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伝説のシャベル  作者: KY
54/203

3-10 D・I・G~廃墟の村~


掘り始める場所はフィアを発掘したところだ。感情によるものでもない、現実的な理由からだ。


まず第一に本拠地から近いこと。


そして第2にある程度の場所までは簡単に掘れると思われることだ。


この世界を覆う透明な大地、地表では劣化して結晶の砂漠のように見える。だが深い場所でも劣化が進行している部分があると思われる。その結果が唐突に起こる地面の陥没や降った雨が流れる地下水脈の存在だ。


劣化した部分は掘りやすい。その反面崩落の危険性はあるためあまりに脆い部分は補強や迂回をしつつ掘っていく必要があるだろう。


「おい」


「なにかナおじ様?」


「俺は穴を掘る」


「うん」


「お前は何ができる?」


これは重要なことだった。この世界についての情報を聞けたことには感謝しており満足している。だがヒトというものは互いが何かしら役に立つからともに行動する。何一ついいところも無い者と行動を共にするものはいない、打算が一切無い関係というものは逆に歪だ。一見無私の愛に見えても自己の満足を満たすというヒロイニズムが根底にある。互いに支えあうから人、いい言葉だ。支えられなければ人にあらずという意味が小気味いい。


「・・・フィアは、エーっとね~ン~・・・」


「・・・何もできないのか?」


「エット、あっそうだヨ!イキモノの存在が分かるヨ!オーラっておじ様が呼んでいるものがわかるんデスよ!!」



レーダーのようなものか、そういえばモンスターの気配にやけに敏感だった。モンスターに不意をつかれる心配も減るし、たとえヒトが生きていたとしてもそれが味方である保障も一切無い。そう考えれば有用か、嘘をつかれない限りはだが。



「・・・いいだろう、行くぞ」


「ッ!キャハハッ!ハァイおじ様!」



ひたすらに穴を掘っていく。真下に直に掘っていくと地上に戻る際にとんでもない労力が必要となるだろう。よって少し手間だが螺旋状に掘り進んでいくことにする。効率はだいぶ落ちるが引き返す際も急勾配とはいえ足で踏みしめ登っていける。


掘る、掘る。掘り出したものを通路に押し付け固める。そしてまた掘る。体力には余裕があるしこのシャベルも実に規格外なシロモノとなっている。俺はまるで人間ショベルカーのように掘り進んでいく。単純作業は実は嫌いではない、取り留めの無いことを考えるというのも案外面白いものだ。ただフィアの方は退屈らしく頭の上で寝ている、しかもご丁寧に落ちないように髪に尻尾を巻きつけながらだ。

せいぜい俺の汗で全身汗臭くなっていればいいさ。


掘り進んでいくと眼下に大地ごと抉り取られたように存在する建屋群が薄っすら見えてきた。透明度が高い樹脂状の地層とはいえそれ自身が発光しているためかずっと先まで見通すことはできないようだ。



掘り続けて3日目、手ごたえが徐々に軽くなる。脆い部分に出たか?だが効率は上がる。それから半日ほどたち透明な地層に浮くように存在している島へと辿り着いた。力をシャベルに力をこめて掘る。だが次の瞬間足元が崩落を始めた。


「!?」

「ヒャアッ!!」


寝ていたフィアも飛び起きる。だが慌てるな。シャベルを壁に深くつきたて体を留める。さらにこんなこともあろうかと命綱もつけている、一定距離ごとに骨でできたハーケンを打ち込みながら穴を掘っていたのだ。


体を持ち上げ通路に復帰すると上から島に到達するルートを迂回し正面から乗り込めるようさらに下を目指し、その後は通路を固めながら地面に平行に掘っていく。


島に近づくにつれやはり地層の劣化が見られる。掘りやすくはあるがより一層崩落に気をつけて進まなければならなかった。




―――そして、ついに発掘した、いや上陸したというべきか。



島の周辺の地層は劣化を重ね、崩落していた。そのせいか島の周辺は水に囲まれた気泡のように空洞ができていた。天井といえる部分より劣化して落ちゆく結晶の粒が光りながら島に降り注ぐ。


それが積もるのは、朽ち果てた廃墟だった。この時を止める樹脂のような地層に覆われていない場所は建物は頑丈な基礎や一部を除き風化していた。逆に未だ覆われている部分は色あせぬ建物の残骸が姿を残していた。


警戒しつつもゆっくりと歩いていく。この地層自体が光るためか、島には植物さえ生えている。見える建物はもはや遺跡といってもいいほど古びている。時折見える白いものはヒトの骨か。黒いものは血も肉も骨まで黒いモンスターの残骸だろうか。


動くものの気配は無い。


「おい」


「ウン・・・生きている、ヒトはいないみたいだネ」


嗚呼、時を凍らせる透き通る土の中にはヒトの残骸が腐ることなく生々しく残っているのが見える。ヒトとしての原形を留めているものはほとんど無い。モンスターに襲われて全てのヒトが息絶えた村か。


