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伝説のシャベル  作者: KY
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3章異聞の6 台風一過

 講堂からようやく魔獣の姿が消えた。腰を抜かしたように座り込む生徒達。妖精様はすでに巨人の頭の上に戻り楽しげに仏頂面の巨人と話し合っている。周囲の自警委員や他の生徒も安堵した表情で疲れ果てた顔をしている、一過性の興奮状態がすぎたためか。座りたい、眠りたい強い衝動は私にもある。


 しかし周囲の惨状がそうもさせてくれない。怪我をした生徒が呻いている、設備も滅茶苦茶、扉も今のうちに塞がないといけない。なにより、巨人と妖精様に話を伺わなくては。休んでいる暇は無い。


「あなた達は怪我をした生徒の手当てを、リリエルも治療してもらって休んでいなさい。何人かは残って警戒を怠らないで。私は・・・話をしてみる」


「危険では?」


「見たでしょう、あっちがその気ならどうにもならないわ。それに助ける気が無ければ最初から無視していればよかったはずよ」


「・・・はい、お気をつけて。おい!行くぞ!」


 自警委員が動く気力の残っている生徒を引き連れ散っていく。


「会長、私も」


「その怪我じゃ邪魔よ、休んでなさい」


「っ・・・すいません」


「いいのよ・・・良くやってくれたわ」




 巨人はなにやら黙々としゃがんで作業をしていた。


「ひっ!!」


 キラーエイプが解体されていた。魔獣の死体を見るのは初めてではなかったが血を抜き。皮、内臓、骨、肉と手際よくバラバラにされているのを見るのは衝撃的だった。


「・・・何の用だ?」


 低く、けれども良く響く声が耳朶を打つ。


「そ、それはいったい何を?」


「見てわからないのか?解体している」


「な、何故?」


「俺が殺したからだ、貴重な資源でもある」


「え、えっと・・・」


 微妙にイントネーションがおかしいが、言葉が通じるのは分かった。ただし何を言っているか理解ができない。


「んもー、おじ様は口下手なんだかラ。骨や皮は道具として使うしお肉はたべるんだヨ!」


「え!?そんな!魔獣の肉なんて食べたら死んじゃいますよ!!」


 骨や皮はわかる、でも魔獣の肉をヒトが食べた場合全身から血が噴出し苦しみながら確実に死んでしまう。篭城を決め込んだムラで食料が不足したときに魔獣の肉を食べたヒトビトがそのような目にあったということがかろうじて逃げ延びたヒトから伝わっており、他の類似の報告を踏まえ魔獣の肉を食べることは禁じられていた。


「・・・フィア、お前が肉を食わないのは」


「キャハハ!モチロン、毒って聞いてたからだヨ」


「おい・・・まあいいさ、俺は食える。それだけでいい・・・で、一体何の用だ?ただ解体の見学に来たわけでは無いだろう」


 はっとする、そうだ。そんなことを聞きにきたのではない!目的を忘れるな!


「わたしはガラット学園生徒会会長、セレス・アンリークと申します。この度はご助力感謝いたします」


 深々と頭を下げまずは挨拶をする。礼を失して怒らせないようにしなくては。


「・・・ストレンジャー・アウトロー。ただの流れ者だ」

「フィアはおじ様のアイドル!ただの妖精だヨ!」

「阿呆か。おい、挨拶はいらん。本題に入れ」


 本題、何を聞くべきか?どこから聞くべきか?思えば何もかもがわからない、質問するほどのバックグラウンドが皆無なのだ。


「は、はい。あの、一体何が、どうなっているんでしょうか?周りはクリスタルで覆われているし外の町もボロボロになっています!何があったんでしょうか?それに巨人族の方ですよね?助けに来ていただけたんでしょうか!?」


「何のことだ?俺は巨人族なんてものじゃない無い、ただの人間だが」


 ニンゲン?聞いたことの無い単語だ。巨人の中でも区分があるのだろうか?


「・・・まあいい。ここの世界についてはある程度の推測がたっている。だが何度も説明するのは面倒だ。・・・マシな顔つきだが子供に話してもな・・・大人を呼んで来い」


 少し、むっとする。確かにまだ子供ではあるがもう高等部、身長も低いほうではあるが平均からそう外れてはいない筈だ。そんなに幼く見えたのだろうか?


