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伝説のシャベル  作者: KY
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3章異聞の18 希望の島

 島に上陸し周囲を見て回る。妖精様が言うには今この島には魔獣はいないらしい。虫と小動物、そしてフルーツをたわわに実らせた木々が生い茂っている。数多くの黄色い花、ある程度の黄色の多肉植物が地面を覆っていた。


 少し進むと島の中央付近には中々の大きさの湖があった、水源として重宝するだろう。この水は結晶砂漠の表層から少し下に水路のような水の通り道ができており、降った雨水がこの島の土に染み込み中央付近より湧き出しているらしい。変に使いすぎなければ中々に清涼な水が継続的に確保できるだろうということ。


 島はなかなかに大きい、さっきまで歩いていた学園からの道に比べれば勿論短い。けれど短時間に一周出来るほど小さくも無い。簡単に島を周ると水や、ある程度の食料は手に入ることは分かった。そう、分かった。


 食料は足りない。少なくとも今のまま、この島だけでは。


 この島だけでは水はともかく食料は100人程のヒトが食べていくには不足している。勿論持ってきた食料も合わせてある程度の期間ひもじい思いをしながら生きていくことはできるけど、でもいずれは詰む。栄養のバランスも偏る、小動物を捕まえてもそもそもの生息数はそんなに多くないと思うし繁殖させるほど余剰の食料も無い。少なくとも栄養バランスは二の次にしても飢餓にならない程度の量は欲しい。



 そんなこと、巨人は承知だった。

 

 基本方針であるプランAと補助的なプランBがある。これはそれぞれを補完し合う行動指針になる。


 まず、プランA。これは巨人のこれからの活動に大きく左右されるものであり、連絡役などを介した活動が必要となってくる。端的に言えばこれから巨人が地底を目指し掘っていく過程で発見した食料などを私達からヒトをだして運搬する。そう都合良くいかない、と言いたくなるけれども、創造神様の命によって村や町等に壁が作られたとき多くの食料もまた備蓄として貯めるように命じられていた。創造神様の御造りになったセカイは食べ物に困ることも無く常に作物は良い環境下に置かれて実に良く実っていた。正直なところこれもまた私達の飢餓に対する危機感の無さに起因していた。

 

 学園は長期的な篭城のためでなく、あくまで襲われた際は救援を待つ形での備蓄を主な目的にしており第2講堂の倉庫に入るだけの物資に限られていた。しかし村や町では家をまるごと1つ倉庫にしたり新しく保管用の建物を作っていたほどで大量の食料が納められていた筈。そして不謹慎ではあるけれども魔獣に襲われて住んでたヒトの大半が居なくなってしまった状況下なら倉庫の中身の時が止まっていればそこから多くの食料を得ることができる。

 

 さらに、今後巨人がヒトを助けることになったときにそのヒトを介抱したり拠点まで誘導する役目もある。これは学園の待機組からヒトをだし学園まで連れて来てもらいその後私達のほうで学園まで下ってきた後に生存者を受け取り地上まで案内するという手筈で話はまとまった。学園から動く待機組と私達地上組がうまく連携して事に当たらないと混乱を期すことになる、調整は難しいがやってみるしかない。


 このプランAが基本的な方針になる。ただし、幾つかの問題点があるためにプランBが存在する。


 プランB、これは短期的には今ある食料をやりくりして消費していくことになるが最終的には私達が私達だけで地上で生活できる事を目指すプランとなる。これは巨人と妖精様のこれから活動を考えたとき不慮の事態が生じた場合あとは私達だけで生きていく必要性がでてくる。


 これはプランAと平行して行っていく、仮に巨人と妖精様が常に100%成果を出してくれるのであれば学園に住み続けていたほうがいろいろ楽ではある。ただし巨人が危険な目にあったり上手く食料を手に入れられなければ私達は飢えと渇きの中死んで行くことになってしまう。


 私達だけで生きていくには拠点となる島だけでは食料が足りなくなるのは明白。なら別の島も使って食料を増産していくのが手っ取り早い方法だ。今ここはかなり辺境に位置している、島や資源も少ない地域であり魔獣の数も少ない。世界の中心部へと向かえば危険は増大するけれども食料を初めとした資源は手に入りやすい。また、辺境にも一応小さくとも島はあり、雨も降る。この島の周りにも小さな島は散見でき、食べられる植物の種を植えて水を運んで育てていけば塵も積もればそれなりの食料が得られる筈。


 プランBでは戦闘能力に最も優れたαグループを前者に、逆に先ほどファングから逃げ出した生徒を主にしたβグループを後者に当たらせる。


 αグループには危険が伴うけれどもあくまでプランAを主体とするため安全を最優先に探索、採取をしてもらう。島の近くには巨人が作ったシェルターがあるらしく使用許可も下りた。


 βグループには安全だけれども重労働で単純な作業に従事してもらう。もちろん監視役をつけ、何かあれば早々に対処していく。


 後の生徒はメインの島での仕事や巨人から要請があった際の連絡・労働役として動くことになる。




 メインの島近くの地下にある居住スペース、大まかな方針の話し合いが終わったところだ。ただ、ここで意見があり島の名前をつけたほうが良いのではないかという声が上がった。確かに呼び名があったほうが便利だ。


 色々意見は出たが、『希望島』という案外シンプルな名前に決まった。ひねりは無いけれども私達の願いがこもった名前になった。




「巨人様、妖精様、いろいろありがとうございました。・・・これからも助けていただくことになりそうですが」


 巨人と妖精様とはここで別れることになる。何だかんだ言って大きな力を持つ巨人と離れるのは非常に不安になる。魔獣が襲ってきたときには今度こそ自分達だけで対処し、そして生き残らなければならない。


 でも、それができてこそ私達にこの世界で生きていく資格が生まれるように思った。それに結局プランAでは巨人頼みになるところも大きく何かあれば連絡も来る、今生の別れではなく進行形で関係は続いていくのだ。


「ああ」

「バイバ~イ!」


 私達は大地の上に立つ。もう誰かに甘えられる学生ではなくそれぞれが一人のヒトとして戦っていかなければならない。それは厳しいけれどもどこか当たり前で、そして昔の安全で平和な世界に暮らしていたときよりも誇らしげに思えた。


「そうだ」


 巨人が振り返る。


「誓おう。今後いかなる身分のヒトがここへ来たとしても、貴様等の中で何かが起きようと、セレス・アンリークが希望島に生きる者の代表として認める」


「な!?」


「不服か?」


「・・・いえ、光栄です。ありがとうございます」


 今度こそ背を向け巨人は歩き出す。


「精々頑張るんだな、クイーン」


 歩きながらそう言い捨てて地底へと道を下っていく。彼の行く先には多くの困難と冒険があるだろう。そしてそれは私にも。


「言われなくとも!」


 小さくなっていく巨人の姿の中で、軽く左手を上げるのが見えた。私も巨人に背を向け、見えないであろう片手を上げて生徒達の輪へと戻っていった。 


 



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