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伝説のシャベル  作者: KY
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3-6 自由な妖精と異邦人

あれからフィアはこちらが食事を行うタイミングでオーラを吸って来るようになった。ただし初日とは違い尻尾を巻きつけて来るだけで刺す必要は無くなったらしい。たまに遊んでいるのか笑いながら尻尾ではなく噛み付いてくることもある。痛くないから別に構わないが微妙な力加減が何となくくすぐったい。


腹も膨れれば気持ちも落ち着くというものか、さまざまな表情を見せるようになったり悪戯を仕掛けてくるようになった。悪戯に関してはこちらもわざわざ警戒してしまうからやめてほしいのが本音だが。


大岩の島を出歩くときや別の島への遠征時にもついてくるようになった。フィアは普段は頭の上に乗っておりモンスターが近寄ってくれば上空に避難する。


意外なことにフィアは生物の気配にとても敏感だった。こっちがモンスターを見つける前に髪の毛を引っ張り警告してくる。モンスターはオーラに反応するがフィアはそれがより顕著なようだ。大物相手にブーストをかけオーラを漲らせればビクっと反応するのが面白い。


一緒にいる時間が増えれば会話をする機会も増える。この異世界の言語も程なくして使いこなすことができるようになっていった。




「おじ様!」


フィアはそう俺のことを呼ぶようになった。顎に手を当ててみればずいぶん髭も伸びている、邪魔になったらナイフでその都度短く切っているのだが剃るのは無理だ。


今までわからなかった妖精の生態というものもいろいろ話を聞くことができた。どうやら驚くべきことに最低限妖精はオーラさえ吸っていれば他に食料をとる必要性がないらしい。一応食べ物を食べることはできるがそこから得られる栄養では全然足りないとのこと。


「果物とか食べてもすーぐお腹いっぱいになっちゃうよ!美味しいデスけどー。ああ、キモチワルイくろーいお肉はノーサンキューでね!」


ずいぶんと燃費の悪い体をしているようだ。まあ見てくれは人間に近くとも中身までは一緒とは限らんわけだが。


「いやん、そんなに見つめられても困っちゃうワー。いくらこの魅惑のボディのせいでもネー、おじ様になら少し触らせてアゲルよ?キャハハッ」


「・・・わかった。」

「エ?」


左右の頬っぺたをつまむと横に伸ばす。これがもう凄く伸びるのだ。ゴムのように伸びるがさわり心地はソフトでウェット、シリコンのマウスパッドの中身のようだ。


「イーッ、おいひゃわやめへー」

「わかった。」

「アエ?・・・うえーやめてヨー!くすぐったきもちわるー」


今度は胴体を掴むと軽く揉む。こっちも非常に柔らかくて癖になる感触だ、魅惑のボディーね、確かに恐るべしだ。まあ見た目は小さくてペタペタだがな。


「シクシク・・・うう・・・ひどい目にあったヨ、オヨメにいけないワ」

「擬音をわざわざ口に出すな。」

「うべっ」


嘘泣きにデコピンをかます。多少力を入れても問題無い、最初は小さくて弱い存在だと思ったが少し違うようだった。結構よく飛んでいて壁にぶつかったり地面に落ちたりするが怪我をするような事は一切無かった。聞けば妖精という種族は非常に柔らかく弾性に富んだ素材で体ができているらしい。骨ですら引っ張れば伸びるし90度曲げても折れないそうだ。羽もまだ見た目以上に破れにくく仮に傷ついてもオーラの補充さえあれば直ぐに治るとのこと。


何とも非常識なナマモノだ。


「キャハハハハッ!」


大げさに体を反らせていたが飛び起きるとそのまま空に飛び上がり頭上を旋回する。随分とファニーな性格のようだ、だが地球で語られる妖精というものは大概このような性格であった気もする。悪戯好きで自由で、少々煩いがあまり気を使う必要のないのは非常に精神的に助かるものだった。


飛び回るフィアから視線をはずすと夕飯の支度をする。不味い燻製肉と果物、デザートに花の蜜だ。いつも変わり映えのしない食事であるが生き物としては本来このような食事が普通だろう。人間が飽食に過ぎるのだ、だが美味いものを食べたい気持ちはわかる。香辛料、せめて塩くらいは欲しいものだ。


軽く燻製肉を炙り、たまには味を変えるために果物も炙ってみる。


「あーおじ様ったらズルイズルイ!フィアにもゴハンちょーだいヨ!」

「・・・」


無言で炙った果物の欠片をくれてやる。


「ん~、まあまあだネ!」

「そうか」


燻製肉をかじるが苦く、水分が乏しく相変わらず美味しくない。ただ毎日のようにモンスターを狩り新鮮な生肉を得るというのもオーバーキルだ、資源は有限だ。


「じゃあ・・・そろそろメインディッシュをいただこうカナ~」


左手に飛びついてきたフィアが尻尾を指に巻きつけてぶら下がってくる。満足そうな顔をしながらブランコのように体を揺らしている。オーラを吸われながら聞き忘れていた疑問点を尋ねてみる。