「今話ができる大人は、先ほど助けられた保険医のルオナ先生だけです。あとは一人が怪我で倒れていてもう一人は・・・」


 ライル学年主任の姿を探し見回すがいない、生きているのか、隠れているのか。


「・・・いえ、忘れてください」


「セレスさん」


 ドワーフの女生徒の肩を借りつつルオナ先生がやってくる、一応の応急手当は終わったようだが包帯や添え木が非常に生々しく、そして痛ましい。


「ルオナ先生!大丈夫なんですか?」


「ええ、何とかね。手当てで何とかなりそうな子は処置をすませて後は委員の子に任せてあるわ」


「そう、ですか」


 自分も重傷を負っているのに休まずに治療を続けていた、教師とはこういうものであってほしいと思う。この災禍の原因となったライル学年主任とは雲泥の差だ。


「助けてくださりありがとうございました。保険医として勤めているルオナと申します・・・あの、何か?」


 巨人は何故か非常に困惑して私とルオナ先生とを見比べている、一体何がおかしいのだろうか?自己紹介や挨拶に変なところは無かったと思うが。


「・・・あんたが、教師でこの中で一番年上、か?冗談じゃないだろうな?」


「えっと?何が冗談なのかはわかりかねますが・・・ええ、とりあえず今はそうです。もう一人経験が上の教師はいますが怪我で意識が無くて・・・」


「マジか・・・」


 何故か巨人が目頭を抑え宙を仰ぎ見ている。確かにこの状況で一番年上の大人がまだ20台のルオナ先生というのは考えてみればかなり異常な状態だとは思う。でもそれにしても大袈裟だ。


「・・・おい、フィア?」


「なにかナおじ様」


「わかってて黙っていたのか」


「キャハッ!驚いた?ねえねえ驚いたかナ?ねえね、ヘベっ」


 巨人が妖精様にでこピンをかました、何てことを!


「ちっ、まあこれもまた面白いといえば面白い、か。・・・道理で勝てないわけだ」


「キャハハッ!フィアがナイスバデーっていうのもホントに本当なんだヨ?」


「たかだか数ミリの違いしか無いだろうに・・・いや元の体の体積を考えればそうでもないのか?」


 このやり取りだけでも妖精様と巨人の仲がいいことはわかるが、ここは襲われた避難所であり和やかに会話するような状態では未だ無いと思う。


「あの・・・よろしいでしょうか?」


「・・・ああ、子ども扱いして悪かったな、嬢ちゃん。少し、思い違いをしていたようでな」


「そ、そうですか。それでは」「待て」「え?」

「話はしてやってもいいが、そっちも聞ける状況では無いだろう」


 確かに。今も混乱は続いているし組織立った行動を取れているのはごく一部のみ。どれだけの生徒が無事か、物資は大丈夫か、怪我人の治療に戦える生徒の再編成。やるべきことは多い。


「そっちが話を聞きたいようにこっちも聞きたい事がある。まずはとっとと場をまとめろ」


「は、はい。」


 言葉はぶっきら棒で強い力を持っているが、巨人はなかなかに理知的であるようだ。これは私達にとって悪くない事だろう。


 ルオナ先生を寝かして休ませると講堂を回り自警委員に指示を飛ばしてクラスごとに集まること、まだいる怪我人を運んで手当てすること、動ける生徒を集め壊されたドア周囲の警戒とバリケードの資材の確保をさせること等を伝える。


「か、会長!」

「ダン!あなたも無事だったのね!よかった!!」

「は、はい。なんとか・・・隠れていて助かりました」

「!・・・そう」


 隠れていたのか、多くの自警委員が戦っていたのに。しかし、戦わなかった生徒のほうが多かったことを考えればここで怒り彼らの反感を買うのは避けたい。獣人の特徴である耳をしょんぼりと垂らして話している分多少の不甲斐なさは感じているのだろう。


「・・・あなたも各クラスを回って現在の状況をまとめてきて、なるべく正確に、細かく」


「あ、あの?会長、なにか怒ってます?」

「怒ってはいないわ、今は忙しいのよ」

「あ、・・・はい。で、では行ってきます」


「ええ、よろしくね」


 少し、表情に出てしまっていたようだ。反省しなくては、それでも生徒会役員として戦ってほしいと思ったのは傲慢か?いや、戦うよう命令してそれで死んでしまったとしたらそれはそれで後悔しただろう、なんだかモヤモヤする。


「あ、会長!巨人の方が何か話があるそうです!」


「何かしら?ありがとう、すぐ行きます」


 伝えに来てくれた自警委員に礼をいい仕事に戻るよう言う。全体を見れば大まかな指示は終わった、落ち着くまでなかなか時間がかかるだろうけど仕方が無いか。それよりも話とは何だろうか?とにかく想像がつかないし急ごう。


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