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伝説のシャベル  作者: KY
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3-13 微妙なるガリバー

 さて、一段落着いたしフィアも頭の上に戻ってきた。余談だが最近ヘッドギアの上に毛皮やら藁やらが括り付けられていた。俺の頭の上を何快適空間に変えようとしているのだろうか?別に少し暑い程度で実害はほぼ無いが。


 周りを見渡せば流石は異世界人といった光景だ。耳の尖って線の細いエルフ、重そうな盾を持って歩いている小さい中でさらに小さいのがドワーフか?肉付きがいいのも気になるが何より髪のボリュームがすごい、もっさもさだ。犬と猫のモノを2で割ったような耳と尾をつけているのが獣人か、手や足にも毛に覆われている部分がある。ヒューマンはまあ人間か、つまらん。しかしヒトと会うことができたといってもこんな子供ばかりじゃ一体どうしろというのか?託児所の先生なんぞやりたくは無いな。こいつは困ったもんだ。もっと大人の連中はこいつ等を逃がすために死んだのか?指導する奴がいなければ幼児だけ残してもどうにもならんだろうに。これだから人付き合いというものは面倒なんだ。・・・まあいい、とりあえず静かになるまでさっきの猿を解体するとしようか。


「ひっ!!」


 解体がもう終わるかというときに小さいのが来た、子供には少々刺激が強かったか?何をしてるかといわれても解体して肉を食い、毛皮を使うだけだ。狩の基本だろうに、わざわざ答えるのも面倒な。


「え!?そんな!魔獣の肉なんて食べたら死んじゃいますよ!!」


 ・・・マジか。こっちの奴らにとっちゃあ毒なのか。そりゃあ何をやっているか疑問に思うわけだ。先入観はやっぱりいかんな。しかしフィアが肉を食わなかった理由は分かった。それにまあ、今更肉を食うのを止める気も全く無い。極論何でも食えればいいのだ。そりゃあ美味いに越したことは無いが。


「わたしはガラット学園生徒会会長、セレス・アンリークと申します。この度はご助力感謝いたします」


 生徒会長?ここは学園でも低学年の生徒ばかりを集めた校舎の一角だったのか?それとも生徒会長という役職がこっちの想像しているものとは異なっている可能性もある。まあ、名乗られたら名乗り返してやろう。


「・・・ストレンジャー・アウトロー。ただの流れ者だ」

「フィアはおじ様のアイドル!ただの妖精だヨ!」


 アイドル?マスコットかプニプニ要員の間違いだろう。


「阿呆か。おい、挨拶はいらん。本題に入れ」 


「は、はい。あの、一体何が、どうなっているんでしょうか?周りはクリスタルで覆われているし外の町もボロボロになっています!何があったんでしょうか?それに巨人族の方ですよね?助けに来ていただけたんでしょうか!?」


 巨人族っていうのはアレか、神話に出てきた奴だ。確かに別の世界から落ちてきたが、俺は『人間』だ。ここにいるヒューマンやら他の種族でもない。それは置いておくとして、たしかに外の様子は気になるだろう。当然の疑問だ。だがそれはどいつもこいつも同じ、同じ説明を何度もするのは面倒だ。とっとと大人の代表者に会いたいものだ。そうすれば適当に纏めて貰えて説明も一度で済む。見所のあるガキではあるが子供は子供、責任者ではない。


「今話ができる大人は、先ほど助けられた保険医のルオナ先生だけです。あとは一人が怪我で倒れていてもう一人は・・・」


 助けた中に大人なんて居たか?記憶をたどるが該当するものは無い。先ほどから何か噛み合わない。


「セレスさん」


「ルオナ先生!大丈夫なんですか?」


「ええ、何とかね。手当てで何とかなりそうな子は処置をすませて後は委員の子に任せてあるわ」


「そう、ですか」


 待て、本当にコレが先生、大人なのか?いや、幾らなんでもおかしいだろう。


「助けてくださりありがとうございました。保険医として勤めているルオナと申します・・・あの、何か?」


 身長がやっぱり1mくらいしかない!横に居る会長とやらと比べる・・・頭身は同じくらいか、あとは子供にしては胸部が異様に発達している。だがあどけない顔のつくりはほぼ変わらない。いや、待て。全てが冗談である可能性もある。

