3-11 D・I・G~学び舎~
次の小島に到着したがそこには何も得るものは無かった、だが体力や物資は消費するので精神的には面白くない。危険はあるが大きめの島を目指すことにする、ハイリスクハイリターンだ、ローリスクノーリターンよりかはマシだろうか。
筋肉痛知らずのこの肉体はひたすら掘削をつづける。ただ無心となりひたすら穴を掘り続けるのも悪くない。ルーチンワークが嫌いな人も多いと思うが個人的にはそうでもない。同じ作業だが少しずつ慣れてきたり工夫したりして効率を上げる楽しみもある。最初に比べて掘り方や姿勢が最適化され掘る速度が当社比1.4倍まで向上した。
相変わらず頭の上で眠りこけているフィアだが急に目覚めると髪の毛を引っ張ってきた。
「どうした?」
「チョットまっててネ・・・うーんト」
尻尾をクルクルと回転させながら何かを探しているようだ、お前の尻尾はレーダーか。
「あっちの方に何かがいるヨ!・・・キャハッ!動いてる動いてる!っあ、死んだカナ?」
「何があった?」
「うーん、あっちのほうで今何かが生きている感じがしたんだヨ!しかも結構たくさん」
「死んだとか言ってたが」
「一つじゃないのヨおじ様、」
「む?」
「なーにかたくさんいるのヨねーこれが・・・あっ、何かまた死んだかナ?」
「モンスターか?」
「わからないケド・・・もっと弱い感じだから、もしかするト」
フィアから聞いた物語の時代からどれだけの時間が過ぎたことか?何百、何千年の時が、ヒトが、モンスターが時間を止められていたのか?そして何故穴を掘り出した「今」、掘り起こしてもいないのに自然に楔から解き放たれたのか?そのような確率はどれほど小さなものか。
だが、物語というものは得てしてそういうものだ。
仮に辿り着いたときそこに廃墟があったとしたら、語られる言葉は少ない。「廃墟があった」これでお終いだ。仮に目覚めたモノがどれだけドラマチックな行動をしてもそれを知らなければ全く持って意味を成さない。
非常に愉快だ。これが俺の物語だとしたら、それは良い方向に向かっている。危険かもしれない、死ぬかもしれない、だが少なくとも刺激に溢れたストーリーだ!
「ひゃあっ!」
フィアの頭を撫でてやる、こいつがいなければ物語は始まらなかった。今も、そして出会いのときからも。
「んも~おじ様ったらいきなりどうしたのヨ!ビックリしたヨ!・・・マァイヤじゃないけどサ」
僅かに頬を赤らめている、こう照れる姿を見るのは初めてだ。こうやって褒めてやる事もそうそう無かったか。まあ嫌じゃないのならいいか。
「急いで行く、案内しろ」
「エ!?おじ様行くノ!?」
正直善意で人助けをするようなタマには見えないだろうし自覚もしている。驚かれても仕方が無い。興味が無いモノにかかわる気など毛頭無いし人付き合いも正直面倒で性に合わない。
「ああ」
「・・・おもしろそうだからかナ?」
「何だ、よく分かってるじゃないか」
くっくっくと笑いが漏れる。楽しいからいくのだしやりたいからやるのだ。
「ンもう・・・おじ様ってサイコーだネ!」
キャハハと笑うフィア、コイツも結構大概だ。常識という枠からはブレている気がする。そもそも人間ですらないのだが。
シャベルを持つ手に力を入れる。手遅れになってはイベントが起きない、そいつは駄目だ!
「アッチだよ!おじ様!!」
「応!」
フィアの指差すほうへ最短距離で掘る、急な角度で来た道を戻るのは大変だろうが仕方が無い。進行方向を見れば遠くに靄がかかったような球体が見える。もし、島の周囲の劣化が激しいとしたら、砂状の結晶は光を真っ直ぐ通さず透き通ったほかの場所に比べ見にくくなる。
よく見える大きな建物を目指すよりも、よく見えない靄へと掻き行ったほうが実りがあるのかもしれない。その中には危険が待っているかもしれないがこれもまた面白いではないか。
そう思案しつつ目的地へひたすらシャベルを振るい続けていった。
朧気ながら島の様子が分かる場所まで近づいた。大きな建物が見える、頑丈そうで広大な敷地だ。
「あれハ・・・」
「知っているのか、フィア?」
「うーん、聞いたことがあるだけだけどサ」
フィアはその建物の壁に描かれた絵を見ていた。
「ここハ、学園だヨ!」