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伝説のシャベル  作者: KY
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3章異聞の13 膨大なタンパク質の構成物

「来たか、クイーン」


 講堂の東入り口に着くと巨人の第一声がソレだった。他の生徒はかなりの距離をとって遠巻きにこちらを伺っているか、仕事に専念しているフリをして目もあわせない。


「何ですか早々、私のことですか?」


「外れてはいないと思うが」


「・・・否定はしませんが」


「ナイトもついてきたか」


 リリエルのことか。巨人に少しきつい目線を向けているが彼女も私について来てくれている。


「巨人殿、それは私のことですか?」


「パペットから格上げだ。不満か?」


「・・・」


「コイツのつけたあだ名よりましだろう」


「キャハハッ!独裁者と人形、あとルなんとかってヒトは博愛主義者だヨ!」


 確かに酷いあだ名だけれど。この二人は―――相も変わらず本当に、よく見ている。少しばかし口角が上がっている巨人は機嫌がよさそうに見えた。こちらの返答も待たずに背を向け歩き出す巨人の後を早足で追う。


「クイーンが通じるか・・・ならば王というのはいたのか?」


 巨人の話はかなり脈絡が無く変わる、それは分かりにくいものではないが言葉が足りないので反応しがたい。今何処へ向かって歩いているのかを先に教えてもらいたいが機嫌は損ねたくない。


「質問の意図が分かりかねますが・・・ええ、いましたよ。ヒューマンと獣人は代表が王と名乗っていますし、エルフの場合は長老、ドワーフは大親方と名乗ってましたが」


「・・・貴族や騎士、兵士という単語は?」


「キゾク?というのは聞いた覚えがありません。兵士という言葉は魔獣と戦う人たちの呼び方で騎士というのはその中でも指揮官を守ったり、場合によっては少数の兵士達の指揮をとるヒトの呼び名です。」


「盗みや殺し、犯罪はあったのか?」


「えっ!?それはやんちゃなヒトも少しはいたそうですが・・・少なくとも犯罪なんて恐ろしいことはほぼありませんでしたよ!・・・ああ、でも魔獣の襲来が始まって以降は少しそのようなこともあったと聞いていますが」


「・・・そうか。特に他意はない、興味があっただけだ。コイツが予想以上に浮世離れしていたからな」


「キャハ!いやあ照れちゃうデスよおおおあばばばばば」


 巨人は無言で妖精様の頬を片手でつかむとブルブルと手を震わせ始めた。やっぱり妖精様は嬉しそうだ。そんな二人の仲をリリエルがうらやましそうに見ているように思えた。


「仕方無いと思います、妖精様達は始原の大樹から外に出られる事はあまりないと聞いておりましたし・・・」


 だからこそ、妖精様と契約していたヒトは尊敬されていた。あのアテマという生徒もこの非常時だからこそ逆に自分が特別になりたかったのかもしれない。命の価値が絶賛大暴落していたこの地獄で自分の価値を無意識のうちに求めようとしていたのか。


「まあいい。着いたぞ」


 巨人が玄関に差し掛かったところで止まる。この先には校庭が広がっているはずだ。無言で促され、先へ進む。



「ひっ!!」「っ!!!」



 死体だ。


 生徒の死体が、並べられている。グラウンドに並べられた生徒の死体、欠損した部位のあるものもいる。内臓をはみ出させているものもいる。首から上が無い。腕しかない。血にまみれている。その脇には細長く掘られた溝が死体の列に沿う様長々と続いていた。


「こ、これは?」


「校舎の中にいたモノだ」


「!!」


 そうだ、6割以上の生徒が講堂に避難できず死んだ。こうして並べられていると、その圧倒的な数に恐ろしくなる。少しばかり気分が悪くなるが耐える。横にいるリリエルの方は脂汗を浮かべ口を押さえている。頬が一瞬膨らんだが、何とか耐えたようだ。だが咽てしまった様で咳が止まらない。


「さあ、どうするんだ?」


 普通に考えれば、掘られた溝は死体を埋めるためのもの。確かに校舎の中で腐るに任せるまで放置するのも忍びない。今を生き伸びることにキャパシティの大半をとられていてそこまで考えは及ばなかった。弔うくらいはヒトとしてするべきだった。


「巨人様、感謝します。私達がやるべき事でしたのに・・・手の空いてるヒトを集めて弔います」


「ほう、食わないのか?」


「・・・は?」


 食、べ、る?何という、何ということを言い出すのか?食べる、食べる、確かに目の前に広がるのは動物400頭分の肉塊。今生き残っている生徒以上に重く、量があり、魔獣の肉と違って食べられる血肉。モノを食べなければ、死ぬ。だが、だがらといってこれはあまりにもあんまりだ!・・・せっかく我慢したリリエルが屈んで胃の中のものを吐き出してしまっていた。


 だが、冷静な自分は囁く。この意見の合理性と一定の正しさ。そして、巨人が何を言いたいのかを。


「・・・弔います。流石にそんな真似はできませんしヒトとしてどうかと思います」


「そうか、それが続くといいがな」


 そう、続くといい。少なくとも食料があるうちは続く。だが、食べるものが無くなりやせ細り、骨と皮となってしまったとき私達はどのような選択肢をとるのか?それは在り得る未来、少なくとも考えあてるべきだった。まだ私も危機感が足りないのか。考える、発想を飛躍させる、あらゆる可能性を模索する。生き抜くにはこれが必要、そしてヒトの肉を貪らない様に舵をとっていくのも私の仕事か。巨人は、助けてくれているのか?それとも愉しんでいるのか?


