6-20 シンワ~天地創造~
もう一丁!
ここから、まずは『セカイ』というものを造る。宇宙まで再現する必要も無く、管理に適した広さと環境があれば事足りる。かつて管轄していた都市をなぞるかのように大地と空気と擬似的な太陽とを生み出した。
次に下地となる植物や微生物を造り出す、だがその種類と数は大分限られたものとなる。勿論片手で数えられる程度の数では到底無いのだが、それでも数え切れないほどの種が存在していた環境から見れば随分とシンプルな構成であった。だが管理という観点上から見れば最低限で無駄が無く、かつ多様性を持たせた選定であった。ただ、セカイの壁というものが薄いせいかそのセカイ、そして生物の細胞内には未知のエネルギーが流入することとなった。が、これは大きな問題とはみなされなかったし事実そのとおりだった。
十分に下地を作ると、次にその『モノ』は管理すべき存在、街に生きる存在を造り出そうとした。試行錯誤の末、最初に量産可能なプロトタイプとして造られたのがFR型、妖精という種族に当たる。自立的な思考と行動を可能にさせた、主にハードよりもソフトを優先させたその種族は小さく丈夫に造られ、そしてエネルギー源として主に外部の未知エネルギーで賄えるものとなった。ただしこの頃にはまだ性別は無く羽すら、内臓すら殆どが存在していなかった。
事前の計算どおりに自意識を持ち活動することが可能な原始妖精種ではあったが、それらはほぼ毎日じっとしているのみで最低限危険を感じたら動くものの、まるで植物に近いものとなってしまった。その『モノ』は再び思考と計算を何億回も繰り返す、そして導き出された結論はよりかつての自分の主人に近づけてみることだった。
原始妖精には大きく手が加えられた。ただ魔力を活動するエネルギーに変換させるだけの器官以外に、舌が、食道が、消化管が形成された。それは大分簡易なものであり食事という機能で見れば用を足してはいないものではあった。活発に動けるように羽も造られた。さらに生殖器も形成された、ただしソフトの実験体である妖精については遺伝的多様性を余り考慮せずに女性体で占められることとなった。
ギンブナという魚がいる、これは殆どがメスであり、単為生殖で数を増やす。他の魚からの精子を受けギンブナの卵子は細胞分裂を開始するのであるが、この際には精子は刺激を与えるだけであり卵子には侵入できない。DNAセット数の多い3倍体をもつギンブナは擬似的に自分の細胞内だけで精子の役を担うDNAを持ち受精卵のように増殖していく。妖精もまた似たような構造を持って造られていた。
妖精は予想通りに活発に活動を開始する。ここでソフトの実験は成功裏に終了したが、妖精を処分することに関してはエラーが生じる。自意識を持った妖精は管理されるべき対象となってしまっており自発的な処分はその『モノ』の思考回路の根底に反するものであったからだ。結果、妖精は一種族として確立されることとなった。
次に検討されたのはハード面に関してだった。妖精のボディはヒトに近い形状をしていたものの、その構成は大きく異なるものだった。飛行可能なほど軽量だが弾力性を持ち丈夫な肉体、小さな頭部でも知能を持たせるために脳や器官の構造もまた異なっていた。これは目指している管理体制とは異なるものであったため、妖精はセカイに余り拡散しないように、住処となり、他のどの場所よりも過ごし易い巨木を造る事となった。
ハード面のプロトタイプとなったのが、巨人だった。妖精に比べると遥かに複雑な体内構造を持つ事となる、内臓も形作られ呼吸、食事による熱量及び身体の構成を獲得。手足の筋肉で自由に活動することも可能となる。プロトタイプであるために内臓のサイズや性能をかなり余力を与えたものになっておりその分サイズは大きく、極めて高い身体能力を得るに至った。
しかしながらソフト面にいたっては殆ど考慮されていないものだった。自発的に考える知能は無く与えられた命令を繰り返すロボットに近いものとなった。身体の構成としては遥かに妖精よりもヒトに近いものの、その存在はヒトとは言い難いものとなった。管理対象ともならずに各種の実験や耐久試験、交配実験までもが行われ初期に生産された巨人の多くは使い潰された。
改良やデータ収集が十分に行われたと判断された後、巨人は最終的な実験としてセカイの果てまで進み続け異常があればそれに対処するようプログラムが為されて放逐に近い形で開放された。勿論進み続けて力尽きた巨人たちは地面に還っていった。
巨人の製作により得られたデータは家畜となる動物の構成に用いられ、いくつかの種が造られてセカイに放たれた。その動物たちの活動は予想以上に高評価であり、その素体を生かしたヒトのプロトタイプもまた造られることになった。
そうして造られたのが獣人だ。獣といっても最も高い評価を受けた一動物が素体であるために犬や猫の獣人といったものは存在せず単一の種であった。大体のデータは妖精と巨人及び動物から得られているために余り時間を書けることも無く作成された。それは予想通りに頭脳、身体能力共に合格点に達していた。ただし、その元となった動物の本能的なものなのかあまり密になり過ぎない草木の茂る場所を好むようだった。潤沢に実る果実や作物、多くの動物は獣人たちの糧となった。
そう時を置かずして局地における性能と身体バランスの検討を行うために2つの種族が造られた。一つはドワーフ、がっしりとして背の低い動きは遅くとも力のある種族。もう一つがエルフ、すらりとして非力だが身のこなしが軽い種族。それぞれ山と森林に配置されデータが採取されることとなった。
そうして、最終的にかつて管理していた都市に住んでいたヒトに近いものの再現としてヒューマンが造られた。汎用性がありバランスがいいものの特化しているところも無いので平地を好んだ。それは計算どおりでありこのセカイで平地はかなりの割合を占めていた。
こうしてこのセカイには5つの種族が管理される対象として暮らし始めた。だが、創造主たるその『モノ』は最終的にこれらが失敗であるとして結論付けざるを得なくなった。
バーボンは薫り高く飲み口もいいけれど結構ツンとキツイですね。これはこれでいいですけど、あんまり薄くした蒸留酒は飲みたくのでソーダと水割りはなんかなぁ・・・そこそこいいものを買ってしまったのでもったいない。