「そうか、じゃあ他のはどうだ?」


「いるヨ・・・結構団体さんかもネ」



何百年、何千年かぶりに動くヒトが入ってきたのだ。ただ進むだけで均衡は崩れ、かろうじて均衡を保っていた劣化した地層が崩れていく。眠っていた魔獣達は目覚め、久々の食事を行おうと餌に向かって群がってくる。


野犬(ファング )か 」


だが地上のものより体が大きく動きが俊敏だ。地上にいるものは限られた資源で生きていく為に長期の移動や少ない食料でも生きていけるような個体だけが残っていったのだろう。


20匹以上はいるだろうか。かなりの勢いで向かってくる。


「どいてろ」

「オッケー!がんばってネ!おじ様!」

空へ退避するフィアを見ることも無く敵を見据える。迎え撃つは腰から抜いた魔法の武器、6スター・リボルバーだ。


(リボルバーの銃弾の変わりに、6つの爆発する射程距離が2~7mち異なる橙の魔法の宝玉を円形のシリンダーに埋め込んだもの。魔法は20cm以上離れると発動しないことを逆手に取りシリンダーの一番下に位置する宝玉のみ反応し魔法が発現する。距離に応じシリンダーを回し適切な宝玉を一番下に来るようにする。銃身は不要のため骨で作ったナイフを代わりに配置し急な接近戦に備える。)


敵との距離7mと少しで宝玉に魔力を込める。敵の先頭集団中心で爆発、爆炎を超えて肉薄しようとする後続集団、今度はシリンダを回し距離4mに爆発を起こす宝玉をセットし魔力を込める。


爆発、後続集団の大半が吹き飛ぶ。しかしそれをも超えたモンスターが涎を撒き散らしながら迫ってくる。



リボルバーをクルクル回ししまうとシャベルを構えいちばん近い野犬(ファング )へと走る。たしかに敵は速い、地上にいたやつらよりも。しかし遅い、対処できない速度ではない。


一閃で先頭の野犬(ファング )の首を飛ばす。手ごたえが軽い、地上のモノよりかナリはでかいし素早い。手強い相手といえる。


手ごたえは思ったよりも軽かった、間髪いれず次の野犬(ファング )が飛び掛ってくる。光を反射し輝いている額の感覚器である宝玉を頭蓋さら唐竹割りにする。やはり軽い、地上のやつよりも脆いのか。体が大きく力と速度があるが耐久性では劣るらしい。


4匹がさらに続く。左手の篭手にオーラを流す。仕込まれた黄色い宝玉から拡散する雷撃が放たれ敵をなぎ払う。毛皮が焼け焦げ悲鳴を上げる野犬(ファング )の頭部を踏みつけて破砕しつつ混乱しているのか動きの鈍い最後の一匹へ駆け寄るとフルスイングで吹き飛ばす。


体を奇妙な形に曲げぶつかった建物の残骸をさらに粉々にして地面に沈んだ。



「おじ様!まだ何かいるヨ!!」



「キエエエエエエエエ!!!」



甲高い咆哮と共に姿を現したのは2mはあろうかという真っ白な毛皮を纏うゴリラのようなモンスターだ。頭部に宝玉が3つある。2つは赤色、魔法は使ってこないだろうが、中心部は青色。未知の魔法か、最大級の警戒を要する。


額にオーラを込め緑の仕込んだ宝玉から衝撃弾を放つ。だが両手両足で跳ねるように回避しつつ接近してくる、早い!


廃墟となった建物をつかい縦横無尽に跳ね回る。飛んでくる何かの影、回避すべく地面を転がる。投石か。30キロはあろう廃墟の建材を軽々と投げつけてくる。障害物に隠れいろいろなものを投げつけてくる、精度は悪いが組しがたい敵だ。縦横無尽に動き回っていてもこちらの様子が分かるのは感覚器である宝玉の数が多いからか。


こちらも動き回りながら牽制で衝撃弾を放つ。中々当たらないが近くに着弾した衝撃でバランスを崩したゴリラに接近する。


走りながらリボルバーを腰から抜き構える。だがその時違和感、ゴリラからだ。とっさに横に跳ぶが、攻撃が飛んでくることは無かった。しかし視界が急に悪くなる。これは濃霧か。白いゴリラの姿が見えなくなる、1m先も見通せないほどの視界の悪さだ。


急にバランスを崩す、足元の段差が見えなかった。その隙を突いてか目の前に大きな影がせまり体を衝撃が襲う。


息が詰まる。浮遊感、そして背中に大きな衝撃。頭にも鈍痛、意識が飛びそうになる。殴り飛ばされたのか、地面を蹴る音が聞こえる、こちらからは奴が見えないが相手はどうやら位置が分かるらしい・・・止めを刺しにきたか。


