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伝説のシャベル  作者: KY
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3-4 HAPPY BIRTHDAY!


ジェスチャーでもある程度意思の疎通は可能だろう。ただし此方が欲しいのはもっと踏み込んだ情報だ、それはこの世界は一体どんなものであるか、結晶砂漠は何故できたのか、他に知的生命体は存在するのか云々。



言葉でのやり取りが必要となりそうだ。正直別に妖精が出て行ったりしたところで自分が死ぬわけではないし、一人でいることは苦痛ではない。むしろ誰かに気を使って生きるほうが煩わしく感じる。この世界に落っこちての何年ものサバイバル生活は素朴で、野蛮で、綺麗なものであったと胸を張って言える。


―――ただし、それは少々退屈な日々だ。どうにも頭でっかちの人間には退屈というものが一番の敵となるらしい、まして一度死んだ身だと思えば日々命をつなぐことを1番の喜びにはもうできない。



平たく大きい石を持ってくると妖精の目の前で木炭を使って絵を描く。数秒で出来上がったのは、まるで幼児が意味も無くクレヨンを動かしたかのような線と図形の集まり。それを妖精の前に持ってきて指差す。


困ったかのように眉をひそめた妖精は絵を指差して言葉を言う。


『xzz?』


良し。その言葉を知りたかったのだ。


自分で描いた絵も見ても何を書いたのか分からない。どうみてもただの意味も無い落書きだしそうあれと描いたものだ。だが相手からすればそうは思わないだろう、何かしらの意味が絵にあると思うはずだ。だがそんなものは存在しないし思い当たる訳も無いだろう。そして思わずこう言う筈だ―――「これは何?」と。


ブッシュナイフを床に置き指差すと、先ほど妖精が言った言葉を真似してみる。


『xzz?』


『!?・・・xyy』


妖精は今おそらく「ナイフ」という意味の言葉を言っただろう。指刺したままその言葉を復唱する。


『xyy』


『!』


間髪をおかずに黄花を床に置くと指差して問う。


『xzz?』


『yyzxx!』


復唱。

『yyzxx』


『!!』


妖精の大きな目がさらに見開かれる。意図を理解したのだろう。


次々といろんなものを指差し「これは何?」と聞いてみる。そして返ってきた返事を覚える。物で慣れてきたら今度はジェスチャーをしながら聞く。走っているポーズ、食べているポーズ、名詞だけではなく動詞も覚えていく。何か動きのあるポーズでいきなり「これは何?」と聞かれても困るかもしれないが、こちらが言葉を覚えようとしてる意図がすでに伝わっていれば相手も考慮して返してくれる。



一通りの問答を終えればもう外は薄暗く、夜の青い光が薄っすらと洞窟の中に差し込んでくる。中々に夢中になっていたらしい。しかし収穫は多かった。この調子でいけば簡単な言葉は近いうちに話せるようになるだろう。必要に迫られれば人間は言葉程度すぐ覚える、英語の授業だけでは話せないのは普段使わないからだ。長期留学や移住でもすれば案外あっさりと環境に適応していくだろう。


妖精が目の前でくるりと1回転する。そして自分自身を指差し、こう言った。


『フィア』


それはおそらく「名前」。文法や言語の種類にかかわらない単一の固有名詞。


そして、こちらを指差し、言った。


x z z ?(これは何)



顔が、体が強張るのを感じる。死ぬための墓穴を掘っていたらこの世界に落ちてきて、モンスターとの死闘を生き抜いた日、自分は完全に1度死んだのだ。そしてこの洞窟を掘った大岩の壁に刻んだ―――○△□×、ここに死す。墓標を。


ならば今の自分は何者だろうか?かつての名前を語るのは違う気がする、それはもういない者だ。今を切り開くのは、いやシャベルで掘り砕き進むのはこの今の「自分」だ。



妖精がこちらを見つめている。それは微かに笑みを浮かべながらも真剣なまなざしだ。ならば今決め、答えよう。皮肉気で、自由で、我侭な未来を願う名前だ。


親指で自分の顔を指す。



「・・・ストレンジャー・アウト・ロウ」



気取ったくらいが丁度いい。子供から少し成長した頃、カッコいい感じたダークヒーローを目指して。


俺は異邦人だ。誰にも縛られない。我が道を行くのみさ。


今、真の意味でこの世界に俺は生まれた。

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