 

「・・・あんたが、教師でこの中で一番年上、か?冗談じゃないだろうな?」


「えっと?何が冗談なのかはわかりかねますが・・・ええ、とりあえず今はそうです。もう一人経験が上の教師はいますが怪我で意識が無くて・・・」


「マジか・・・」


 マジか・・・こいつはとんでもない勘違いをしていたようだ。ここは異世界、自分の常識を疑うべき場所であることは承知していた筈だ。とはいえ、こいつは予想できなかった。


 この世界のヒトってやつが、まさかこんなに小さいとは。


 巨人といわれても仕方ないだろう。地球で言えば3mを超える男が歩いている感じだ。


「・・・おい、フィア?」


「なにかナおじ様」


「わかってて黙っていたのか」


「キャハッ!驚いた?ねえねえ驚いたかナ?ねえね、ヘベっ」


 驚いたさ、そりゃあもう。確かに新鮮な驚きだった。面白いといえなくも無い。だが許さん。別にそんなに怒っているわけでもないが、でもなめた真似は許さん。デコピンだ。


「道理で勝てないわけだ」


 例えば身長が2倍というのは単純に大きさが2倍では無い。男の平均身長は女の平均身長より10cm少々高いくらいだが、体重は15kg弱は違う。こっちにとっては野犬でもこいつらにとってみれば巨大な狼に等しい。牙付きや力自慢、牛角さんと比べればさらに悲惨だ。もちろん人間は自分より大きな獲物を原始より狩ってきたので勝てないとはいえないが、積極的に大群の巨獣に襲われればそれはつらいだろう。


「キャハハッ!フィアがナイスバデーっていうのもホントに本当なんだヨ?」


 自分にとっては小さいがこの世界のヒトにしてみればフィアは小さいとはいえそれなりのサイズなのか。妖精同士であれば人間にとっては殆ど誤差である数ミリの違いも数センチ違うといった形になるのかもしれない。


 まあ、とりあえず生徒会長とか言っていた奴に詫びる事にした。高校生がほぼ大人と身長が変わらないようなものと考えればコイツも幼児ではなくそれなりの年齢なのだろう。ただし、やはり説明は最小限の回数で済ませたい。なのでとりあえずこの場を纏めるように言った。



 忙しそうに動き回るちびっ子達を見ると少々げんなりとする。そもそもこの世界をゲームに、命をコインに例えて考えているが最終的な目的は地底の目的地への到達だ。極論まったくヒトを助けず、むしろ殺して奪って進んでもいい。ただ、それでは少し味気ないなと色気を出してしまったのが今だ。ひい、ふう、みい、ああ100人程はいるか。助けに入るのが早過ぎたのかもしれない。正直なところ人付き合いというのがかなり煩わしい。それもこんなにたくさんのヒトがいる。仮にこの団体を指示し、助け、導くとしたら非常に面倒だしストレスが溜まりそうだ!


 発想の転換。幸いなことに、こんなナリでもここに居る連中はそれなりに年を重ねているらしい。ならば上手い事誘導し、恩を売りつつ恐怖心を植え付けてある程度の環境を整えてしまえば後は楽になるのではないか?今後進むにつれてヒトを掘り出す機会もありそうだ。そいつらもここにいる連中にアフターケアさせればこっちは掘るのに集中できるし面倒な仕事も投げつけられる。


