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伝説のシャベル  作者: KY
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3章異聞の11 演説。愚者と指導者

 巨人は規則的な靴音を響かせ倒れこんだエルフを処理していく。腕を何の気概も無く振り上げ


「ひ、やめてく」


下ろすだけで命を刈っていく行為


「がっ!」


 私にはそれを『処理』としか表現できなかった。巨人の流れるように自然な動きと理解の範疇を超えた行為は生徒達がソレを理解し騒ぎ出す前にやるべきことを終えていた。


―――だが、どこか私は冷静に見ていた。これは慣れなのだろうか?良くも悪くもこの短期間に死に触れすぎたかもしれない。死んでいく生徒に対し特に何も感じなかった。ただ、仕方が無い、自業自得だからとは思った。


「騒がせたな」


「・・・いえ、それはこれからでしょう」


 巨人は返り血を殆ど浴びていない。後に聞く事となったが血を浴びるというのは危険らしい。目に入れば視界をつぶされ拭っても暫くは見にくくなる。手に浴びれば滑り武器を落とす。体に浴びれば血の匂いを染み込ませる事になり他の魔獣に見つかりやすくなる。それに加えるとしたら、汚れて不快な気分になるということかもしれない。髪には少々自身があるから汚したくない。


 何にせよ後数秒もすればこの場は騒がしくなる。凍っていた生徒達が自然解凍される。混乱は混乱を呼ぶ、それを抑えるのも私の仕事か。


 しかしこれは尾を引きそうだ。何しろ半ば強制に近かった状況とはいえ座った生徒は自分達の意思で仲間を見殺しにしたのだ。これは重くのしかかるだろう。いや、むしろ今この場で死に慣れることができ良かったのかもしれない。これからの道のりは険しいものになる、これを糧に乗り越えられた生徒にはまだ希望があるかもしれない。ああ、案の定騒ぎ始めた!


「皆さん静かに!自警委員、それぞれをグループ毎に集めて整列!リリエル、何時までも呆けてないで指揮をとりなさい!」


 先手を打って出せる限界の声で指示を出す。何人かの自警委員は迅速に動く。彼らは『使える』し、今後生き残るかもしれない。どれだけの生徒が分かっているのか?どれだけの生徒が理解しているのか?変わらなければ生きていけないことを。もはや親兄弟に会える可能性は極めて低く自分の力で生きていかなくてはいけないことを。多くの生徒はそのことにすら気がついていない、もっとも混乱を防ぐため、あえてその事を伝えてはいない。一般の生徒達は食料がなくなる前にとりあえず地上を目指すといった認識でしかない、あれだけ血が目の前で流れたのに。


 リリエルやルオナ先生に対しても若干の苛立ちはある。ただリリエルは声をかければ動いてくれたしルオナ先生に至ってはそれが曲げられない「生き方」なのだから仕方がないと思う。他の生徒が普通で私が冷血なのかとも思うけれども、そういうのは余裕ができたときでいい。


 誰もやりたがらなかったので仕方なくエルフの生徒の死体を片付ける。運び終わるころにはグループ毎に生徒が並んでいた。巨人は妖精様と何か話していてこちらのことを何も気にかけていないようだ。生徒達の視線が集まってくる、期待と恐れと不満の眼差し。今は途中だ、だから皆落ち着かない。どんな形でも終われば心は落ち着く。そんなところまで考えてはいないのだろうけど、それが私の職務ならやるしかない。


 生徒達の前に、立つ。


「皆さん!先ほどの件は非常に痛ましいものでした。・・・しかし、彼らは妖精様の契約者であり、そして私達の命の恩人である巨人様をその私利私欲の為にあろうことか害しようとしたのです!それは決して許されることではありません!」


 臆することなく堂々と、強く語りかける。次は少し悲しそうな表情をつくる。


「・・・どのような理由であれ、同じ学園の生徒が死んだのは悲しいことです。皆さんもいろいろ思うところはあるでしょう。しかし、もう終わったことです。終わってしまったことなのです。」


 再び表情を真剣な、そして胸を張って力強く続ける。


「先ほどのことを気に病むなとは言いません!しかし結果として、私達は私達が生き残る為の選択肢をとったのです!それを悪いことだと誰が言い切れるでしょうか?巨人様は怒りのまま私達を害することもできました、しかしそれをされなかった!」


 生徒達の顔色は良くない、自分達が見捨てたという罪悪感。一方彼らのせいで命の危機にあったと知った恐怖。でもどちらももう過去の話、安堵の表情も見て取れる。


「私達は生きるために地上を目指さなくてはなりません、巨人様の作られた道を通って!時間は有限です、皆さんは各リーダーの指示に従って作業に戻ってください」


 最後に、大きく息を吸って。


「解散ッ!」


 生徒達が去っていく。どうにかうまい事収められた。エルフの馬鹿生徒達がいかに悪いことをしたかを強調、そして生徒達の罪悪感や危機感を刺激して最後にこれは「仕方が無かった」と思わせることができた。言ったことに嘘はない、だが綺麗ごとを並べるのはどうにもムズムズする。殺そうとして逆に殺された、今回の顛末はこれだけなのに。「愚民」、再びこの単語が浮かんだ。ただし今は猫の手も借りたい状況、しっかり働いてもらわないと。


 もう1つの選択肢がある。それは生き残るべきヒト達を選ぶこと。・・・だけど私の中のルールと植えつけられた道徳心がそれを選ばせることは無かった。巨人の顔が目に浮かぶ、彼なら容赦なく後者を選ぶという確信があった。周囲に巨人の姿を求めて見回すが、講堂にはいないようだった。




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