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伝説のシャベル  作者: KY
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2-16 牛角さん

 ある日のことだ。一つ前の島はなかなかに大きかったのだが、草木やモンスターに加え小動物さえも少なく、あまり補給ができなかったので足早に次の島を目指していた。しかし予想以上に距離があるようでもうしばらく歩き通している上、砂漠を徘徊するモンスターとも遭遇していない。島影は先に見える、いずれ到着はするだろうが物資の残りが心もとない。空は青く夜となっていたが先へ進むことを優先していた。


 精神の不安は疲労と注意力の低下を引き起こす。自分では警戒して進んでいるつもりでも実情は異なっていたようだ。ふと遠くから響く轟音に疲れた目を向けると何かとてつもなく大きい黒い塊が津波のように迫ってくるのが見えた。


 砂漠を歩いていると退屈紛れではないが、不測の事態に対する対応などを考えつつ進んでいることも多い。それが活きた。


 その塊の進路から逸れるように急いで移動すると蛸壺を急いで掘る、もう穴を掘るのも大分慣れたものだ。そこに身を潜ませつつ目を向ける。敵がこちらに気がついていないようなら身を隠してやり過ごすなり不意打ちを行う。


 しばらく様子を見ていても黒い塊の進路は変わらない、どうやらこちらを狙っているわけでは無いらしい。徐々に近づくにつれ正体が明らかになってきた。


 それは大型の黒いモンスターの群れ。水牛のようなモンスターが感覚器である赤い宝玉を夜の青い光に反射させながら大群で迫ってきていた。


 黒い群れはかなりの速度で接近してきていたが、群れから1頭だけ遅れて必死な様子で走っている。


 今になって考えれば少々無謀なことをしたと思う。だが減り続ける物資に精神が疲弊していたためだろう。それに空腹も相まりその1頭を狩ってやろうという気になっていた。


 よくよく観察すれば左後ろ足を引きずっている。そこに付け入る隙がありそうだ。モンスターの群れの移動速度は速い、しかし身体能力の高まった自分もある程度の速度が出るはずだ。


 槍を構えると走って通過していくモンスターの群れに横槍を入れるよう身を隠していた穴から飛び出て全力で走る。右後ろから群れの最後尾に接触するよう接近すると遅れていた1頭の後ろ足の太ももに槍を突き込む。槍が刺さりもともとバランスの悪かったモンスターが転倒する。


 だが、浅い。槍は穂先から少ししか刺さらず手には軽い痺れが走っている。見た目の巨体どおりに頑丈な奴だ。


 モンスターの群れはその1頭を置いて走り去っていったが手負いのモンスターは嘶くと頭を振りながら突進してくる。痛みも感じないほどに激怒しているのか。群れからはぐれても痛んだ足を引きずりながら猛烈な勢いで突進してくる。


 動きは直線的でかわすのは容易だが1度でも当たれば危険だ。時には横っ飛びに、時には半歩引き攻撃を避けるが相手の体力は無尽蔵なのか、こちらの体力が極度の緊張と回避運動で削られていく。


 目の端にあるものが映った。決意を決めると全力で駆け出す。それを追うように迫る大きな角を持つ黒い大型モンスター。


あわやという瞬間全力で横に跳ねる。それをモンスターは目線で追い、足に力を入れブレーキをかけようとした瞬間。


 上半身が崩れ地面に頭部を強打し横に倒れる。千載一遇の好機、がら空きになった腹部に槍を突き入れる。だがやはり硬い、槍の穂先は刺さったが支えている木の柄が折れる。だが槍を手放しそのまま接近、ブッシュナイフを逆手に持ち力任せに腹の皮を引き裂く。悲鳴を上げ血を流し暴れまわるモンスターだが立つ余力は無いらしい、リュックに括ってある2本目の槍を掴むと慎重に狙い腹の傷に思い切り突き入れる。


 深々と槍が刺さるとしばらくの間、悶えていたがモンスターは力尽きた。


 頭に血の上ったモンスターは気がつかなかった。こちらが避けた先に先ほど掘った蛸壺があったことを。


 モンスターの息絶えた瞬間、久々に感じる強大な熱を持つオーラの奔流が体に走る。腹を減らしていたこともありその牛に似たモンスターの肉を喰らう。



 美味い、旨い、これはウマイ。今まで食べてきた中ではトップクラスだ、まるで適度に油の乗った牛刺しだ。黒い血と混じるとさらにコクがでてくる。血をすすりガツガツと肉を喰らう。


 ためしにと焼いてみる―――これも美味い、ステーキだ。


 腹が膨れるころにはなんとモンスターの巨体の半分ほどがなくなってしまっていた。運べる分肉を取り、余った分は蛸壺の底の砂漠の深層に保管しておき目印をおいておく。


 大きな角は今回壊れた槍の変わりに新しい槍を作る際の穂先とする。牙付きの大牙で作られた今までの槍より少し重くなったが強靭で鋭くなった。皮も次の島付近に拠点を設け加工してみよう。非常に丈夫で大きい、きっと良いものができる。


 美味しく、役に立ちすばらしいこのモンスター、牛角さんと名づけることにした。

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