頭の上のもっと騒がしいのが起きてしまった。
「よ、妖精さま・・・」
「そもそもネー、おじ様がアナタ達助ける義務なんてないんだヨ?」
「で、では妖精さま!この巨人に命令して私達の手助けをさせ・・・えっ?」
フィアが飛んでいき尻尾を刺すと煩いやつは静かになった。珍しくナイスプレーだ。殊勝なことに立場も良く分かっている、俺がフィアの下ではなくフィアが俺の居候なのだ。しかしシドとかいう得体の知れないモノを埋め込まないとオーラを吸えないのではないかと聞いたがオーラ自体は吸えるけれどもあまり上手く取り込めないという事。それでもわずかには吸えるということなので契約前によく俺にくっついていたらしい、いや今も大体常にくっついているが。
小休止を挟みたいといったので体をほぐしつつ散歩することにする、人ごみは面倒だ。だが空気の読めないエルフがやって来た。アテマとかいうガキだ、当て馬と呼ぶか。当て馬はフィアと契約したいとか言っていたがフィアがあっさりと拒否した。新しいシドの生成にはまだ時間が時間がかかり物理的にも無理で、どうにも生理的にもどろどろした性格が透けて見えてて受け付けないらしい。
ちなみに妖精は基本、始原の大樹より外へはオーラ不足で中々出られないため契約を行いオーラを補給する必要があるのだが、腹一杯に吸えるほどのオーラを持つヒトはまずいないらしく外で知的好奇心は満たせても体はひもじい思いをするらしい。その点俺は例外らしい、気兼ねすることなく存分に吸えるとの事。少しは自重しろ居候。
何やら当て馬が世界から追放された巨人云々言っているが、こっちはこの世界の巨人族やらとは無関係なので勝手にやっていろといった感じだ。ただ、あまり煩いと口を塞ぎたくなってくる。物理的に。まあそれは会長サマの横槍が入ってできなかったが。ただ、あの当て馬とかいう奴は何かしでかしそうな暗い目をしていた。別にそれはかまわないが、覚悟を持ってやってもらいたい。
会議に戻ったが、退屈だ。退屈すぎた。このままここにいても餓死するだけなら地上を目指すしかない。クリスタルに埋もれた村や町から食料をとって来てもいいのだろうが、わざわざやってやるほどお人よしではないし十分な食料が得られるかどうかも一切分からない。確実に食料があると言いきれるのは地上だけだ。
地上について聞かれたので『楽園』と答えてやった、『モンスターの楽園』だ。一瞬期待し絶望に変わる表情が少しばかし退屈を紛らわせてくれた。
とっとと終わるように何度か催促すればようやく長く濃度の薄い話し合いが当たり前のことを可決し終了した。別に実際のところそこまで時間が無いとは思ってはいない、もちろん動きが早いほうがいいのだろうが。ただ上手いことあちらが言葉の意味を深読みしてくれてさっさと行動してくれたほうが退屈しなくていい。
さて、やる気も出してくれたようだし体をほぐしつつ散歩することにする・・・何か視線を感じた。当て馬くんと愉快な仲間達がこっちを見ているようだ、隠れているつもりらしいがバレバレだ。少々面白いことになってきた。誘ってみることにする。
講堂からドアを通り外へと出る。案の定後ろから付いてきているようだ。一本道の通路なのにドアの先までやってくるとは本当に馬鹿な連中だ。
「フィア、少しどいてろ」
「ハーイ!おじ様・・・パーティーだね!」
そうなるかね、いやそうなる。フィアが頭から飛び去ったと同時にあの違和感を感じる。やはり魔法を使える奴らがいたか。体勢を低くし横っ飛びに体を躍らせ物陰に隠れる。頬に感じる風圧、衝撃弾が通過していった。結構な距離があるため予想通りの魔法だった。さて、目には目を歯には歯を。物陰から頭を出すと額にオーラを集中、ヘッドギアに仕込まれた緑の宝玉から相手の数倍の規模の衝撃弾を放つ・・・命中。直撃したエルフは体をバラバラに四散させ周りの奴らとドアも衝撃の余波で吹き飛んだ。
初めてヒトを殺したが特に何の感慨も無かった。こんなものか。社会で生きようと思うから、罰を恐れるから、ルールに反するから殺すことを戸惑うのか。この何のしがらみも無く、一度死んだ身であれば何にもとらわれる事も無い。どこかそれが誇らしかった。
騒ぎを聞きつけ生徒達が群がってくる。だがそれがどうしたというのか、やることは変わらない。会長サマが焦燥した顔で色々と訊ねて来る。「あなたが彼を殺したのか?」「これから彼らを殺すのか?」「どうか止めてくれないか」
YES!YES!NO!!当たり前のことをわざわざ聞くな。
ルオナ女史やら人形面やらも「止めてくれ」と言って来る。周りの有象無象も騒ぎ立てる。まあ、いいだろう。本当に強い自分の意志があって、命を懸けた意見であれば考えてやってもいい。少しばかし試してやろう。
7スターリボルバーに額からの衝撃弾、篭手からの雷撃も織り交ぜて派手に花火を打ち上げる、見物料をとらないあたり非常に良心的だ。そして確認の意味合いをこめて親切にも聞いてやる。
「次にそいつらが危害を加えたら連帯責任で殺してもいいのか?」と。諾なら立ち、否なら座れと。
殆どの連中が座った。軟弱な。本当に自分の意見を通したいのなら、こいつらの命が大事なのならどんな選択でも許諾できる。たとえそれが自分の命を懸ける選択の上であっても。そうでない意見はただの惰性、意見にもならない要望にすぎない。
3人が立っていた。学生の総意は違うようだが、まあそれはいい。ただ強い目を感じられたのは女史だけだ。会長サマはどこか嫌々と、人形面は義務であるような弱い意志しか感じられなかった。「守ってみせる」「軽蔑する」口々に言う。勝手にすればいい、否定はしないし勝手にやってくれ。俺も勝手に当て馬君を殺すだけだ。
シャベルを振るう寸前、涙目の当て馬君と目が合った。なんて顔をしているんだ!別に殺されかけたことはそこまで怒ってはいない、奴には奴の理想があるだろう。ただ、殺そうとしたのなら最後までその意志を持つべきだ。そんな恐怖に歪んだ泣き顔なんてするもんじゃあない。それは非常に不快だった。他の似たような表情をした奴らにも止めを刺していく。まったくもって脆弱な奴らだ。
有象無象の混乱は会長サマが見事に抑えてくれた。その調子でどんどんその本質を晒して上手いこと学生を纏め上げて支配して欲しいものだ。