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伝説のシャベル  作者: KY
202/203

6-26 神話~創世記~


 ―――昔々、この地にはとても大きな力が満ちていた。しかし、そこには力しか存在しなかった。力は何をすることもなくただただそこに在り、永劫の時を重ねるだけであった。


 ある時、そこに秩序を司りし創造神が降り立つ。創造神がその身を震わせると大きな力は集まり、太陽が生まれた。もう一度その身を震わせると大地が姿を現した。創造神がその大地へ降り立つと、そこから泉が湧き、流れる水の側から草木が萌え、風が世界を巡り始めた。こうしてまずセカイが誕生した。



創造神は降り立った地に生えた大きな大きな木の中に住まわれた。水や草木が世界を覆うと、今度は様々な動物を作る。穏やかな動物達はセカイへと広がっていった。


次に創造神は知恵あるものを造った。


最初に造られたヒトは妖精。無邪気で、小さな体で自由に空を舞う彼女達は創造神様の側で生きることを許された。


二番目に造られたのは巨人。寡黙で、大きな体をもつがその力はこの世界には大きすぎた。心優しき巨人達は世界の果てを目指し静かに去った。


三番目に造られたのは獣ビト。獣とヒトとの両方の特徴を持つ彼らは元気に世界中に満ちた草木の中へと駆けていった。


次は、二つのヒトが一緒に造られた。1つはドワーフ、小柄であるが力が強く、その力で岩山に穴を掘って住み始めた。もう1つはエルフ、すらりとしていて身のこなしが軽く森の木々を生活の場とした。


最後に作られたのがヒューマン。今まで造られたヒトの特徴をそれぞれ持って生まれ、秀でたところは少ないが劣ったところもまた無かった。彼らは主に平地に住み始めた。


 そこは楽園だった。獣がヒトを襲うことは無く、草木はその恵みをたわわに実らせ、空は荒れ狂うことも無い。それぞれのヒトの代表者は創造神の住まわれる大樹の周りに集い、妖精たちから伝えられる創造神様の命を守り争い無く毎日を楽しく暮らしていた。


 


 しかし、その楽園は閉ざされた狭き地でもあった。発展も無く苦痛の無い停滞したセカイであったのだ。


 ある日、古の巨人が危機を伝え息絶える。遥か別の地より魔獣が襲来したのだ。魔獣はヒトビトを襲い、平和しか知らずに生きてきた楽園の住人は抗うこともできずに多くの命が失われた。


 ヒトビトは創造神に救いを求めたがそれが叶うことは無かった。創造神は秩序と平和の神であり、破壊と争いを司るものでは無かったからだ。ヒトビトの嘆きの声は大地を覆い空に響く。ようやくにして、初めて争いを知ったヒトビトも良く戦ったものの魔獣の王に追い詰められ絶滅の危機に瀕していた。


 創造神はセカイの危機を悲しみ、その涙はセカイ中を覆いクリスタルとなって、セカイの時は止まった。





 永らくセカイは凍り付いたままであった。しかし、明けない朝が無いように溶けない氷もまた無かった。辺縁より動物が、植物が、魔獣が、そしてヒトが時の楔からはなたれて目覚め、生き、死んでいった。魔獣の王は未だに眠ったままであったが、その目覚めはヒトビトの終わりを意味していた。


 ある時、その荒廃したセカイに巨人の末裔である混沌の王が舞い降りた。破壊を司る王は一人の妖精を供とし眠り続けるセカイへと挑んだ。


 混沌の王は多くを救い、多くを殺した。良く戦い、良く壊した。道を切り開き、魔獣を葬った。その存在は力であり、業火のような力は周囲に熱を与えるものであったが不用意に近づくものを滅するものでもあった。


 ヒューマンの都にて魔獣の王の僕との死闘を越えた後、かつてヒトビトが創造神より授かった至高の宝玉を手にした混沌の王は預言者たる妖精より天啓を得る。創造神からの天啓に従い残りの3つの宝玉を目指し進む混沌の王。道中にてヒューマンを、ドワーフを、獣ビトを、エルフを解放し従えつつ進んでいく。


 ヒトビトは女王に付き従い、女王は混沌の王に仕えた。そして戦いを知ったヒトビトもまたセカイを切り開く力となった。




 長きに渡る戦いの末、ついに混沌の王は始原の地へと至る。だが、魔獣の王は余りに強大であった。混沌の王とヒトビトは一計を案じ古の魔獣の王と今世の強大な魔獣を引き合わせ、争わせた。混沌の王はその間に廃墟となった地を走り、創造神と迎合した。




 創造神は混沌の王に力を託し、永き眠りについた。混沌の王はその力を我が物にした。混沌の王は破壊を司るものであったが、その混沌には秩序さえ許していたのだ。破壊と再生、秩序と混乱、全てを併せ持った混沌の王は狭きセカイを破壊した。


 混沌の王は、大いなる力を導き新しいセカイを創造した。そこには平和があり、争いがあり、善があり、悪があった。そのセカイには広大で果ての無い大地があった。そこには狭きセカイでは無い無限の可能性と自由があった。


 混沌の王はあらゆる生き物を並べ、新たなセカイへと誘う。その中には魔獣の姿さえあった、彼らも最早セカイの一部であると混沌の王は言った。


 そうして、ヒトビトはこのセカイに降り立った。新しき地はヒトビトに大きな苦難を与えたが、大きな喜びもまた与えた。家を建て、食べ物を集め、このセカイへと根付いていく。


 女王はヒトビトを纏めてクニを作った。ヒトビトはクニを大きくし、数を増やし、新たな地を目指すヒトも数多く現れた。そうして様々なクニが生まれた。


 混沌の王はヒトビトをただ見守っていた。成功も失敗もヒトビトの手に委ねられていた。ただ、大きな厄災がもたらされた時のみその力は振るわれた。クニが大きくなるとヒトビトも力を得て混沌の王の力が振るわれることは少なくなっていった。


 ある日、混沌の王を害しようとするクニが現れた。そのクニはその日の夕暮れには沈み、住んでいたヒトビトは罪過の印が刻まれた。そのヒトビトはダークエルフと呼ばれるようになり、深い森の奥へと恥じるように去っていった。ヒトビトは混沌の王を改めて畏れ、敬った。



 永い時が経ち、ヒトビトは増え、繁栄を築く。これを見た混沌の王は大きくうなずきながら告げる。


 ヒトに最後の自由を与えよう、それは滅びの自由だ。


 混沌の王はその供とセカイから旅立ち、全てはヒトビトの手に完全に委ねられた。ヒトは、ようやくこのセカイに独り立ちをしたのだ。滅びも繁栄も、希望も絶望も、全ては我等と共に有り―――私たちはこのセカイで生きていく。




もうちょっと、もうちょっとだけ続きます。

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