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伝説のシャベル  作者: KY
62/203

3章異聞の7 「生」存者

「来たか」


「ハア、ハア、お待たせ、しました」


「飲むか?安心しろ、ただの水だ」


 巨人が差し出した水筒に口をつけて一気にあおる。一瞬断ろうとも思ったが戦闘やいろいろな出来事で喉はとんでもなく渇きを訴えていた。水分の補給さえ今まで忘れていたのだ・・・後で水を配ることも指示しておこう。


「ケヘッ!ケホッ!っく、ふう、ありがとうございました。ああ!すいません、飲みすぎちゃいましたか!?」


 まさに、干天の慈雨。それはぬるかったが今まで飲んだどんな水より美味しく一気に飲んで咽てしまった。


「・・・いや、かまわん。俺が言い出したことだ」


 少し呆れられたような目で見られたがどうやら怒っていないらしい、よかった。


「すいません・・・ところで何か御用と聞きましたが?」


「ああ、聞きたいが生存者はここにいるのが全員なのか?」


「大部分はここにいるだけだと思いますが、もしかしたら・・・」


 確かに大きな避難所はここだけだが隠れるスペースや閉めれば密室になる部屋もある。今も恐怖に震えながら身を隠している生徒も存在しているかもしれない。


「しかし私達には探す余裕がありません、どこにいるかも分からない上に魔獣も徘徊しているでしょうし」


 グッと右手を強く握り締める。仮にこの講堂が襲われていなかったとしても無謀な行為だ、どう考えても二次被害の方が圧倒的に大きい。助けられる保証も無い。


「フィア」


 巨人の頭の上で尻尾をぐるぐると回している妖精様、何をされているのか?


「ンー、うん、いくつか感じるネ!弱っちそうなモノがいるヨ!!」


「そうか」


「あの?一体何が・・・」


「何人か生きているらしいな」


 生きている、話の流れからすると生徒か先生の生存者だろう。信じがたい話だが、嘘をつく理由も無いだろうし妖精様が仰ったことを疑うのもよくないと思う。


 しかし、どうするかと言われても、困る。うれしい話だけれどもヒトが足りないし魔獣に途中で襲われるリスクは大きすぎる。


「行くぞ」


「エ?おじ様、何をしにいくのサ?」


「決まっている、観光だ。詳しいガイドも現地で雇えた」


「ワーオ!それはいいネ!フィアも一度見てみたかったんだよネー学園ってサ、ゴーゴーゴー!」


 巨人と妖精様がこっちを見ている、うんそう、ガイドって多分。私のことだよね。ありがたい申し出だけど強引に過ぎる。考えても見れば命の恩人なのだから多少の無理難題は受け入れるべきなんだろうけど。


「・・・ええ、是非ご案内させてください」


 そう言う以外の選択肢は無かった。渡りに船の提案だけどどこか釈然としないものを感じつつ先頭に立った。



「こちらが初等部の教室です。1クラスに40人在籍していました」


 かつて整然としていた教室の面影は無く、過去形で人数を伝えるほか無いことを悼む。


「あ、多分ファングそこにいるヨ」


「そうか」ドガッ「ギャアアアアアアア!?」


 隠れていたファングを障害物ごと破砕して進んでいく。私達が苦戦していたのが馬鹿みたいだ、巨人がもっと早く学園まで来てくれていれば結果も少しは違ったかもしれない。今更な事なので考えても仕方ないけど。


「そこに一人いるヨ♪」


 掃除用具入れのロッカーを開けるとがたがた震えている小さな獣人の女生徒の姿があった。巨人と目が合うと恐怖に顔をゆがませる。


「いやああああああああ!!助けて、助けてええええ!!!」


「おい」


 首根っこをつかんで暴れる女生徒を摘みあげると少し乱暴に目の前に下ろしてくる。


「大丈夫、もう大丈夫よ!よく私を見て、見覚えがあるでしょ?」


「えぐっ、えぐっ。生徒、会長ざんなの?」


「ええ、そうよ。一人でよくがんばったわね、えらいわ。いい子いい子」


 目を合わせて抱きしめてあげるとまだ泣いてはいるが、落ち着いてくれたようだ。まだ初等部ということを考えれば混乱するのも仕方ない、むしろよく生きていたものだ。


「そろそろ進むぞ」


「な!もうちょっと待って下さい!」


 まだ不安で泣いているのに!


