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伝説のシャベル  作者: KY
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3-9 神話~新話~


「見てのとおりだろう。」


窓の外へ目を向ければ光り輝く結晶質の砂漠が大地を覆い、僅かばかりの島が頭を出している光景が今の世界の見たまんまだ。ほかに真実など無い。


「アチャー、そのとおりだけどネ・・・何かこう、感想とかあるんじゃないかナ?」


「そうだな・・・俺は多少なり運がよかったか。」


「ン?」


「刺激の無い世界なんぞお断りだね。」


地球で絶望する前なら良かったさ、そんな世界でも。だが命というものをコインとして見れば、始まりも終わりも無い平和なんぞ糞食らえだ。だが、今ならやることが見えてくる。それは楽しいものだ。


「ええ~・・・おじ様、そこはなぐさめるとか魔獣はゆるせない!とかいうところじゃないカナ?」


フィアも流石に苦笑いを浮かべているが知ったことではない。


「心にも無い哀れみの言葉が欲しいのか?」

「うんにゃ、全然ダヨ」

「だろうな。」


直ぐにフィアも表情を笑顔に戻す。悲劇は当事者のものだ、俺のものじゃない。それに嘘を言わない態度が逆にフィアの気分を良くした様だった。


「何にせよ、その話が本当なら創造神サマとやらが追い詰められてとりあえず全てを保留にした、という訳か」


「どゆことカナ?」


首をかしげるフィア、確かに説明していないことも多い。・・・しかし本来ならもっと好奇心のままに色々質問してくるべきだっただろう。平和で怠惰な世界に生きてきたものには好奇心をはじめとした生きるための何かが不足しているのか。


そもそもなぜフィア自身が今ここにいるのかの理由にもなる筈なのに。いや、フィアはただ気絶していたのを介抱されただけと勘違いしているのかもしれない。この世界が結晶砂漠に覆われ何年、いや何百千年経過しているか分からないという事を。



今度はこちらが語る番か。この世界に落ちてきて見てきたものを、知ったことを。神話や物語ではない、未だ色あせぬ俺の体験記をだ。



この世界は固い結晶質の砂漠に覆われ、僅かばかりの島が頭を出すモンスターが闊歩する世界であるということ。


5日周期で天気が変わり、太陽は天の一点から動かずただ光量の変化で朝晩が変わり夜もほのかな青い光が世界を照らしていること。「エ?それはあたりまえでショ?」「・・・そうか元々こうだったのか。」


結晶質の砂漠はそれ自身が光を発していること。「それも知ってるヨ!」「・・・この拠点の明かりにも使っているからな」


今までほかに会話ができそうなヒトとは出会ったことが無いこと。


この世界の中心にはすべてを飲み込もうと拡大を続ける流砂が渦巻いており底にはおそろしいモンスターが鎬を削っているであろうこと。世界に果てがありそれ以上は進めないこと。



―――そして、結晶質の大地に包まれたモノは時間が止まり、地下深くには時の止まった都市が見えること。



「ッ!!それってもしかしテ!?」


「来い」


頭にフィアを載せて外へ出るとそのまま島の外へ駆け、結晶砂漠のとある地点まで向かう。そこには穴を掘って作られたシェルターの入り口だ。それぞれの島の近くには結晶砂漠を掘って作ったシェルターを用意してあり食料と水が少しばかし蓄えてある。本拠地のこの島も万一のことを考え一応作っておいたのだが、副次的な発見があった。


結晶砂漠、地表表面は劣化のためなのか砂状の粒子が覆っており光を乱反射するためか透明度自体は低い。しかし何メートルか掘れば劣化していない強固な層に辿り着く。


その層は例えるならアクリルのような樹脂状であり、もっとわかりやすく掘っていく過程を言えば言えばゼリーをスプーンで上から食べていっているようなものだ。ただし非常に固くモンスターを倒して得た高い身体能力と返り血で黒く染まったシャベルでなければ掘るのには相当な労力が必要となるだろう。



シェルターの底から見える地底の世界、透き通った床を通し見える風景。土や建物、都市などが上に下に、さまざまな場所に広がって封じ込められている風景だった。


「!!」

言葉も出ないとはこのことか、普段ふざけているフィアでさえ声を出さない。



「ネエ、おじ様」


「何だ」


「時間、止まってるんだよネ?」


「多分な、生き物がいきてるかは知らんが」


「生きてるヨ」


「何故わかる・・・ん?」


見ればフィアはアンテナのように尻尾を立て、動かしていた。


「わかるのか?」


「ダイタイだけどネ」


寄生生物らしく生き物の気配には敏感って訳だな。


「ムウ、今おじ様失礼なこと考えなかったカナ?」


「寄生生物らしく生き物の気配には敏感って訳だな」

「ヒドイッ!少しは隠してヨ!言葉ってやつをサ!」

「知るか・・・で、どうする?」




「おじ様、助けてください。この魅惑のボディを好きにしてもい」

「いいぞ」

「いカラ・・・ッテ!即答!?イヤンおじ様に襲われるのネ」


無言でデコピンをかましておく。


「お前も故郷は大事か」


「ンン、フィアは変わり者って言われてたけド。流石に愛着もあったからネ」

「そうか、まあどうでもいいが」

「おじ様から聞いてきたのにィ!」


そうだ、こいつの事情はそんなに関係ない。俺にとって大事なのはこれでキャストもプロローグも整ったという一点だ。


「デモ、なんでおじ様は助けてくれるのカナ?」


「不服か?」


「そうじゃないけどサ、おじ様ヒト助けなんて興味なさそうジャン」


「まったくだな」


「ジャアなんでなのサ?」


「そりゃあ、決まってるだろ」


立ち上がりシャベルを担ぐ、嗚呼!この世界に限りない感謝を!心を解き放ち、そして愉しそうな目標までくれるとは!これだけで、これだけでかつての自分まで救われたような気になる。お膳立てもありがたい生きがいのあるゲームのような世界へお招きありがとう!入れるコインは1つ、大して価値の無い命とか言う100円玉。コンティニューなんてゲーマーは認めないから丁度いい。



「面白そうだからな」



笑いが溢れて止まらない、さてとどれだけ長いチュートリアルだったか、地球に生まれ絶望しこの世界に落ちて戦えるまで体を鍛え・・・ようやく始まるのだ!俺の、俺だけの物語が!



「ワオ!・・・惚れちゃいそうだネ!」


最後のほうの言葉は聞き取れなかったがフィアも楽しそうで何より、遊びは楽しまなければな。では、レッツスタート!

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