6-25 創世
さて、世界を創ろう。
原料の魔力はふんだんにある、広く果てしない世界を。
『デウス・エクス・マキナ』の創った世界はこじんまりとした物であった。それは管理者として目の届く、そして閉ざされた発展の無い世界であった。それが悪いとは一概に言えない、モンスターに襲われるまではそれで平和であっただろうし多くのヒトは不満も無かったであろう。
だが、そんなセカイは御免だ。
もっと広く、もっと自由で、もっと特色のあるセカイのほうが楽しいだろう。一定の気温と湿度、定められた天候、害の無く食用に適した果実を実らせるばかりの植物と牙の無い小動物に虫。これでは何も進歩が起こらないではないか。奇しくもモンスターの襲来によりヒトビトは争いを覚えた、良くも悪くもそれは新しい風を吹き込んだ。
広い世界だ、地球なんぞ戦闘機に乗れば1日もかからずに一周出来てしまうほど余りに狭い世界だ。もっと広く、もっと多様で、もっと刺激に溢れた果てしなく先まで広がるセカイを創り出すのだ。
日本書紀ではイザナギとイザナミは矛で混沌をかき混ぜて日本を作ったらしい。今自分が鼻歌交じりで手に持って遊んでいるのはシャベルだが・・・まあ、こんなセカイもあっていいだろう。
平地を、森林を、密林を、山岳を、海を、湖を、砂漠を、荒野を・・・思いつく限りの地形を作り出し適当に広げていく。そうして、後はランダムに様々な地形を遥か先まで作り出すようセカイの構造に組み込む。とんでもない環境で生物が住めない場所も現れるかもしれないがそれもまた一興。
『デウス・エクス・マキナ』から引き継いだ知識を使い新しい生物や鉱物もある程度群を作り配置していく。どれほどの数が、どれほどの種が生き残るかも分からないが、それも一つの結果だ。
知覚する範囲よりも遠く、広くセカイがどんどん創られて成長していく。セカイ創りはそろそろいいだろう。
シャベルを軽く横に振るう、この行為に意味は無い。気分のようなものだ。
すると遥か続く透明な平面状に様々な生物が種類ごとに纏まって現れる。それは微生物であり、植物であり、虫であり、動物であり、モンスターであり、そしてヒトだった。皆、以前のセカイに居た面々だ。見覚えの無い顔も多いが、それは未だクリスタルに閉じ込められていたヒトやモンスター等もまた今この場に居るからだった。建造物や道具もまた片隅に集められている。
当然何が起こったのかわからない面々は大騒ぎだ、ただしその場からは移動できないようにしてあるため声だけだが。
「グルアアアッ!」「アンオオン!」
モンスター達は2匹の怪獣の怒鳴るような鳴き声で大人しくなる。
ヒトビトの方は・・・どうにも騒ぐ者の周囲の音を遮断する。大人しくなった。
「では、まずお前達からだ」
『キマイラ』及びその一群に声を掛ける、時の楔から開放され独自にクリスタルの砂漠の世界で生き抜いてきた生物。これも今やセカイの一部だろう。
軽く手を振るといくつかのゲートが出現する。森林、草原、荒野、水辺、等々だ。
「オンアオオオオオン!!」
高々と声をあげると『キマイラ』は荒野に向けて走り出す。それに結構な数が続く、だが草原を選ぶものや森林等を選ぶものも多く居た。変わったものは雪原や山岳地帯へと進んでいった。それもまた一つの選択で好ましい。
「次はお前らだ」
「グルァ・・・」
幾らかのモンスターが色々なゲートへと飛び込んでいったが、『ベヒモス』は動かず様子が少しおかしい・・・どこか悲しげだ。そこでふと思い出す、魔王獣を倒すごとに見た白昼夢を。あれは死と同時に放散された魔力が見せた夢だったのか、薄暗く紅い空、真っ黒な大地、黒くて奇妙な植生。かつてのモンスター達の故郷、彼らはそこへの帰還を熱望しこのセカイを敵とみなしその中心部へと突っ込んで行ったのだ。