「何故最初は尻尾を刺そうとした?」


「ん?アー、シドのことネ!」


「シド?説明しろ」


「ンー、セッカチさんは駄目駄目デスヨ~?シドっていうのはデスね・・・」


要約すればシドというのは尻尾の先から出る針のようなものでそれを対象に打ち込むことでその周囲ならスムーズにオーラを吸収することができる様になるらしい。一度打込めば非常に丈夫で何年でも針は抜けず機能も壊れないらしい。


何てこった、そんな変なものが左指に仕込まれているのか。


ナイフを抜きシドだかが埋め込まれている左手の薬指に当てる。

「ちょっ!何してるデスカ~!」

「・・・抉り取るだけだが」

「ヤ・メ・テ~!シドは一度埋め込んじゃうと新しいのができるマデ何年もかかるんダヨ~!!」


仕方なくナイフを仕舞うとホッとした表情を浮かべるフィア。すかさずフェイントでまたナイフを抜く。

「ギャア~!やめてヨ!」


仕舞う、抜く「ヒエ~!」仕舞う、抜く「ギョピー!」仕舞う、抜「もういいでショッ!」


荒く息を吐くフィアに以前はどうしていたのかを聞いてみる。そのような生態を持っているのだとしたらフィアの埋まっていた近くに宿主にされていたものが埋まっている可能性もある。助けるかどうかは別の話だが。


「ン?それはモチロン『始原の大樹』に決まってるヨ!」

「知らん」


「ヘ?」

「説明しろ」

「エト?・・・うんいいケド」


どうやら妖精の殆どは『始原の大樹』という世界の中心に位置していた創造神の神殿から生える巨大な木を住処にしていたらしい。どんだけファンタジーなのか。始原の大樹はオーラが満ち溢れており間食としてとても甘く美味しい実が常に実っていて妖精が住むには最適だったようだ。しかしいくら快適でも生活半径が木だけであれば退屈ではなかったのだろうか?


「仕方ないデスよ、だってフツーの人に埋め込んだら死んじゃうからネ~」

「は?」


「お腹一杯マデ吸っちゃうと倒れちゃう人が殆どだったんダヨ、フツーのゴハン食べてもお腹は膨れても元気でないシ・・・、でもと~っても稀に大丈夫なヒトもいるから外に遊びに行きたい妖精はそういうヒトに埋め込んでたヨ!デモやっぱりお腹一杯にはならなくていつもハラペコで羽艶も悪かったヨ」


うん、やっぱり抜くかなシドとやらを。ナイフ抜刀。


「マッテマッテ!おじ様は大丈夫ダイジョーブ!!だってもの凄くオーラが濃いしたくさんあるカラネ!おかげでフィアの羽はツヤツヤだヨ!」


それはどうでもいいが、まあ今すぐどうこうということにならなければそれでいい。少なくとも吸わせることにしたのは俺の選択だ。


「だがお前も運が悪い」


「ン?」


「そんなもんを俺みたいなヤツに埋め込むとはな」


全くもって自分がろくな人間だ無いことはよく知っている。


「俺は自由に動く。俺の都合で奪うし場合により殺す。例外は無いぞ」


お前も含めてな、という意思を込めフィアの大きな瞳を覗き込む。


「キャハッ、知ってるヨそれは・・・ダッテ、フィアのこと全然信用してないでショ?」


「ああ」


そのとおりだ、だが知っていて何故楽しそうに笑うのか。


「フィアも、誰でも自由に生きたいヨ!おじ様の、その取り繕わないその自由を信じるノサ!・・・フィアはゴハンを食べれて、それで面白ければそれで大満足!おじ様もそれでフィアの事助けたんだよネ?」

「ああ」


大きなガラスのような瞳が覗き込んでくる。心を見図化す様な謎の迫力を感じる。だが恐怖も後ろめたさも存在しない、俺は一切の嘘をついていないのだから。だから即答できる。


「キャハハッ!、だからおじ様の事気に入ったのサ!」


楽しそうに笑いながら空を飛び回る。普通の人間だったら接しがたいだろう。


「・・・お前は変わり者と言われたことはないか?」


「キャハ!ん~まあネ!・・・デモ、おじ様も随分と変わっているんじゃないカナ?こんなに大きなヒトは見たことないし、オド、アアおじ様はオーラって言ってたかナ?それもトッテモ濃いし」


飛び回っていたフィアが顔の前でぴたっと止まる。


「おじ様は、何者なのかナ?」


挑発的な笑みを浮かべて聞いてくる、ニヤニヤしたその顔に息をフーッと吹きかけてやる。


「キャアッ!んもう、おじ様何するのサァ!」


プリプリ怒るフィアを笑いながら答えてやることとする。



「俺はストレンジャー(異邦人 )さ。ストレンジャー(無法者の )アウト・ロウ(異邦人 )だ。・・・覚えておけ」



格好をつけて指差しながらそうキメてみる。


「・・・フフッ、キャハハハハッ!!」


何が楽しいのか知らないが、笑いながら空を飛び回るフィアの姿に、俺はこの世界に落ちて初めて笑い声を上げ、笑った。

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