3-7 神話~楽園~
先ほどの話で少々気になるフレーズが出てきた。『創造神』か、神様というものが本当にいらっしゃるのなら一度目で見たいものだ。
「その創造神とやら・・・いや、お前の知る世界について教えろ」
「ンー、カミサマのこと、知らないのかー・・・いいけド、ちょっと長い話になるのサ」
「かまわん」
「ワオ!即答だネ!デハデハ御注目!昔話のハジマリハジマリ~・・・」
フィアは空を一回転し、胸に手を当てて綺麗な礼をすると話を始めた。美しい声で紡がれたそれは、かつての世界の神話だった。
―――昔々、この世界にはとても大きな力が満ちていました。でも、そこには力しかありませんでした。世界は何をすることもなくただただそこに在り、永劫の時を重ねるだけでした。
ある時、そこに創造神様が降り立ちました。創造神様がその身を震わせると大きな力が集まり、太陽が生まれました。もう一度その身を震わせると別の大きな力は大地へと姿を変えました。創造神様がその大地へ降り立つと、そこから泉が湧き、流れる水の側から草木が萌え、風が世界を巡り始めました。こうしてまず世界が誕生したのです。
創造神様は降り立った地に生えた大きな大きな木の中に住まわれました。水や草木が世界を覆うと、今度は様々な動物を作られました。今でも見ることができるものから、消えていったものまで。植物を食べる穏やかな動物達は世界へと広がっていきました。
次に創造神様は知恵あるものを造りました。
最初に造られたヒトは妖精です。無邪気で、小さな体で自由に空を舞う彼女達は創造神様のお側で生きることを許されました。
二番目に造られたのは巨人です。寡黙で、とても大きな体の彼らがもつ力はこの世界には大きすぎました。心優しき巨人達は世界の果てを目指し静かに去っていきました。
三番目に造られたのは獣ビトです。獣とヒトとの両方の特徴を持つ彼らは元気に世界中に満ちた草木の中へと駆けていきました。
次は、2つのヒトが一緒に造られました。1つはドワーフ、小柄ですが力が強く、のっしのっしと歩きます。彼らはその力で岩山に穴を掘って住み始めました。もう1つはエルフ、すらりとしていて身が軽い彼らは森の木の上で生活することにしました。
最後に作られたのがヒューマンです。今まで造られたヒトの特徴をそれぞれ持って生まれた彼らには秀でたところは少ないですが劣ったところもまたありませんでした。彼らは主に平地に住み始めました。
そこは楽園でした。獣がヒトを襲うことは無く、草木はその恵みをたわわに実らせ、空は荒れ狂うこともありません。それぞれのヒトの代表者は創造神様のおられる大樹の周りに集い、妖精たちから伝えられる創造神様の命を守り争い無く毎日を楽しく暮らしていました。
ここまで読み上げるとフィアは頭の上に乗ってきてふぅ、と一息ついた。
「ふむ、妖精ってのは随分と偉い立場だったようだな。」
「キャハ!分かってくれたのならもっともーっとほめ奉ってくれてもいいんだヨ!」
まっ平らな胸を張りドヤ顔をする妖精。
「知るか」
「むえむえむえー」
何かいらついたのでとても柔らかい頬っぺたを掴むと揉みまくる、口が蛸のように飛び出すのが面白い。どんな立場の奴でも、歴史のある血族とやらでも、どんだけ偉くても関係がない。このシャベルが振るわれればどうせ血と肉の塊に過ぎなくなる。大切なのは貴賎を問わず、敵対するか否かに他ならない。
「むへー、キャハハッやっぱりおじ様はステキだネ!」
手から開放されるとフィアはこちらを見透かしたように楽しげに笑ってくる。別に隠すようなことも無いので気にもならないが、コイツはふざけたナリと行動をする割にはヒトの本質を見抜くのに長けているようだ。
「・・・神話は分かった。」
「ジャア、今度は待望のお話だヨ!・・・この世界に何があったのか、楽園がどうして消えてしまったのか。悲しい悲しいお話の、はじまりはじまり~」
・・・一瞬だけフィアの顔が悲しそうに見えたのは気のせいだったのか、変わらぬ楽しげな口調で話すフィアの話に耳を傾けた。