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伝説のシャベル  作者: KY
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3章異聞の2 混迷の避難所

 第二講堂の中はひどいものだった。すすり泣く声、怒号、叫び・・・事前に訓練はしていたはずだがそううまくできるわけも無い。クラスなどの纏まりもあってないようなものになっていた。


 ただし避難場所のスペース自体にはある程度余裕があり、怪我人もそんなに多くはなさそうだった。


 救護スペースに急ぐと先ほど腕を食いちぎられた獣人が倒れている、呻いてはいるもののあまり動きは無い。


「セレスさん、無事でしたか」


「ええ、ルオナ先生もご無事で何よりです・・・彼の様子はどうです?」


 ルオナ先生は教員の中では若手で保健医として生徒から慕われているヒューマンの女性だ。


「良くないわ、血が出すぎてて・・・」


「そう、ですか」


「今は一応血は止まったわ。体力が持てばいいのだけれど」


 その表情を見ればそれが希望的観測に過ぎないところが分かる。だからといってどうすることもできない。腹立たしくも今やらないといけないことを優先するしかない。


「他の先生方はどうされました?」


「学年主任のライル先生がいらした筈よ、ただしずいぶん錯乱されていたようで今は倉庫にお一人で・・・あとナコナコ先生が生徒を庇われたとき怪我をして奥のほうで休んでいるわ。・・・ごめんなさい、あとの先生方は良く分からないの、生徒を逃がす為に一番後ろで戦っていたって話を聞いたけれど・・・」


「っ!!何て事・・・」


 まとめるべき大人がいない。ルオナ先生はここを動くわけにはいかないし怪我をしたナコナコ先生は倒れている。ライル先生が指揮を執るべきだが・・・あまり期待はできそうも無い、一度会って見る必要性はあるだろうけれども。


 自分は生徒会長なのだ。そう言い聞かせて不安げに背中から視線を送る自警委員に大きく声をかける。


「あなたたちは今避難している生徒をクラスごとにまとめて集まるよう伝えてください。それから生徒会役員や各委員長を見かけたら前のステージに集まるように声をかけてください。大丈夫、訓練どおりに並ぶよう伝えればいいのです。・・・リリエルは付いてきてください。」


「「「はいっ!」」」


 やるべきことを見つけた生徒達は混乱する学生達のところへ向かう。何かをしているときのほうが不安もまぎれるだろう。


 とりあえず様子を見ながら正面ステージへ向かうことにする。とにかく指揮の体制だけでも整えたい。


「そういえば自警委員長はどうしたの?」


「・・・不明です」


「そう・・・彼はしっかりとしているからどこかで生きていてくれればいいのだけれど」


「ええ、そう願います。」


 ステージへ登ると走りながら小柄な獣人の男生徒が声をかけてきた。


「会長っ!!」


「ダン!あなたも無事だったのね。」


 ダンと呼ばれた生徒は生徒会の書記だ。生徒会役員の人数は案外少なく会長、副会長、書記長、書記の4人だ、これに各委員会の委員長と副委員長が集まり生徒会という組織が運営されている。それなりの自治権はあったが、平和なときは日々問題というものがほぼなかったので形だけに近いものだった。


 しかしモンスターの侵攻が始まるとより強固な組織として大人の手を煩わせないように再構築されていた。


「他の役員は?」


「わからないです。ごめんなさい・・・でも良かった、会長がいてくれて。僕不安で不安で・・・」


「そう、つらかったわね・・・」


 泣き出してしまったダンをなだめつつステージに置かれた台の上に真っ直ぐと立つ。ずっとがやがやしており中々動かなかった生徒達だがそれを見て声を抑えると自警委員の指示に従いクラスごとに纏まって所定の位置に座っていった。


 しばらく時間がたち整列が終わると嫌でも気がつくことがある。



(ずいぶんと空席が多い・・・)



 訓練時はほぼ満員に近く席を埋めていた生徒の数と比べれば、かなり空席が目立つ。さらにクラスのあった場所によりここまで辿り着けた人数がかなり違ってきている。本来クラスがあるべき席に誰も座っていないところまである。


 ダンはまだ泣いているが、こっちだって泣きたいと思う。でも今泣いたらとんでもないことになることは明らか、我慢するしかない。


「皆さん、お疲れ様です。今皆さんに座っていただきましたが、各クラスの学級委員は起立をしてください。もしいない場合は出席番号が一番前の方が代表として起立してください。・・・ありがとうございます、次にそれぞれのクラスの人数を数えて順番に前に報告しに来てください。」


 前のほうへ来る生徒の姿が見えると指示をする。


「ダン、ここに紙があるわ。いつまでも泣いていないでそれぞれの報告人数を記録しなさい!」


「えぐっ・・・、は、はい!」


 次々とくる代表者からの報告を記載すると、今度は代表者に紙とペンを渡す。


「次にそれぞれのクラスで話し合って意見をまとめてください。その一、先生はどうされたか。その二、どこをどう通って逃げてきたか。その三、校舎の外の様子がどうなっていたか。その四、見えたモンスターの種類と数です。なるべく速くまとめて持ってきてください。それではお願いします!」


 にわかに騒がしくなる講堂。ダンに対応を任せると衝立の裏の椅子に座りようやく一息つく。


「ふう・・・」


「お疲れ様です、会長。」


「リリエル、ライル先生は?」


「駄目です、倉庫の鍵を閉めていて・・・声をおかけしても、来るなの一点張りで」


 やれやれといった感で首を振り眼鏡をはずすと目頭を押さえる。エルフの中では自制心が強く謙虚な彼女でなければ怒っていたかもしれない。冷静でやさしく得がたい友人だ。


「そう、お疲れ様。いろいろと、ね」


「はい、会長のほうがお疲れでしょうが」


「まあね」


 良いニュースが1つもないうえに重責を負わされて本当に疲れている。しかも物資の入った倉庫に篭られてしまっては困る。ライル先生は1人で生きていくつもりなのか。たしかに食料と水はかなり揃ってはいるが、なんと自分勝手なのか。


「会長!集計が終わりました!」


「ありがとうダン、それじゃあ生徒会集合の声をかけてきてくれない?」


「は、はい!」


 さて、と。今がどんな状況なのか、すこしでも希望があると良いけれども・・・

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