「エー?イヤーン、フィアおじ様に食べられちゃう?」


「・・・お前が言うか寄生虫が」


「ヒドイッ!おじ様それはちょっとばかしひどいデスヨ!!」


「まあ、せいぜい珍味か」


「キャーッ!食べられちゃうヨー!」


 キャハハハと笑い飛び回る妖精様、無愛想な巨人。この400もの死体が見ている中でこの2人の言動はひどくアンバランスに写った。だが、とりあえずやるべきことをやっていこう。まずはさっき自分で言ったとおりヒトを集めないと、それもある程度強いヒトを。



 講堂に戻ると事情を説明し有志を募って校庭に戻る。覚悟をしておくようにあらかじめ言っておいたのだが倒れる生徒や嘔吐する生徒、泣き崩れる生徒が出た。正直私もつらいのだが、毅然とした態度で臨まなければ。


 かつてのクラスメートや友人知人の変わり果てた姿を見つけるたびに生徒達の顔が悲哀に歪む。手伝いの生徒の数は少しずつ増えていた。ルオナ先生も杖をついて足を引きずりながら何人かの生徒を連れて校庭まで歩いてきた、彼らは講堂で亡くなった生徒の死体を運んできていた。


「私は、教師なのに・・・こんなにも、助けられなかったのね」


「・・・ルオナ先生」


 魔獣のせいだし仕方が無いことではあると思うが慰めの言葉をルオナ先生が望んでいるとは思えなかった。校庭には生徒の楯や囮となって死んだ先生達の亡骸もあり、生徒達がそれを悼み涙を流して埋葬していた。


「これは巨人の方が?」


「ええ、そうです。私達がすべきことでした」


「・・・そうね」


「巨人様のことを許せませんか?」


「ええ、それは絶対に・・・、でもこのことは感謝しないといけないわね」


「リリエルはどうかしら?」


「・・・私は、今は分かりません。ただ会長が気にされていないなら、私も従おうと思います」


「そう。・・・ねえ、ルオナ先生、私は正直なところあのエルフの生徒達の死で心があまり痛みません。私は間違っているのでしょうか?」


 ふと、自分が冷血漢であるという恐れが心に渦巻いた。ヒトでなくもっと無機質な異質なもので自分が構成されているのではないかという漠然とした不安。多くの死体を前に弱音を吐きたい気分になってしまっていたのか。


「いえ、セレスさん。貴方は間違っていないわ、私が保証する」


「・・・先生、でも」


「私の方が少し、おかしいのよ。でももう染み付いてしまってどうにもならないの、何というかヒトを助けるという事が。そんなに深い理由も何も無いはずだけどね、どうにもやめられないの。私の方が病気かもね」


 フフッと小さく笑って話しかけてくれる先生、それが私を助けたいという先生の演技であることは分かっているが心が安らぐ。


「セレスさんは思うままに行動すればいいと思うわ。だってそのおかげで多くの生徒達も助かっているのよ?それでいいじゃないの」


「・・・はい」


「会長、貴方は私を助けようとしてくれました。いつでも、傍にいます」


「リリエル・・・」


 弱気になっていた心を叱咤する。どうせ、何が正解かなんて今は分からない。今思うように行動してそれが良い結果を生んでいるなら戸惑うことは無い!



「寸劇は終わったか」

「ワーオ!お涙頂戴、友情賛歌だネ!」


「・・・巨人様」


 身構える、巨人が動くときは何かが起こるときなのだ。それが良いものであれいつでも唐突に衝撃的な出来事を連れて来る。



「お前達を助けた。死体も集めてやった、ああ墓も建ててもいい。地上に出る道案内もいいだろうし多少は生き残るための指針も示そう」



「・・・」


 そう、言っていることは事実で、言っていることも有り難い申し出だ。けれど、巨人には今まで何一つメリットが無い。そうすると。



「ならばこちらの要求も呑んでもらおうか」

「キャハハハッ!」



 やはり、そう来るよね。拒否権なんて、無い。

そろそろ学園編も締めます。また主人公のサクサク探検の再開です。視点を主人公主体と外から見た主人公の生き様と、2つの方向から物語を書いていきたいと思っています。

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