「悪いが帰す事は無理だ、仮に帰れたとしてもお前たちの居場所は最早無い・・・だがこのくらいならいいだろう」
セカイの一画にモンスターたちの故郷を模した空間を創る。セカイというものが極めて数多く存在し、そしてどれほどの時間が経ったか分からない為にこいつらはもはや帰還はできない。だが、次のセカイでは、自由なセカイではそんな奴等も受け入れよう。
『グルアアアアアアアアアッ!!!』
お辞儀をするかのように頭を激しく上下させると『ベヒモス』を中心としたかつてこのセカイに紛れ込み、クリスタルで時間を止められていたモンスター達の一群は紅く黒い場所へと続くゲートに飛び込んでいった。
虫や小動物も次々と様々な環境へと繋がるゲートへと自分の思うままに飛び込んでいく。植物も適した環境のゲートへと投げ込んでおいた。そして、最後に残ったのは―――――。
「巨人様」
「何だ、クイーン」
「創造神様はどうされたのでしょうか?」
「眠った、ようやくな。そして、まあ託されたのだろう」
「・・・私たちはどうなるのでしょうか」
「さあな、生きて、死んでいくだけだろう。だが・・・そこは、自由でとても広い場所だ。危険があり、平穏があり、喜びがあり、悲しみがあるだろう。楽園ではないが地獄でもない、そこを好きに生きていくといい」
「ふふっ、巨人様らしいですね・・・楽しみです」
「ロッカー、最後まで生き延びたな」
「き、恐縮です・・・」
「これからも上手く生きるがいい」
「は、はい!」
「・・・旦那」
「ナコナコか」
「私の知っているのはこのセカイだけだった、この先どう生きていけばいいんだろう」
「下らん、新しく学べるものが多いんだ。喜んで知識欲を満たせ、退屈はせんぞ」
「・・・ああ、そうだね。また学生からやり直すよ!」
「巨人殿」
「ナイト、これまでご苦労だったな」
「これからが大変になってくるでしょう、ますます頑張らなければ」
「ククッ、よく分かっている」
「恐縮です、この先のことは分かりませんが今まで頑張ってきて良かったと思います。」
「ああ」
「あの、巨人様」
「元王女か、すっかり影が薄くなっていたな」
「ううっ、地味な仕事ばかりですが頑張ってやっていましたよ・・・。なら、最後に元王女として一言、貴方様のおかげで多くのヒトビトが救われました、ありがとうございました!・・・・もう新しいセカイに行くのでしょう、王女も何も無いでしょう」
「俺は好きに動いたに過ぎん、助けたし、殺しもした。が、礼は受け取ろう、ミーナ。」
「はい!」
「ははっ貴方について来てよかった!これほど面白い事が人生で起こるなんて予想もしなかったよ!」
「ミレイか、楽しめたなら何よりだ」
「これだけ広いセカイなら、どこまでもどこまでも旅が楽しめそうだ、礼を言うよ」
「気にするな。好きにやったことだ・・・赤妖精はどうする」
「赤妖精じゃなくてボクはルヴィって名前があるよ!まあ、ミレイを放っては置けないからね。頭が痛い日が続きそうだよ・・・でも、楽しそうだ!」
「ああ、大いに楽しめ」
パーーーーンッ!
「キグルミ・・・」
パパーーーーーンッ!
「お前は・・・まあ、いいか。」
パパパーーーーーーンッ!
「・・・相変わらず変わった奴だ」
「ネエネエおじ様!」
「何だフィア」
「フィアはね、とってもとーーーーっても楽しかったヨッ!アト・・・これからも、ずーーーーーーっとおじ様と一緒だからネ!!」
「・・・物好きな奴め、勝手にしろ」
「ウン!」
さて、この平面の空間も最早用無しだ。では始めるとしようか。閉ざされた未来の無い楽園ではなく、果てしなく広い未知の世界で『生きる』道を――――!!!!
まだもうちょっとだけ続くんじゃ・・・よなよなビール美味い!エールは味があってホント好きです。




