2-28 「俺はここにいる。」
湖岸沿いに進んでいると丁度前方に食事中のヒトデ先生が見えた。どうやって落したのか蝙蝠を食べているようだ、急がなければすぐに食べ終えてしまうだろう。
持っている宝玉は緑1、黄色1、橙1、透明2。
木陰に身を隠し、スリングで石を飛ばすと同時に木束の楯を持ちダッシュ。もはや定番のスタイルだ。
石は狙い通り飛んでいきヒトデ先生に、当たった。それはいい、それはいいのだが余程食事に夢中であったのか、迎撃が無い。
ルーチンを組むというのは有用だ、悩む要素が減り判断がしやすくなる。だが不測の事態には弱い。魔法を一つ使わせるという予定が狂った。しかし体はもう前面へと動き出している。これは、危険だ。
一瞬の動揺が判断を鈍らせる、大口も使ってきた不可視の衝撃弾、緑の宝玉の魔法がすでに放たれている。木束の楯に直撃しバラバラに吹き飛ばし木片と衝撃が体を襲う。新調した装備はその丈夫さと耐衝撃性を発揮し仰向けに倒されたものの怪我と呼べる程のものは無い。
だが急いで起き上がる間にも危機は迫っている。ヒトデ先生が次の衝撃弾を放つ前に飛びのく、空中にいる間に背後を衝撃弾の余波が襲い前へと転がされる。
いけない、これは爆発魔法の範囲だ。ヒトデ先生の先手を取るために手を伸ばして爆発魔法を発現させる、だが無理な体勢のそれは外れ僅かにヒトデ先生を揺らすに留まる。時間が止まったように感じた、背筋に冷たいものが走る。次の瞬間に自分の体はどうなるか、防具で何とか防げるか、それとも爆散し食われるか。
死の気配だ、襲い掛かる恐怖、絶望。固まりそうな体、凍りそうな精神。
―――だが、それが思い出させる。以前死に臨んだ記憶を。刺激する。何かへの怒りと己のエゴを。
言葉にならない叫びとともに全身に力を入れる。オーラが自分の進むべき道筋のように前面へ噴き出す。練習のブーストなど児戯のように漲る力、足は湖岸を深々とえぐるほど力強く大地を蹴る。
視線を感じる、目の前のヒトデ先生で無く、周囲の森に隠れたモンスターや獣が何事かとこちらを見ているようだ。噴出するオーラは完成直前のヒトデ先生の爆発魔法の文様をかき乱す。
だがそれでもヒトデ先生の爆発魔法は発現した。体に衝撃が走るがかまわず前進、まだ進めているということは魔法が完全に決まらなかったということか。迸るオーラのせいで魔法など使えない、文様が作れない。篭手の宝玉はオーラを吸収してくるがそれを遥かにしのぐオーラの奔流。ランナーズハイのような実に軽快な気分だ。
槍を投げ捨て進む、軽すぎてつまらない。シャベルを大上段に構えつつ肉薄、何故か逃げようとしていたヒトデ先生へ向け叩き下ろし、振り上げ、叩きつけ、持ち上げ、叩き潰す。
勝利を確信するとヒトデ先生の死体を踏みつけ、叫ぶ。
ウォー・クライ。