 生徒会長、ね。見ればわかる。あれは地球にも居た、病的な『仕切り屋』だ。今も何だかんだでヒトに当然のように命令して回っている。折れた槍を持って野犬と戦っていたときも思い返せば目がぎらついていた、プライドの高い仕切り屋。行き着く果ては王サマか独裁者か。だがそれならそれでいい、むしろ歓迎だ。合議制で回るほど今の状況は甘くは無い、迅速な正しい舵取りが肝要だ。後は今でもそこそこ上手くやっている生徒会長サマに梃入れしてさらに人望を増してやろう。


 耳を済ませればいろんな言葉が飛び交っている。多くの生徒が死んだそうだ、ご愁傷さん。だが校舎か。中々に広い空間、施設。寝るにしてもドアがあるし部屋は暗くできて快適そうだ。ここを拠点としていろんな方向に掘って行くのもいいだろう。そう考えると今校舎内にある死体は邪魔だ、腐られても困る。回収する必要があるだろう。まずは校舎の中を見学したいものだ、ついでに会長サマの人気でも上げてやるとしよう。とりあえず通りがかった奴に会長サマを呼ばせる事にした。



「フィア」


巨人の頭の上で尻尾をぐるぐると回している妖精様、何をされているのか?


「ンー、うん、いくつか感じるネ!弱っちそうなモノがいるヨ!!」


「そうか」


「あの?一体何が・・・」


「何人か生きているらしいな」


 そう、逃げ遅れている生徒達を助けてくればヒーローだ。


「行くぞ」


「エ?おじ様、何をしにいくのサ?」


「決まっている、観光だ。詳しいガイドも現地で雇えた」


「ワーオ!それはいいネ!フィアも一度見てみたかったんだよネー学園ってサ、ゴーゴーゴー!」


 さて、ここまでお膳立てしたんだから断れるわけも無いだろう。特にプライドの高い奴は。


「・・・ええ、是非ご案内させてください」


 オーケイ、個人的に異世界の学校というものを観光したいのは本心でもある。WIN-WINな関係って奴さ。




 校舎を案内されつつ進む。モンスターも潜んでいるようだが隠れている壁やら机ごとシャベルで破壊していく。フィアのレーダーとこっちの感覚があれば見逃すことも早々あるまい。まあ、それでも襲われたときのための防具であり各種の武器がある。


 生存者達が居た。殆どの生徒や教師が死んでいく中で生き残った奴らだ。運なり生存本能なり計算高さなり何かを持っている。ちっこい獣人の女生徒がいた。庇護を誘うかのような態度をとっていたが、全て上手いこと生きるための行動だ。隠れていたロッカーも扉が簡単に開かないよう内側から細工されており掃除道具を体の上に乗せて隠れていた。素直に賞賛しよう、それが考えてやったのか自然にやったのかはともかく。だが考えてやった場合も自分がそれを認めないことがある、最善で効率的な行動は冷酷に見える。そして自分自身を冷酷だの人でなしだの思いたくないという心が自分の理性を拒絶しヒステリックにさせる。武器をくれてやった、モンスター7の骨で作ったナイフだ。今はその冷酷さや理性こそが大切になる。武器の冷たさはそれを教えてくれる。人間味や優しさは欠片ばかし持っていればいい、今の状況では。だからナイフを手に取った女生徒の目は変わった、いや戻ったのか。


 会長サマも色々驚いていたようだが、あんたこそが冷酷になれる筆頭人物なのだ。優れた指揮官になれる、ぬるま湯につかった偽りの道徳心を抜け出せれば。まあ、うすうすと分かっているような節はある。それに機械のようになれとは言っていない。助けたければ助け、見捨てたくば見捨てればいい。自分の心に嘘をついてポテンシャルを殺すのが駄目なだけだ。



 さて、校舎内を1周観光した。大体の場所は把握したし拠点として部屋数や清潔さも悪く無さそうだ。10人くらいの生徒を助けた。講堂で逃げ回っていたヤツラよりかはマシだろう。

 

 

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