「かまわんが、手遅れになっても知らんぞ」


 ・・・まだ他に生きている生徒がいるなら、一秒でも早くたどり着くことが生死を分けるかもしれない。何が重要なのか、イラつくくらい正論を言ってくれる。


「この子をどうしろと?」


 多少棘がついた言葉になってしまったのは自覚している。


「そいつが決めることだ」


「ひっ!!」


「・・・まだ、子供ですよ?」


「下らん誤魔化しはやめろ。今、年齢は関係ない」

「そうそう!どーせ選択肢はそんなにないんだしネ!」


 子供だからモンスターに襲われない、そんなことは無い。選択肢、そうだ。1、一緒に行く。2、避難所へ自分で行ってもらう。3、避難所まで案内する。4、放置する。

 4は論外、1も危険、3が一番いいように思える、だが未だに隠れて生き延びている生徒がいるならそちらを優先するべきだ。そうすれば、選ぶのは2、しかないか。通ってきた道の魔獣は排除されているし第2講堂の場所がわからない筈は無い。


 さらに妖精様がそう言っているのであれば、暗に危険な魔獣は避難路にはいないということを指しているのだろう。巨人の言い方は冷徹で乱暴だが、内容はスマートで理にかなっている。別に見捨てろと言っている訳でもなく、今も生存者探しに一応協力はしてくれている。ただ、あまりに行動に迷いが無さすぎてついて行くには苦労しそうだ。


「よく聞いてね。私達はこれからあなたみたいなヒトを助けに行かないといけないの。だからあなたは第2講堂に避難しなさい」


「え、いや!一人にしないでっ」


 不安だろう、そして今安心している分一人には戻りたくないだろう。心が痛む。


「おい」


「ひいっ!」


「死にたいか?」


 いきなり何て事を言い出すのか!?


「ひっ、い、いやぁ」


「あいつらも同じだ」


 巨人は先ほど倒したファングの死体を指差した。


「殺されないよう、殺せるよう牙を持つ」


 そう言うと巨人は女生徒に刃物を握らせた。黒く金属でないソレは、おそらく魔獣の骨を削ったもの、巨人の手には小さなナイフだが推さない少女の手には大きなものだった。


「え?」


「逃げるのも別にいい。だが我侭に行きたいのなら牙を持て・・・あとは好きにしろ」


「語るねェおじ様!ホラホラさっさと行くヨ!」

「え、ちょっと待ってください!いたたたた!」


 妖精様に髪の毛をつかまれ部屋を出て行く巨人を追う。女生徒は呆然とナイフを見ていたが、走って追いかけてくる。やっぱり一人では不安なのか。


「は、離してください!あの子を置いては・・・」


 しかし、女生徒は一礼すると第2講堂へ向けて走り出した。その手にはナイフがしっかりと握られていたのが印象的だった。


「え?」


「キャハハッ!気がつかなかったのカナ?あの子はずいぶーんと強かダヨ!」


「え、えっと。一体何が?」


「・・・ロッカーは簡単に開かないよう内側から固定されていた。」


「キャハッ!しかもご丁寧に掃除用具を体の上に乗っけていたしネ!」


 はい?


「生き残るにも理由があるということだ。何かを持っている、運や、知識や、本能。そしてやってのける何かをな」


「で、では泣いていたのはまさか、演技?」


 か弱さをアピールして庇護されようとしていたのか?そしてまんまと私は引っかかったというの?


「うーン、泣いたのも、行動も、嘘じゃアないと思うヨ。そういう打算も少しはあったんだろうけどネ!デモ意識せずにそういう行動ができるっていうのが、面白いかったネ!」


「・・・」


 絶句する。でもこの出来事が私に考えさせる。生きるとは何か、そしてどうすれば生き残れるのかを。


「キャハハハハッ!悩むんだ!貴方も同じなのにネ!」


 妖精様の大きな目が心を見透かすように、不気味に光ったように感じた。私は生徒会長として、ヒトの尊厳を持って戦ってきた、筈。打算的な行動や自分ひとり助かるなどといった行動とは無縁の筈、でも何故こんなにも言葉が突き刺さってくるのか?


「デモ、だからおじ様は貴方達を助けたんだろうけどネー」


 答えを、救いを求める気持ちで巨人を見る。巨人と目が合う、力がこもった目、迷いの無い目、でもどこか惹かれるその目。


「・・・向き合うことだ、行くぞ」


「ハイハーイ!」


 向き合う、か。意味は分からない、いや分かっていて認めたくないだけだろうか。兎に角今は保留にしよう。生き残りの生徒はまだいる筈だ。あの女生徒に吐いた言葉を嘘にしないよう、早足で巨人に並び歩き出すことにした。



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