見るからに力強そうな豪腕、岩やかつてここにあった村の防壁をも軽々と砕くだろう。建物も、ヒトもこの力自慢は叩き潰してきたのだろう。


シャベルもリボルバー取り落としてしまった。だが、まだ武器はある。この肉体だ。


モヤシだった最初、敵を殺し、荷物を担ぎ旅をし、シャベルを振るってきた日々。力なら俺も少々自信がある。


体は痛むが怪我は大したことはなさそうだ、牛角さんの頭蓋でできた胸当ては割れずに健在、皮でできた鎧は衝撃を緩和した。ただ痛むだけなら何の問題があるのか。



「|ガアアアアアアアアアアアアアッ!《ウォークライ 》」



体中に力を込めて叫ぶ。オーラの奔流が魔法に干渉し無効化する。すでに発生している霧は消せないが今現在発生しつつある霧は止められる。僅かだが視界が回復する、薄っすらと見えるシルエット。これで十分だ。


体に力がみなぎる、一時的なものだがそれでいい。飛び起きると大振りに振り下ろされる腕をくぐり掌底で顎をカウンター気味に打つ。だがゴリラの動き出した巨体は止まらない、折込済みだ。


足に力を込め全力で体当たり、勢いを何とか殺し予想外の反撃で動きの止まっているゴリラの胸に蹴りを入れて押し戻す。右手の篭手に仕込まれた宝玉は2m先に爆発を起こす魔法、右手を前に、体の力を抜きウォークライの一時的なハイ状態を抑えオーラを流す。


ゴリラの頭の真後ろで爆発。後頭部から血を噴出し倒れこんでくるその顔面にもう一度蹴りを入れて仰向けにひっくり返した。


体のチェックを行う。ウォークライの反動であるだるさが出始めていたが痛みはだいぶ引いてきている。回復力もこの体は尋常ではなくなっている、軽症なら一日もあれば完治する。



霧が晴れてくる。倒したゴリラから流れ込むオーラの奔流が未だに体を熱くする、この涼しい霧の中でもう少し涼んでいたかったのだが仕方が無い。


「おじ様~!」


フィアが空から降りてくる。


「やっと見つけたヨ!急に何も見えなくなってビックリだヨ!」


「文句ならあいつに言え、もっとももう聞こえる耳も無いだろうがな」


白いゴリラを指差してやるとフィアは息を呑んだ。


「キラーエイプじゃないノ!!おじ様コレ一人で倒したのカナ!?」


「他に誰がいる・・・有名なのか?」


「モチのロン!多くのムラとかマチがキラーエイプにやられたって聞いたヨ、力が強くて止められない上に壁もよじ登ったり壊したりして手がつけられなかったってサ。デモ霧を出すとかハ聞いたことないケド・・・キャハハッ!さっすがおじ様デスネ!!」


「む・・・上位種か?運悪く遭遇したか。いや、そうでもないな」


口を呆けたように開け死んでいるキラーエイプの頭部には無傷の青い宝玉があった。ブッシュナイフで抉り取りオーラを流せば先ほどのような濃霧が発生した。


「・・・目くらまし程度には使える、か?」


だが自分でも霧に巻かれ視界が悪くなる。この使いどころは難しいかもしれない。しかしあって損することも無いだろう。とりあえず右足のブーツに切れ込みをいれ仕込んでおくことにする。


「さて、他に動くものはあるか?」


「んー、ワオ!2つあるヨ」


「成る程、でかいのと小さいのか」


「キャハハッ正解正解ッ!」


「ならばとりあえずは安全か」


キラーエイプ、いや上位種ならミストエイプとでも名付けておく。ナイフで毛皮を剥ぎ肉を切っていく、案外簡単に解体できる。強い力と小賢しい知恵を持つ難敵であったが防御力に関してはそんなに優秀では無かったらしい。


「うわあグログロだ~、おじ様何してるんデス?」

「飯だ」

「エエ!?食べるノ?これヲ!?」


五月蝿い奴だ、結局俺のオーラを吸って生きているなら間接的にモンスターを食っているようなものだろうに。


「ここ数日掘っている間はまずい干し肉と果物だけだったからな、食い溜めしておく」


血を啜り柔らかな肉を食らう。生肉を食べてきても今まで腹を下したことは無い、この世界には寄生虫といった概念が無いのかもしれない。肉質はやや固めで臭みがある、あまり美味くは無いが干し肉燻製肉にくらべれば大分マシだった。


食べきれない分は燻製肉とすることにした。崩れたまま時が止まっていた建物も土をどかせばまだまだ使える木材だ。火をつけることに酸素が大丈夫かと危惧したがぽっかりとあいたこの空間は案外広い、多少なら大丈夫だろう、草木も生えているし。



人心地つくと今度はフィアが飯をねだってくる。まあかわいいものだ。金魚とかメダカとか人に慣れて来ると近寄ってきて餌くれ餌くれとアピールしてくる、寄ってこない奴よりかは愛着も湧くというものだ。




食事も済んだ、食料も補充した。ついでに埋もれて時が止まっていたムラの貯水池も発見、なかなかに上々な滑り出しだ。一晩休めば体力も怪我も全快した。



さて、次の島を目指して出発だ!





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