1-5 皮をなめしてみよう
僅かな岩の隙間より光が差し込む、この世界では日が動かないため朝か昼かがわかり難い。窓にあたる部分の石を取り外すと朝食として焼いてパサパサとなった異形の肉と白玉、少ししおれた黄花を口に入れる。黄花はかなり味が落ち食感も気持ち悪い、保存は利きそうに無い、花だから仕方が無いか。ペットボトルの水を締めに煽って朝食を終える。窓の石を元に戻すと入り口の岩を押しのけ外へと出た。
ベースも決まったことであるし今日は島をじっくりと探索し、食料を集めることとする。先日大岩の頂上から周囲を眺めたところ尋常ではない地形がいくつもあることがわかった。この鉱物質の砂漠にぽっかりと空いたいくつかのクレーター、大小の島々、オアシスもなくただ砂漠に存在する広大な湖などなど・・・探索すべき場所はいくらでもあるし遠目に砂漠を歩く動物らしき影も見ることができた。遠出するためには食料が必要だろうし色々と準備をしておきたい。
島を探索した結果、オアシスからザリガニのような生き物を得ることができた。焼いて食べると泥臭いもののなかなかに美味であった。黄花をちょこちょことつまみつつ地面によく見かけるダンゴムシのような虫や花を飛び交うこれまた羽のついたダンゴムシのような虫を食べようと検討して見たが、グロテスクで駄目だった。自分を偽ることなく食べたいものだけ食べて行きたい、本当に飢えたらわからないが。急に雲が現れると空が暗くなり雨が降ってきたためマイホームへと撤収した。
雨なので窓の石をとらず、暗い部屋の中央に砂漠でとってきた砂、といってもサラサラとした粒子状ではなく、水気を吸った塩のような大きな塊としてシャベルで掘り起こせたもので物性は土に近いものがある―――をリュックから出す。すると予想通り光を放っており室内を照らした。なんともエコで便利な照明だ、なにより火ではないため排気口が必要無いのが大きい。薪も不要だ、後はどれだけ持続時間があるかだが後々検討していけばいいだろう。
さて、どうせ外へ出られないのであれば今できることをすべきだろう。さしあたっては異形の―――今後はモンスターとでも呼ぶ事としよう。牙付きと野犬の毛皮の加工だ、放っておけば腐ってしまうだろうし今の服では朝方少々肌寒く感じる、一応はアウトドア用の服ではあるがモンスターのせいであちこち穴が空いている。返り血は洗っても殆ど落ちずに黒く服を染めている、ただし何故か染まっている部分はごわごわするものの妙に丈夫になっているようだ。だがしかし未知の場所で肌を露出させての探索はなるべく控えたほうがいいだろう、小さな傷や虫刺されが致命傷になりかねない。
問題は加工の方法だ。革のなめし方はタンニンなめしやクロムなめしが一般的だろうが、周辺に生えている植物で有用なものなど判らないし化学薬品なんて望めるはずもない。原始時代は噛んでなめしていたと文献で見たことがある、その後気は進まないが脳漿なめしたるものもあるらしいので漬けてみる。最後に煙で燻してみようか、そうそううまくいくとは思えないので噛むなめしだけは少なくともしっかりやっておくこととする。まずは下準備として皮に残った肉片、脂をナイフで根気良く削ぎおとす。
噛む、噛む、ひたすら噛む。顎が疲れたので小休止を取る。想像以上に大変だ、洗ってもまだ臭う獣の皮を柔らかくなるまで口の中でもごもごとすること自体苦痛であるが、1回に加工できる部分はごく一部でありかなりの時間がかかりそうだ。とはいえ時間がたてば皮が駄目になってしまうだろうし知識も経験もない以上一番確実な方法だ、後の方法が上手くいかなくなっても最悪革として使えるようにしたいものだ。夜は長い、焦らず作業を続けよう。
明るくなるころようやく噛む作業が終了する、睡眠をとりたいところだが噛んでいるとのどが渇きペットボトルの水は空になってしまったので補充しに外への岩を動かす。いつものオアシスに行けば昨夜の雨で水が濁っている、飲めないことはないだろうが―――今後のことも考え簡単な濾過装置は作る必要がある。岩をも削るシャベルだ、木程度なら折れなくもないだろうしナイフで木材の簡単な加工は可能だろう。それに今更ではあるが水も煮沸したいものだ、使い勝手は悪いだろうが岩を削り食器やら鍋やら作りたい。快適な生活を送れるのはまだ先のようだ。
オアシスの脇に穴を掘る、最初は濁った水が出てくるが何度も捨てているとそのうち綺麗な水が染み出てくる、とりあえずこの水で限界となった喉の渇きを潤す。しかし今後の冒険も考えると持ち運びできる濾過機もほしいところだ。
シャベルを振るい細い木を切り倒す・・・いくらJISマークがついているとはいえ妙に丈夫で鋭いシャベルだ、砂漠に突き立てたせいかモンスターの生き血を吸ったせいか、まあこの状況自体が非現実的なのだが。ブッシュナイフで形を整え苦戦しつつも筒のようににする。小石、砂利、砂、肉を焼いた時に使った焚き火の炭、砂、適当に枯れた葉や藁のようなものを順に敷き詰め側面の下のほうに穴を開ける。少し濁った水を流し込むとしばらくの間は汚い水が流れていたが根気よく続けると徐々にきれいな水へと変わっていった。シャベルで岩を削り粗雑で極めて厚手ながら皿と鍋を作った、水が多少染み込んでしまうが何とか使えるだろう。尚材料集めの最中に野犬型のモンスターを3匹仕留めることができた、僅かだがまた体に流れ込む熱を感じた。戦利品はなめしに活用してみようと思う。