2-10 琥珀標本
水の問題、成るほど確かに重要だ。生命線とも言っていい。―――だがそれ以上の驚きの発見があった。
腹を下したとき、穴を掘って埋めるのは汚物だけではなかった。拭く紙代わりに適当に集めた葉っぱの中から柔らかそうなものを選んで使っていたのだ。比較的柔らかそうで、つまり萎れやすそうな葉を多用し共に埋めた。これもまた、穴の深さにより変化が見られていたのだ。
こちらは一定の深さになるまでは浅いほうが深いほうよりかは萎れているかな、と思う程度であった。しかし注目すべき点は其処ではなかった。ある程度の深さ以上、たまたま深く穴を掘って埋めたときのものは。一切変化が見られなかった。
最初は水を通さない砂漠深部の性質のせいかと思ったが腑に落ちない。押し花のようになっていたなら兎も角、葉の下には汚物があるのだ。染みるなり腐敗するなどして色の変化等あってもしかるべきではないか。
近くの島へ上陸、あまり植生上見なくなってきた黄花を何とか集めてくる。また、白玉も殻をむいていくつか用意をする。それを水の保持実験に使った穴に置き同じ深度の砂、というか樹脂というか―――をかぶせてしっかりシャベルの背で固める。一体どうなるのか。数日は様子を見ることとする。
さて、その間にもう一つ実験をしてみることとする。砂漠にシャベルを振るいひたすら掘る。2m程の深さの縦穴を作ると今度は横に掘り進める。もう日が暮れそうだ、中々時間がかかったが穴を掘り終える。中に入ると縦穴の入り口に枝や革、石等を組み合わせた蓋を置く。
シェルターの完成だ。時間はかかるが、久方ぶりにゆっくりと寝る事ができそうな場所ができた。どうしても野営は疲れる、神経をすり減らす。その中で最低限の睡眠はとれるよう慣れてきたもののやはりしっかりとした休息は必要だ。多少水が入ってくるかもしれないが横穴の入り口の近くに深めに穴が掘ってある場所があり其処へ流れていけば大丈夫だと思う。
かろうじて座れるほどのスペースで一息つく、このシェルターを作るだけでかなり体を鍛えることができそうだ。光る性質を持つこの大地のおかげでシェルター内は明るいが、少々寝にくいかもしれない。アイマスク代わりになりそうな布切れをリュックから出しておこう。
寝床のために床を綺麗に馴らす―――下を見る。圧倒される。これはすごいものだ、動くのに夢中で今まで気がつかなかったのが不思議なほどだ。これは、とてつもない。
地下世界。
岩が、土が、島影らしきものまで。数多くのものが透き通る大地越しに目に入る。琥珀に閉じ込められた昆虫のように、樹脂に覆われた標本のようにそれらは存在していた。その幻想的な姿はまさに圧巻だった。
木ですら青々とした葉をそのままに閉じ込められているのが見える。そしてこの瞬間、この度の実験の成功を確信するのであった。




