3-8 神話~地獄~
ヒトびとは永い間楽園で幸せに暮らしていました。創造新様の下で飢えも争いも無い平和な日々がいつまでも続くと思っていました。
しかし、ある日傷ついた巨人が人里に辿り着きました。初めて巨人を見て驚く人々に巨人は言いました。
危機が迫っている、と。
かつて巨人達の多くはこの世界から去っていきましたが、少しの巨人たちはこの世界を愛し世界の淵で静かに生きていたのです。
突然世界の果ての境目がゆがみ、魔獣の群れが現れたこと。巨人たちは精一杯戦っているが、もう長くは持たないであろうこと。この危機を知らせるためにやってきたということ。
巨人は話し終えると息を引き取りました。
ヒトビトは驚き、戸惑い、慌ててこのことを創造神様に相談しました。
創造神様は、光と、平和と、秩序をこの世界にもたらしました。しかし、争いはもたらすことができなかったのです。
しばらく時間がたった後、創造神様から下されたのは、壁を作ることでした。ヒトビトはみんなで力を合わせて町を囲うように壁を作りました。
次に下されたのはそれぞれの身を守るということでした。ヒトビトは戸惑いました、何からどうやってみを守るのだと。今まで争ったことのないヒトビトには想像もつかないことでした。創造神様にもう一度相談をしても、同じ言葉しか帰ってくることはありませんでした。
ヒトビトはとりあえず、食事の時につかうフォークやナイフ、仕事で使う道具や棒切れなどを手に持って生活することにしました。それはこの世界ではじめて武器が生まれた時でした。
ヒトビトはとりあえず安心しました。創造神様の言葉通りに働いたからです。普段の生活に戻るとヒトビトはまた平和な生活を始めるのでした。それは平穏な時をすごす最後の一時でした。
いちばん遠い村に、魔獣の群れが襲い掛かりました。ムラビトは壁を作りましたが、不便だな、と思って入り口を開けていました。小さな魔獣がそこから村に入り暴れ回りました。ヒトはただ逃げるだけでした。村は消えました。
いちばん遠い町に、魔獣の群れが襲い掛かりました。マチビトは壁を作りましたが、町は大きいので木の板で作られた壁でした。大きな魔獣が壁を壊して町に入り暴れ回りました。ヒトはただ逃げるだけでした。町は消えました。
少し遠い村に、魔獣の群れが襲い掛かりました。ムラビトは壁を閉ざしましたが、壁を乗り越えてきた魔獣が村に入り暴れ回りました。ヒトは武器を振り回しました。村は消えました。
少し遠い町に、魔獣の群れが襲い掛かりました。ムラビトは壁を閉ざしましたが、大きな魔獣が少しずつ壁を崩していき町に入り暴れ回りました。ヒトは武器を振り回しました。町は消えました。
ヒトビトはようやく巨人の言葉の意味を理解しました。そして混乱しました。混乱と武器は争いを生みました。絶望し暴れまわるもの、違う種族と戦うもの、奪うもの、守るもの、危機に立ち向かおうとするもの。
少し近い村に、魔獣の群れが襲い掛かりました。ムラビトは壁を厚くし、武器をかまえました。壁を乗り越えてきた魔獣を何とか倒しました。壁を壊そうとする魔獣の邪魔をしました。しかし魔獣は止まりませんでした。ヒトは疲れてしまいました。村は消えました。
少し近い町に、魔獣の群れが襲い掛かりました。マチビトは壁を厚くし、武器をかまえました。壁を乗り越えてきた魔獣を倒しました。壁を壊そうとする魔獣も何とか倒しました。しかし町は囲まれてしまいました。ヒトは疲れてしまいました。町は消えました。
ヒトビトは世界の始まりの地へ集まりました。ヒトビトは結束しました。丈夫な壁を作り、強い武器を集め、力を合わせました。
いちばん大きな都に、魔獣の群れが襲い掛かりました。ヒトビトは入ってきた魔獣を倒しました。壁を壊そうとする魔獣も倒しました。集まってくる魔獣も倒しました。ヒトビトは傷つきながらも何とか勝つことができました。ヒトビトは安堵しました。都は守られました。
しかし、とてもたくさんの魔獣の群れが襲い掛かってきました。大きな魔獣の群れが襲い掛かってきました。そして、とてもとても大きな魔獣が姿を現しました。壁は壊されました、ヒトビトは隠れました。逃げました。でも安全な場所はもうありません。ヒトビトは倒れていきました。大きな大きな魔獣は創造神様のいらっしゃる神殿のもう目の前です。
神殿からまばゆいばかりの光が溢れました。世界が渦を巻くようにして歪んでいきます。ぐるぐる、ぐるぐる回る世界。すべてが飲み込まれていきました。
さあ、世界はどうなってしまったのでしょうか?
フィアはそう言い、物語を閉じた。
読んでいただいた方へ感謝。全体的にもう一度さっぱりとしたものに作り変えたい衝動が・・・